日本医師会は、震災発生直後に対策本部を立ち上げ、災害医療チーム(JMAT)派遣を決定した。各都道府県の会長自らが早々に現地に入るなど、積極的な取り組みが目立った。
JMATは、医師会中心で始まったが、病院団体などからも参加が相次ぎ、すでに1,300を超えるチームが派遣されている【注1】。災害時、これほど大規模な医療界全体の動きにつながったケースは初めてだ。
日医は開業医の団体だから、もっても1ヵ月、という政治家の発言があったが、実際は4ヵ月後の今も派遣は続いている。
被災地では多くの病院、診療所が全壊した【注2】。
開業医が個人で新たに借金して診療所を再建するのは、たいへんな負担だ。二重ローンを負うなら、なおさらだ【注3】。被災後もスタッフを守るため生活費の面倒を見ている医師も多い、と聞く。
各種の補助金や医療福祉機器の融資などはあるが、現状の水準のままではとても追いつかない被害規模だ。
昔の診療所はそれなりの収入があったから、民間銀行は医師というだけで貸してくれた。しかし、今は開業医も倒産する時代だ。
それに、今の診療報酬体系では、地域医療を担う診療所が数億円の借金を返済するのは難しい。必要な医療機器は仮に中古品であっても決して安くない。一般の医師、とりわけ高齢の医師への融資は望み薄だ。
原発事故の補償に関しても、医療機関にはまだ支払いが行われていない。補償スキームの策定を待っていたら、潰れてしまう診療所も続出する。一時的に政府が立て替え払いをせざるをえないのではないか【注4】。
日医でも、各県の医師会と協力して国や東電に補償を求めていく。
医療機関の喪失は被災者の命に直結する。一刻の猶予も許されない。
中央社会保険医療協議会(中医協)で診療報酬改定をめぐる議論が始まったが、問題が多い。今回の改定は見送るべきだ。
震災後の混乱が続くなかで行われる医療経済実態調査が、医療機関の実態を表したものになるか、はなはだ疑問だ【注5】。こうした非常時に、大規模な医療費の調査など行っている場合か。厚生労働省もは、被災地に幹部を張り付かせるなど、調査に使う労力を現場に振り向けてもらいたい。被災者対策に注力すべきだ。
現在の診療体系にも問題がある。前回の改定で収入が最も伸びたのは、大学病院だ。続くのが、ベッド数500床以上の大病院だ。
だが、肝心の医療過疎地の医師数や医師の給与などはまったく改善されていない。本末転倒、前回の改定趣旨と逆行する。医療過疎の解消のカギとなるのは地域の中小病院、診療所、とりわけ有床診療所の充実のはずだ。
それなのに、最近の改定の内容はこれらの医療機関にきわめて厳しい。
地域医療の根源にあるのは、やはり診療所だ。有床診療所に相応の点数がつけば、回復期リハビリ、終末期の在宅医療、看取りなどの喫緊の重要施策の大きな力となるはずだ。
以上、インタビュー:原中勝征・日本医師会会長「『診療所こそ地域医療の根源だ』」(「週刊ダイヤモンド」2011年7月23日号)に拠る。
【注1】例えば、石巻市河北地区の集落では、諏訪中央病院やNPO法人日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)による診療活動、東京歯科保険医協会による歯科診療活動が続けられている。(記事「医療機関『ゼロ』からの出発 無医地区を救う医療支援 動き出した仮設診療所」、前掲誌)
【注2】例えば、岩手県沿岸市町村の医療施設は、13病院、48診療所が全半壊に陥った。地域医療の中核を成してきた県立病院も、山田、大槌、高田の3病院が全壊した。(記事「どうする地域医療の『再構築』 薄氷の医療体制が顕在化 無床の嵐が襲う沿岸部」、前掲誌)
