内閣は、確固たるリーダーシップを打ち出せない。
枠にとらわれない斬新なアイデアを出すことのできる官僚やブレーンは、現れない。
被災地と原発事故に対して今後も適切な対処ができない場合、日本は最悪のシナリオをたどることになる。すなわち・・・・
今回の震災で被災地はかなり人口が減った。産業も大きな打撃を受けた。交通網を始めとするインフラも壊滅的といってよい被害を被った。
白紙の状態から絵を描くことが必要になった。
にもかかわらず、政府から具体的な復興の全体像は出されない。ようやく6月20日に復興基本法が可決成立、続いて政府の復興構想会議の第一次提言が報告されたが、具体策の策定はこれからだ。換言すれば、これまでのところ、大局的な見地から全体を見渡せる人間も組織も存在していない。
さまざまな復旧・復興案が全体像のないまま準備され、独り歩きしている。それが二次補正案に盛りこまれた。三次補正も同様だろう。
すると、結局は、従来どおり縦割りで復旧・復興が進められてしまうことになる。
その結果、公共事業だけが着々と実行に移される、といった事態が出来する。つまり、同じところに同じような道路や建物をつくることになる。
これは、「公共事業を生活保護の代わりにする」という発想だ。公共事業を行うことで被災地に雇用が生まれ、被災者の生活が保障される、という主張だ。おそらく30兆円ほどの規模になるだろう。
だが、その30兆円はどこから捻出するのか。
政治家と財務省の頭には増税しかない【注】。国民は「被災地のためだ」と我慢するだろう。
増税によって経済成長が期待できるなら、まだいい。しかし、公共事業で経済成長が芽吹くか、はなはだ疑問だ。病院や学校は必要だが、仮設住宅をつくったり動かしたり、あるいは人が住まなくなったところに道路や橋をつくっても、何の生産性も生み出さないから経済成長は期待できない。よって、税収はどんどん落ち込んでいく。
他方、社会保障のカットは、反発が強くて政府にはできない。よって、支出はますます膨らんでいく。それを賄うため、また増税せざるを得なくなる。
そうやって税金がどんどん上がっていけば、逆に消費はどんどん冷え込んでいく。モノを売る側からすれば、消費税が上がれば上がるほど利益は落ちていくから商売が成り立つわけがない。
そして、ある日、国民は気づくのだ。
「増税すれば財政再建できる、と言っていたが、ぜんぜん出来やしないじゃないか」
国際マーケットが注視しているのは、じつは借金の「額」ではない。借金を返済できるかどうか、だ。
増税するならば、その前にさまざまな改革を行い、「これだけ成長の芽が生まれた」と明確なメッセージを出さなければならない。その芽が実をつける(税収となって表れる)のは数年先だから、それまでのつなぎとして国債を発行する。成長軌道に乗っても足りないぶんは増税する・・・・。
成長→企業や個人の所得が向上→税収増加・・・・それが本来のやり方だ。もしくは、足りないぶんを補うための方法であるべきだ。
しかるに、日本政府が進めようとしているのは、成長の可能性をいっさい示さず、「とりあえず」増税する、ということだ。増税で財政を再建しようとしているのだ。もはや取れないところから、さらにむしり取ろうとしているのだから、誰が考えてもうまくいくはずはない。
となれば、国際マーケットが日本を見離す。
国債暴落→超円安→輸入品価格の高騰→インフレ・・・・当然、貨幣価値も一気に下がるだろう。
そうなっても円安のおかげで輸出が伸びるなら、しばらくは持ちこたえられるかもしれない。が、おそらく、そのころには多くのメーカーがすでに海外に拠点を移しているはずだ。国内には競争力のある企業がほとんど残っていなくて、円安のメリットはほとんど期待できない。
インフレに比例して給料が上がればまだしも、企業にそんな余裕はない。したがって、給料は変わらず物価だけ上昇するから、生活は苦しくなるばかりだ。
これに追い打ちをかけるのが、日本の食料自給率の低さだ。カロリーベースで40%しかない。米だけは1年間はなんとかなるだろう。しかし、肥料が輸入できず、翌年は栽培できない事態も充分に起こり得る。
となれば、餓死者が相当数出るのは必至だ。食料だけでなく、灯油やガソリンも高騰するから、寒冷地では凍死者もたくさん出るだろう。そして、そのようなしわ寄せは、まず貧しい人を襲う。
それを救う力は、すでに政府閉鎖に陥っている政府に無い。政府のサービスはすべて打ち切られ、「すべて自己責任でやってくれ」と力なく言うだけだ。
・・・・こういった最悪のシナリオが現実になる日を、今回の東日本大震災は一気に早めた、とも言える。
【注】増税は、対外資産や外貨準備の活用と違って、納税者が使える資源が減り、政府が使える資源が増えるだけだ。日本全体として使える資源の総量に変化はない(「【震災】復興資金調達>財務官僚の観点と日本経済の観点」)。
以上、古賀茂明『官僚の責任』(PHP新書、2011)第1章「『政治指導』が招いた未曾有の危機」に拠る。
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