円の外へ

20070121開設/中学高校国語授業指導案/中学校学級経営案/発達症対応/生活指導/行事委員会指導

ぼくのせい

2010-10-14 05:56:00 | blog映画Diving
2010/10/14up全ページ目次
ぼくのせい

ぼく、ほんとはまだ子供なんです。

きのうの夜テレビを見てたら、死んだ人が見える男の子の映画がやっていました。
ぼくとおんなじくらいの男の子が出ていました。
途中でテレビが真っ黒になって、こわれたのかと思った。
そしたら、真っ黒いテレビの中に、その男の子の顔だけうつったんだ。
じっとぼくを見てる。
テレビじゃないみたいで変だった。
その子はぼくに話しかけた。

「きみのお母さん死ぬんだよ」

「・・・え」

「死んじゃうんだ」

「うそだ」

「ほんとだよ。でも、今すぐじゃないよ」

「いつ」

「あと十年くらい」

「それじゃあ、ぼくまだ大人になってないよ」

「そうだよ」

「なんで死ぬの」

「病気。すごく痛い病気。君が今テレビで見たみたいに、いっぱい吐くんだ」

「なおんないの」

「うん」

「うそだよ」

「何回も手術するんだ。でも助からない」

「そんなことわかんないよ」

「きみはお母さんがずっと入院してても全然おみまいしないんだよ」

「だから死んじゃうの」

「ちがうよ。でも大人になってからこうかいすることことになるんだ」

「こうかいってなに」

「まいにちおみまいしとけばよかったっ、て思うことさ」

「じゃあ、おみまいするよ」

「きみのお母さん、七月九日に死ぬんだよ」

「じゃあ、あしたじゃん。あした死ぬの」

「そうさ。十年後のね。あしたの朝早く。朝の四時くらいだよ」

「そんなこともわかるの」

「うん」

「どこで死ぬの」

「病院だよ」

「ならお医者さんがいるじゃないか」

「でもだめなんだ。最後の日までうんと痛がるんだよ」

「なんで。なんでだよ。お母さん、なんにもわるいことなんかしてないよ」

「でも死ぬんだよ」

「なんでだよ。お母さん毎日働いてるんだよ。ぼくがおきる前に出て行くんだ。朝ごはんだってちゃんと作るよ」

「知ってる」

「帰ってきたら夜ごはんだってちゃんと作るよ。そのあとせんたくもしてる。うち、せんたくきないから全部手で洗うんだよ。いいことばかりじゃないか。なんにも悪いことなんかしてないよ」

「知ってる。でも、きみはあんまり手つだわないだろ」

「じゃあ、ぼくのせい」

「そうじゃないけど。きみのお母さんはたぶんつかれて病気になるんだ」

「わるいことしなくても」

「そうだよ。きみは今もそうだけど、お母さんが死ぬまであんまりやさしくしてあげないんだ。だから、つかれちゃうんだよ」

「なんでさ。だってぼくまだ子供だよ」

「子供だってやさしくしてあげることはできるよ」

「だからって、痛い病気で死ななくたっていいじゃないか」

「わからない。でも、いちばん痛い病気なんだ。お母さんは、のたうちまわって死ぬんだよ」

「わかんないよ」

「君はそれを目の前で見るんだ」

「いやだ」

「七月九日だよ。でも、朝早くだから八日とまちがえちゃダメだよ」

「やだよ」

「十年後だからね。忘れないでね」

ぶちって音がして、またテレビが真っ黒になった。
そのあとは、よくおぼえていない。
2008-07-05 20:32
「ぼくのせい」 
2008年9月「霊安室で」
2010年7月「向こうへ行ったらいい酒を」
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