公務員制度改革の、鳩山内閣案を見て、古賀茂明は愕然とし、焦燥感を募らせた。とても政府に危機感があるとは思えなかったからだ。重要なのは、今回の改革が平時のものか、非常時のものか、という認識だ。
日本の国家財政はぎりぎりの状態にある。企業でいえば民事再生や会社更生の申し立てを検討する段階だ。企業再生時には、一時的経営悪化とはまったく異なる大胆な改革が必要となる。さらに最も特徴的なのは、ウェットな風土の日本企業でも、再生段階ではドライに大胆なリストラが実施される、という点だ。
国家には通常、破綻は想定されていない。だが、現実に日本の国家財政は火の車で、さらに年々借金が積み重なり、成長のための投資もままならない。破綻を回避するためには、無駄な歳出削減と成長力アップによる税収増をはかる必要がある。それでも足りなければ、増税も避けて通れない。
ところが、実は、歳出削減、成長力アップ、増税、これらのいずれも公務員のリストラなくしては実現できない。
消費税増税だけでは財政再建はできない。が、日本国民は悲しいまでも真面目だ。消費税増税はもはややむを得ない、と思い始めている。
しかし、仮に国民が増税を覚悟しているからといって、将来の絵を描かないまま「当面」10%などという無責任な増税を認めるほど国民はバカではない。いかに増税幅を抑えるか、真剣に考えなければならない。
そのためには、増税の前に徹底的に行政のムダを省き、ムダな歳出を大幅にカットする、成長の足かせになっている様々な既得権にメスを入れ、将来の経済成長の基盤を作る、といった改革が必要だ。それができなければ、財務省の増税による財政再建路線で消費税30%を目指すことになるだろう。
もちろん、そんなことをすれば、消費は大きく落ちこみ、日本経済が破綻するのは明らかだ。
「身分保障」の美名のもと、仕事がなくなった人を増税で雇用し続けることは許されない。時代についていけない幹部官僚を守り続けることは最早、犯罪といってもいいだろう。
高給取りの年寄り公務員を削減すれば、優に1,000万円のカネが浮く。キャリア組だけでなく、ノンキャリア組を含め、50歳前後の公務員は、優に1,000万前後の年収を得ている。一方、年間200万円の支援があれば命を助けられる民間失業者はたくさんいる。仮に、1,000万円の高級を取っている高齢職員1人をリストラすれば、病気や失業で苦しむ国民、5人が救われる計算になる。
公務員は、世間相場より高い給与をずっと支給されてきた。都心の一等地の官舎にタダ同然で住み、その間ゆとりを持って貯金できる。蓄えは民間人より多いだろうし、高額の退職金も出る。急場は凌げるはずだ。贅沢をいわなければ、再就職の道がまったく閉ざされているわけではない。
しかも、単にリストラができる、というだけでなく、若手や民間人の登用によって、これからの思い切った改革の推進体制を整えることもできるのだ。国民のために働きたいと望み、公務員になったモノには十分理解できることだ。
ところが、霞が関の大勢はそうではない。既得権益を守るため、改革に頑強に抵抗している。そのうちにも、日本の病状は臨終の間際まで進む・・・・。
鳩山内閣の政府案は、衆議院通過後、会期切れで結局、廃案となったが、強い危機感と焦燥感を抱いた古賀は、いま記した内容を含む早急な改革の進展を訴えた論文【注】を『エコノミスト』に、敢えて実名で機構した。
霞が関は震駭した。
【注】「現職官僚が斬る『公務員改革』 消費税大増税の前にリストラを」(「週刊エコノミスト」2010年6月29日号)
以上、古賀茂明『日本中枢の崩壊』(講談社、2011)に拠る。
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【参考】東京電力の原発事故については「小出裕章(京大助教)」非公式まとめ」があり、国民に背を向けて省益しか考えない霞が関については「古賀茂明(経産省大臣官房付)発言まとめ」がある。
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