水辺の止まり木に横一列に並び、カラスたちが思索しています。
空が、青いな。
空気が、澄んでいるな。
今日は、なにを食べようか。
これから、どこへ旅に出ようか。
別れた彼女は、どうしているだろう。
ほら、みてごらん。
葉裏が日に照らされて、ビー玉みたいにひかってるよ。
あの繁みには、なにかいいことがありそうだ。
「あんたたち~」
そんな静けさを破ったのは、水辺のむこうの、知らないおばさんの声。
「ねぇ、なんで、わざわざ一列になんかに並んでるの? なにか相談? のってあげようか?」
なんだよ、秋の感傷に浸っていたのにさ。
「それにさ、あんたたちは、思いっきり自由なのよ。なのにそんな軍隊みたいに、なんで並んでるの!
はいはい。
せっかく、俺たち哲学者になっていたのにな。
それに、適当に相づちを打つのって、メンドー。
あのぉ、そんなの、俺たちの勝手なんですけどぉ。
水辺の哲学者たちは、たちまち荒くれ者になると、
「アホー」と、おばさんにひと鳴きしました。
おしっこをひっかけようとしたヤツもいました。
まてまてと、だれかにとめられましたが。
「さてと・・・、餌でも探しに行くか」
そして、それぞれの方向に飛び立っていきました。
「また、集まろうぜ、ここに」
「うん、いつかな」
そう言い合いながら。
(ちなみに、ここに登場するおばさんは、私ではありません。ここにお引っ越ししてきて、そういうちょっとお節介で心優しいおばさんに、おりおりに出会います。お買い物をしていたら、見知らぬ人に声をかけられたり、「選挙にいかなきゃだめよ」と、お母さんみたいな目でいわれたり・・・。きっと、あのおばさんたちは、カラスにもお節介をやいているような気がします。台風のあとは鳥たちの様子を見に、まっさきに自宅から走るらしいですから。そういうつぶやきを、公園を歩いていると耳にします。そのつど、なんだかすごく温かな気持ちになります。下町という風土が、他者に対して無関心ではない、おばさんたちを生み出しているのでしょうか?)