Gigazine 複数の抗生物質に対して耐性を持つ細菌であるスーパーバグが世界中で猛威を振るっています。スーパーバグに感染すると抗生物質による感染症治療が難しくなるため、世界中で毎年約500万人が死亡しているそうです。そんなスーパーバグに対処するため、研究者はカキの血に期待していると科学系メディアのThe Conversationがまとめています。
Oyster ‘blood’ holds promise for combating drug-resistant superbugs: new research
https://theconversation.com/oyster-blood-holds-promise-for-combating-drug-resistant-superbugs-new-research-2268232025年01月23日 08時00分
主に肺炎球菌によって引き起こされる急性感染症である肺炎は、5歳未満の乳幼児の死因として最もポピュラーな感染症で、高齢者が肺炎で入院するというケースも非常に多く報告されているそうです。扁桃炎などの上気道感染症は、子どもに抗生物質が処方される最も一般的な感染症として知られています。他にも、化膿(かのう)レンサ球菌によって引き起こされる皮膚やのどの感染症は、急性リウマチ熱やリウマチ性心疾患の発症につながる可能性があるそうです。
これらの細菌感染症の治療には抗生物質が使用されていますが、過剰に使用されるようになるのに伴い、スーパーバグこと薬剤耐性菌が進化しつつあります。そしてスーパーバグが進化することで、抗生物質による感染症治療が困難になるという悪循環も生まれていると、The Conversationは指摘しました。
加えて、細菌などの微生物が形成するバイオフィルムの存在が、問題をさらに複雑にしています。バイオフィルムは表面に付着する自己分泌物質に埋め込まれた数百万の細菌集団で、細菌を宿主の免疫システムや抗生物質から保護するものです。ほぼすべての細菌感染にバイオフィルムが関与しているため、バイオフィルムを阻害・破壊・浸透できる抗生物質を用いた感染症の治療は、非常に価値あるものとみなされています。
記事作成時点で使用されている抗生物質の90%以上が天然由来で、開発中の抗生物質も65%以上が天然由来です。新しい抗菌薬を作る場合、研究者は自己防衛のために抗菌化学物質を生成する生物を調べるところからスタートします。
カキは海洋環境において高濃度の多様な微生物にさらされているため、強力な免疫能力を有しています。過去数十年にわたる研究により、カキの血リンパには抗ウイルス性の抗菌性タンパク質とペプチドが含まれていることが明らかになっており、これらは人体や海洋に存在する病原体に対して有効であることが知られています。
実際、カキは感染症治療のための薬として長らく使われてきた歴史があり、中国では呼吸器感染症や炎症性疾患の治療にカキから作られた薬剤が推奨されてきました。他にも、オーストラリアの先住民は数千年にわたってカキを健康食材として食べてきた歴史を持っているそうです。
2025年1月に査読付きのオープンアクセスジャーナルであるPLOS ONEで発表された論文では、カキの血リンパから分離した抗菌タンパク質で、さまざまな感染症の原因となる特定の細菌を殺すことに成功しています。このタンパク質は特定の細菌に対し、従来の抗生物質の効力を高めることもできるそうです。
論文を執筆したのはサザンクロス大学の貝類学者であるケイト・サマー氏と、国立海洋科学センターに勤めるキルステン・ベンケンドルフ教授です。両氏の研究では、オーストラリアのシドニー沖に生息するシドニーロックオイスターの血リンパに含まれる抗菌タンパク質を分析しており、レンサ球菌属の細菌を殺すのに効果的であることが実証されています。
この抗菌タンパク質はレンサ球菌バイオフィルムの形成を阻害するのに効果的で、すでに形成されているバイオフィルムに浸透することもできるとのこと。
近年、既存の薬剤の効果を高めるために、抗菌ペプチドや抗菌タンパク質を組み合わせた薬剤が増えています。抗菌ペプチドや抗菌タンパク質は細菌の細胞膜を破壊するため、抗生物質が標的に到達しやすくなるそうです。これに加えて、抗菌ペプチドや抗菌タンパク質のほとんどが「宿主の免疫システムを強化し、治療効果を高める」という効果も持っているそうです。
研究チームはシドニーロックオイスターの血リンパから抽出した抗菌タンパク質を既存のさまざまな抗生物質と組み合わせることで、さまざまな細菌に対する活性をテスト。すると、非常に低い濃度であっても抗生物質の効果を2~32倍も向上させることが明らかになりました。特に、カキ由来の抗菌タンパク質はレンサ球菌、黄色ブドウ球菌、緑のう菌に対して有効であることが明らかになっており、健康なヒト細胞に対して毒性を有していない点も特徴だそうです。
なお、研究チームは将来的にカキ由来の抗菌タンパク質を従来の抗生物質と組み合わせ、動物実験や臨床実験を行うことを計画しています。
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