ナショナルジオグラフィック2025/01/08 08:00
子の亡骸を運ぶ母シャチを目撃、悲しみの表れか、専門家の見解は
お母さんシャチの「タレクア」が、死んだ子どもを頭に乗せて運んでいる姿が確認された。しかも、今回で2度目だ。「J35」とも呼ばれるこのシャチは2018年、死んだわが子を頭にのせて17日間も海を泳ぎ、世界の注目を集めた。そのタレクアを再び悲劇が襲ったのは、2024年の暮れのこと。クリスマスの少し前に、新しいメスの赤ちゃんがいることが初めて確認されたが、年が明けるのを待たずに子どもはまた死んでしまった。
死んだ仲間を運ぶという行動は、ほかの海洋哺乳類でも報告されている。しかし、2018年のタレクアのように、子どもを運んで1600キロメートルもの距離を移動した例は珍しい。死体を運んでいては狩りをすることもできないため、危険な行為でもある。
研究者たちは、今回も十分に食べることができないのではと心配しているが、米クジラ研究センターの主任研究員であるマイケル・ワイス氏によれば、タレクアのそばには息子のフェニックスと妹のキキがついているという。2018年にはタレクアの母親が同じように付き添っていたが、その後母親は死亡した。今回は、キキが家族とエサを分け合っていることが確認されている。
今のところ3頭はゆっくりと移動し、群れからわずかに離れているが、まだ群れの音が聞こえる範囲内にはいると、ワイス氏は言う。
3頭の動きが遅いのは、死んだ子どもの体の重みと、水中でそれを運んでいるせいもあるだろうが、タレクアの悲しみの表れである可能性もある。ワイス氏は、タレクアの本当の感情を知ることはできないと話す。
「シャチの母親と子どもの絆は、驚くほど強いものです。社会的な絆として、これ以上はないと言ってもいいでしょう。J35は、まだ子どもと別れる準備ができていません。現時点で彼女の感情の状態について私たちが解釈できること、またそうする必要があるのは、そこまでだと思います」
2018年6月号の学術誌「Zoology」に発表された論文は、さまざまなクジラ類の種が示す死んだ仲間に対する反応を研究し、死んだ子どもを運ぶのは蘇生させようとしているからではないかと示唆した。また、母子の絆の強さから、母親が子どもの死を悲しんでいる可能性もある。
「とても心配」なペースの赤ちゃんシャチの死
タレクアが属している「サザンレジデント」と呼ばれる群れは、魚をエサとし、特にマスノスケ(キングサーモン)を好んで食べる。ところが、マスノスケが近年減っているせいで、群れの出生率が低下し、個体数は減少している。サザンレジデントは、北太平洋東部の定住型シャチのうち、南部に生息する群れだ。
「妊娠しないとか、妊娠を継続できないというわけではありません。妊娠後期での問題や死産だったり、生まれてすぐ死んでしまったりするのです。野生では赤ちゃんが死ぬのはよくあることですが、サザンレジデントではそのペースが速いのでとても心配です」とワイス氏は言う。
タレクアが再び子どもを失ったことは、地元米ワシントン州の先住民族であるルミ族にとっても悲しい出来事だった。ルミ族の団体「ソシロ」の共同代表を務めるカート・ルッソ氏によると、ルミ族は数千年前からサザンレジデンツと交流を持ち、群れを親族のように思ってきたという。
「サザンレジデンツは『スカリチャハ』と呼ばれる一族です。それが彼らの名前です。単なる動物ではなく、われわれの親戚なのです。親戚の子どもたちが無意味に死んでいっているのです」
https://news.goo.ne.jp/article/natgeo/world/natgeo-0000Buez.html?page=1