【注3】民間医療機関は、病院総数の約7割、医科診療所の8割以上、歯科診療所の99%以上だ。しかし、国や自治体による民間医療機関への支援策は、公的医療機関と比べて手薄だ。岩手県は、4月および6月の補正予算で「被災地医療確保対策緊急支援事業」として計12.2億円を計上、うち既存施設の修繕や機材の再取得などの経費の補助に4.8億円の独自予算を設けたが、宮城県や福島県には同様の施策はない。(記事「民間病院・診療所の『再建問題』 多額の復旧費と二重債務 待ち望まれる国の支援策」、前掲誌)
【注4】(a)南相馬市の小野田病院は、昨年新設した「透析センター」を原発事故後に閉鎖した。患者がいなくなった今、投資負担が重くのしかかる。(b)同市に2つあった精神科病院も、原発事故で休止に追いこまれた。そのうち雲雀ヶ丘病院(254床)は、6月22日から週2日に限って外来診療を開始。ただし、入院医療再開の見通しはない。一時休止の結果、常勤職員159人のうち28人が退職、103人が休職扱いで復職のめどが立たない。常勤医師の確保にも難儀している。(c)同市原町地区にある大町病院(188床)は、3月21日までに入院患者全員を県内外の病院に搬送させ、入院を休止。震災前に200人近くいた看護職員は退職や休職で約50人に減少。妊婦や子どもの避難で成り立たなくなった産婦人科や小児科は休止に追いこまれた。(記事「『原発30キロ圏』の医療危機 命をすり減らす住民 追い詰められる病院」、前掲誌)。
【注5】中医協は、被災地の医療機関の負担を考慮し、建物等が流出・倒壊した地域には調査票は送らない、とし、別途事前に協力の了承を得た上で調査票を送る地域も設けていた。ところが、厚生労働省から調査事業を受託したみずほ情報総研が、これらの地域の医療機関に調査票を誤送してしまった。その後、同総研の基本的な統計データ処理の内容にも誤りがあったことが判明し、混乱に拍車がかかった。6月22日の中医協総会は荒れに荒れ、過去の改定の前提となったデータにも疑問が呈された。(社会保障と税の『一体改革』が大迷走 6年に1度の同時改定 診療・介護報酬の行方」、前掲誌)
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JMATは、医師会中心で始まったが、病院団体などからも参加が相次ぎ、すでに1,300を超えるチームが派遣されている【注1】。災害時、これほど大規模な医療界全体の動きにつながったケースは初めてだ。
日医は開業医の団体だから、もっても1ヵ月、という政治家の発言があったが、実際は4ヵ月後の今も派遣は続いている。
被災地では多くの病院、診療所が全壊した【注2】。
開業医が個人で新たに借金して診療所を再建するのは、たいへんな負担だ。二重ローンを負うなら、なおさらだ【注3】。被災後もスタッフを守るため生活費の面倒を見ている医師も多い、と聞く。
各種の補助金や医療福祉機器の融資などはあるが、現状の水準のままではとても追いつかない被害規模だ。
昔の診療所はそれなりの収入があったから、民間銀行は医師というだけで貸してくれた。しかし、今は開業医も倒産する時代だ。
それに、今の診療報酬体系では、地域医療を担う診療所が数億円の借金を返済するのは難しい。必要な医療機器は仮に中古品であっても決して安くない。一般の医師、とりわけ高齢の医師への融資は望み薄だ。
原発事故の補償に関しても、医療機関にはまだ支払いが行われていない。補償スキームの策定を待っていたら、潰れてしまう診療所も続出する。一時的に政府が立て替え払いをせざるをえないのではないか【注4】。
日医でも、各県の医師会と協力して国や東電に補償を求めていく。
医療機関の喪失は被災者の命に直結する。一刻の猶予も許されない。
中央社会保険医療協議会(中医協)で診療報酬改定をめぐる議論が始まったが、問題が多い。今回の改定は見送るべきだ。
震災後の混乱が続くなかで行われる医療経済実態調査が、医療機関の実態を表したものになるか、はなはだ疑問だ【注5】。こうした非常時に、大規模な医療費の調査など行っている場合か。厚生労働省もは、被災地に幹部を張り付かせるなど、調査に使う労力を現場に振り向けてもらいたい。被災者対策に注力すべきだ。
