三条通から新京極へと曲がる角に、さくら井屋はある。
いや、「あった」というべきか。
先日、通りかかったら、休業していた。
さくら井屋は、紙製品や和雑貨を扱った店だ。
創業は天保年間というから、老舗中の老舗といえるだろう。
オリジナルの木版刷りの紙製品を主に扱っていた。
実は以前、このブログにこのお店のことを書いた。
さくら井屋は、織田作之助の小説『青春の逆説』に出てくるのだ。
出てくるといっても、主人公が通り抜けに使った、という程度でしかない。
しかし、昭和初期の小説に出てくるお店が、現役で存在することに感心した。
その場面では、修学旅行生で賑わう新京極の様子が描かれている。
もちろんお店も修学旅行生であふれ返っている。
それも、今は昔、だったのだろうか。
店先の貼り紙には、木版刷り職人の減少が休業の原因と書かれている。
なんとも寂しい話ではある。
そういえば先年、梶井基次郎の『檸檬』の舞台である果物屋も店じまいした。
主人公が檸檬を買った店として、表のショーウインドウにいつも檸檬が並んでいた。
訪れる人も少なくなかったようだが、休業してしまった。
どちらの店も当館から近く、たびたび店の前を通りかかった。
通りかかるたび、その小説のことを思い出したものだった。
しかし今は、そのお店が思い出されるほうになってしまった。
こうして近現代文学の舞台となったお店などが、だんだんと町から姿を消していく。
時の移ろいとともに、町の景色に変化があるのは、やむをえないこと。
とはいえ、何か切ない。
こういうことがあるたびに、行ける時に行かなくては、と強く思う。
いつまでもそこにそれがあるとは限らない。
古いものの多く残っている京都でさえ、そんなことを感じる。
あの時に行っておけば‥‥、と思うことのないよう。
観光で訪れる皆様も、悔いの残らぬよう、京都を満喫してください。
”あいらんど”