『あしたも、さんかく 毎日が落語日和』(安田夏菜作・宮尾和孝絵・講談社)
講談社児童文学新人賞佳作を受賞された作品の単行本化です。
自分ではただ一生懸命やっているだけと思っていた「圭介」はある日、クラスの子たちから「仕切り屋。空気読め」といわれてしまいました。圭介にしたらまったく心外な言葉でした。
そんな折り、行方不明だった「じいちゃん」にばったり出会います。そこからこの物語は進んでいきます。
それまで散髪屋をしていた、そのじいちゃんは50歳の時一念発起し、散髪屋を廃業し落語家に転身したのです。そのじいちゃんの人生と、圭介自身の物語がクロスしながら語られていきます。
逆三角形の顔をした、落ちこぼれの落語家であるじいちゃんが、実に魅力的です。
落語に目覚めていく・・、ほんとうの意味で好きになっていく、不器用なじいちゃんのすがたには泣かされます。
折り折りに挟まれた落語を楽しみながら、人間が生きていくということ、他者とつながりあうとはどういうことか、この物語は教えてくれています。
『七夕の月』(佐々木ひとみ作・小泉るみ子絵・ポプラ社)
椋鳩十児童文学賞を受賞された佐々木ひとみさんが、現在お住まいになっている仙台を舞台にしてお書きになった物語です。
七夕は旧暦の八月の行われるものと、東京などのように新暦の七月の行われるものがあります。
仙台の七夕は、旧暦の八月。
東京から転校してきた、主人公と共に、七夕の意味を、あらためてこの本で学びました。
また七夕飾りの意味も・・・。
物語は、長い年月、仙台七夕を後押ししてきた紙屋さんの経営者であるひいばあちゃんと、曾孫たちの心のつながりを描いています。
けれど、やはり中心に据えてあるのは、仙台七夕。
敢えて実名の、七夕の紙屋さんや、蒲鉾屋さんを登場させ、物語に現実性をもたらせています。
3・11のあとの七夕に飾られた白一色の、鎮魂の祈りの七夕飾りのシーンには、胸がゆさぶられました。
『学校の鏡は秘密のとびら?』(三野誠子作・たかおかゆみこ絵・岩崎書店)
女の子に人気のファッション雑誌『ポップベリー」に載っていた「学校の不思議な話・こわい話」に応募して、ポップのアクセサリーを狙っているクラスメートたちは、学校のこわい話探しに夢中です。
そこをベースにして、物語は、学校に起こったミステリーの謎解きへと展開していきます。
ひらがなばかりで書かれた、校歌の謎・・・。
そして相合い傘の謎など・・・。
読者をどきどきさせながら、ストーリーは進んでいきます。
ミステリーとファンタジーをいり混ぜながら、ラストはほのぼの、そして胸がきゅんとんなるオチに・・・。
さすが、福島正実SF対象を受賞された作者の、待望の読編です。
『あの日とおなじ空』(安田夏菜作・藤本四郎絵・文研出版)
『あしたも、さんかく 落語日和』をお書きになった安田夏菜さんの、二冊同時出版のもう1冊です。
舞台は、ひいばあちゃんの住む沖縄。
沖縄戦で、父を戦地にとられ、母を空襲で亡くし、弟をひもじさで亡くした沖縄の住むひいばあちゃんの生きてきた歴史。そしてガジュマルの木の下にいるキジムナーとのつながりの中でみた沖縄戦を描いた安田夏菜さんの、問題意識のぎゅっとつまった作品です。
感動的なのは、戦争でひとりぼっちになってしまったひいばあちゃんのことを「ひき算」と語り、そして結婚後、子どもが生まれ、孫が生まれ、曾孫が生まれたひいばあちゃんの、その後の人生を「たし算」と捉えるところです。
読みながら、いま問題になっている集団自衛権のことを考えていました。
もしこれが行使されたら、主人公である「ダイキ」たちの未来は、ひいばあちゃんのようになってしまうかもしれない・・・。昔の戦争を描いた作品ではなく、今につながる危機意識を抱かせてくれた、そんなご本です。
皆さま、どうぞこの4冊をお読みになって下さい。