「250字の世界」本当に見事
90年に始まり、現在18回目を募集中の北九州市自分史文学賞の審査員をずっと務めています。作品は400字詰め原稿用紙で200~250枚。職業作家でも大仕事ですが、毎年国内外から約400編という驚くほどの作品が寄せられ、大変うれしく思っています。
これに対して、はがき随筆は250字。この字数にまとめるのは至難の業です。職業作家は原稿用紙1枚いくらで原稿料をもらいますから、水増しした会話で行数を稼ぐ人もいます。そうした世界にいる人間から見ると、250字にギュッと圧縮するのは本当に見事な業です。一昨年の宮崎大会で審査員を務めた時に思いましたが、今回もつくづく感じ入りました。
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「近況報告」で大賞を受賞した古賀さんは、なかなかの名文家。こういうはがきをもらったら、「心の広い人だなぁ」と感じ入り、12階からの眺めを想像し、奥さんの回復を願うだろう。はがき随筆の金字塔といえる。
世の中にいろんな形見があるが、久保さんの「慕情の鈴」には意表をつかれた。どんな場面で、チリリンとささやくのか、哀切きわまりないけれども、夫婦愛の深さがうらやましくなる。
海汐さんの「お婆ちゃんの餞別」。とっさにティッシュで餞別を包み、「勉強をがんばりませう」と書いたりするのは、よくある場面かもしれない。しかし、時を経て佳話として実るから、人生は素晴らしい。
「死に甲斐」の西さんの83歳(審査時)にして衰えぬ闘争心に驚かされる。辞書に「死に甲斐」はなくても、生きることに値するものとして、悪者を懲らしめる闘争心。その気概が世の中から失われつつある。
おせっかいは迷惑だが、矢野さんの「珍しい人」のような人は確かに珍しい。世の中は捨てたもんじゃないと、読ませてもらってうれしくなる。ちょっといい話を提供するのも、はがき随筆なんですね。