現在の診療体系にも問題がある。前回の改定で収入が最も伸びたのは、大学病院だ。続くのが、ベッド数500床以上の大病院だ。
だが、肝心の医療過疎地の医師数や医師の給与などはまったく改善されていない。本末転倒、前回の改定趣旨と逆行する。医療過疎の解消のカギとなるのは地域の中小病院、診療所、とりわけ有床診療所の充実のはずだ。
それなのに、最近の改定の内容はこれらの医療機関にきわめて厳しい。
地域医療の根源にあるのは、やはり診療所だ。有床診療所に相応の点数がつけば、回復期リハビリ、終末期の在宅医療、看取りなどの喫緊の重要施策の大きな力となるはずだ。
以上、インタビュー:原中勝征・日本医師会会長「『診療所こそ地域医療の根源だ』」(「週刊ダイヤモンド」2011年7月23日号)に拠る。
【注1】例えば、石巻市河北地区の集落では、諏訪中央病院やNPO法人日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)による診療活動、東京歯科保険医協会による歯科診療活動が続けられている。(記事「医療機関『ゼロ』からの出発 無医地区を救う医療支援 動き出した仮設診療所」、前掲誌)
【注2】例えば、岩手県沿岸市町村の医療施設は、13病院、48診療所が全半壊に陥った。地域医療の中核を成してきた県立病院も、山田、大槌、高田の3病院が全壊した。(記事「どうする地域医療の『再構築』 薄氷の医療体制が顕在化 無床の嵐が襲う沿岸部」、前掲誌)
【注3】民間医療機関は、病院総数の約7割、医科診療所の8割以上、歯科診療所の99%以上だ。しかし、国や自治体による民間医療機関への支援策は、公的医療機関と比べて手薄だ。岩手県は、4月および6月の補正予算で「被災地医療確保対策緊急支援事業」として計12.2億円を計上、うち既存施設の修繕や機材の再取得などの経費の補助に4.8億円の独自予算を設けたが、宮城県や福島県には同様の施策はない。(記事「民間病院・診療所の『再建問題』 多額の復旧費と二重債務 待ち望まれる国の支援策」、前掲誌)
【注4】(a)南相馬市の小野田病院は、昨年新設した「透析センター」を原発事故後に閉鎖した。患者がいなくなった今、投資負担が重くのしかかる。(b)同市に2つあった精神科病院も、原発事故で休止に追いこまれた。そのうち雲雀ヶ丘病院(254床)は、6月22日から週2日に限って外来診療を開始。ただし、入院医療再開の見通しはない。一時休止の結果、常勤職員159人のうち28人が退職、103人が休職扱いで復職のめどが立たない。常勤医師の確保にも難儀している。(c)同市原町地区にある大町病院(188床)は、3月21日までに入院患者全員を県内外の病院に搬送させ、入院を休止。震災前に200人近くいた看護職員は退職や休職で約50人に減少。妊婦や子どもの避難で成り立たなくなった産婦人科や小児科は休止に追いこまれた。(記事「『原発30キロ圏』の医療危機 命をすり減らす住民 追い詰められる病院」、前掲誌)。
【注5】中医協は、被災地の医療機関の負担を考慮し、建物等が流出・倒壊した地域には調査票は送らない、とし、別途事前に協力の了承を得た上で調査票を送る地域も設けていた。ところが、厚生労働省から調査事業を受託したみずほ情報総研が、これらの地域の医療機関に調査票を誤送してしまった。その後、同総研の基本的な統計データ処理の内容にも誤りがあったことが判明し、混乱に拍車がかかった。6月22日の中医協総会は荒れに荒れ、過去の改定の前提となったデータにも疑問が呈された。(社会保障と税の『一体改革』が大迷走 6年に1度の同時改定 診療・介護報酬の行方」、前掲誌)
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