はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

フォークソング

2007-12-13 11:17:25 | はがき随筆
 小5の長男は、ドライブの時に必ず音楽CDを積み込む。童謡、クラシック、最近それに新ジャンルが加わった。
 何となく聞いていると思いきや、陽水、かぐや姫、そして風などの曲をしっかり覚えている。それらの全盛期に青春時代を過ごした身から、ついつい一緒に口ずさんでいる自分。
 小春日和の週末、そろばん教室に向かう2人きりの車中「僕はフォークが好き。良い曲が多いね」とくるではないか。生まれてたかだか10年の少年を魅了するフォークはやはりすごい。
 同じ価値観を持った息子が無性にいとおしく思えた。
   垂水市 川畑千歳(49)2007/12/13 毎日新聞鹿児島版掲載

朝の祈り

2007-12-13 11:12:05 | はがき随筆
 早朝の習わし。ダイニングに備えた両親の写真と語り、お茶を供えて感謝と一日の安心・安全を祈る。健康水を飲用するようになり早朝からお茶を飲まなくなって、ついお茶の供えを怠けた。幼稚だが、私ども夫婦の体調不良があるいはこれも原因の一つではとざんげしている。
 「わらをもつかむ思い」ではないが、平常の生活習慣の改善を含めた謙虚な反省も絶対不可欠だと心得ている。祈りは〝○頼み〟でなく、自己反省による改革がなければ効き目はないだろう。簡単な自己流の(お茶を供えての)祈りだけど継続している。体調回復も信じつつ。
   薩摩川内市 下市良幸(78) 2007/12/12 毎日新聞鹿児島版掲載

石蕗の花

2007-12-13 11:06:33 | はがき随筆
 早朝、山あいの谷の清水くみに行った。昨夜の十五夜の月が沈みきれず、重なった尾根の間に、昨夜の輝きの疲れがとれぬかのようにぼおーんと浮かんでいる。近づいてくる厳冬を教えるように夜明けの風が肌に冷たい。木洩れ日のさす細い小道を小滝へと向かっていると、道の両側に沿って、朝もやの中に黄色く咲き誇る石蕗の群生に出合った。その妖艶なたたずまいの余りの美しさに感動し、霧に包まれた舞台で群舞しているようなつややかさに、木立の世界の妖精に、しばし我を忘れ、たたずんでいた。
 朝靄(あさもや)に石蕗の花艶(なまめ)かしけり
   鹿児島市 春田和美(71) 2007/12/11 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがたい

2007-12-13 10:59:10 | はがき随筆
 新しい電気炊飯器を購入した。じっくり説明書を読んでご飯を炊いた。ふっくら真っ白いご飯が炊き上がった。
 母がしみじみと語る。
 「いりがたいことだね。スイッチ一つでご飯ができているなんて。洗濯機もそうだけど、いつもありがとう、ありがとうって感謝して使っているよ」
 「本当にそうだね。ありがたいことだね。平和であればこそだね」
 古い電気炊飯器さん、今までありがとう。ゆっくり休んでね。新しい電気炊飯器さん、ようこそ我が家へ。これからよろしくお願いします。
   出水市 山岡淳子(49) 2007/12/9 毎日新聞鹿児島版掲載

新しい下駄

2007-12-13 10:50:58 | はがき随筆
 正月が近づくといつも、あったかい思い出がよみがえる。冬休みになると毎年、子供の足にはおよそ遠い隣町の履物屋に、おじいさんと我々4人の孫はワクワクしながら歩いていった。それぞれ下駄を買ってもらい、女の子の自分は赤い大きなゴムまりも。とてもうれしかったものだ。
 今は嫁いで四国に住む従姉が電話の向こうで同じ思い出を話すのを聞いて驚いた。このことは自分たちに特別──とお互い思い込んでいたから、おじいさんの分け隔てのない優しさにいっそう感激した。47年以上前の思い出におじいさんの面影が重なり懐かしい。
   鹿屋市 田中京子(57) 2007/12/8 毎日新聞鹿児島版掲載

千代美と遼太郎

2007-12-07 16:10:22 | はがき随筆
 15歳を過ぎた老猫千代美は体重5㌔。走ることはほとんどない。一方この春、倒(こ)けつ転(まろ)びつ付いてきて我が家に住み着いた由緒不明の名犬遼太郎は10㌔になった。静と動、対照的な2匹だが、まれに鼻先をなめあっている時など、私たちをどれほど和ませてくれたことか。だが気になるのは千代美で、寄る年波からか猛暑の今夏は食が止まり木陰で動かない。日に日にやせて獣医の注射でも食欲は出ない。そんな千代美をひざに抱きペーストを口に運ぶ妻。食べたと言って手をたたき、自力で食べるまでになった。季節は移り、2人と2匹の平穏な日々である。
   志布志市 若宮庸成(68) 2007/12/7 毎日新聞鹿児島版掲載

ブルーの海

2007-12-07 16:01:58 | はがき随筆
 ブルーサファイアの海は美しい。ローラーカナリアは鳴き、手乗り文鳥が肩へ。美しい花があふれ皆が呼ぶ。少女のころの身軽さで泳ぐ。突然、愛犬チェスが激しくほえ、来るなと拒否?
 「Aさん、良かったー」
 ベッドの左上のブザーが、ブルーの光を点滅させて、心臓の状態をセンターに送っていた。うとうと眠った。夜中の2時過ぎらしい。
 翌日の手術は、予定より3時間早く行われた。医師の他、多くの人々に救われ私は生きている。深く感謝している。不自由な体でも楽しく有意義に過ごそうと、縮小プランを立てている。
   薩摩川内市 上野昭子(79) 2007/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

未知の実

2007-12-05 22:37:05 | はがき随筆
 5月、耳納山のふもとで真っ白な花に覆われたナンジャモンジャの並木を通った。雪をかぶったような並木は遠くからでも見え、木の名は一度で覚えた。実がなると聞いて先日、山道の紅葉を楽しみながら訪ねてみた。
 葉は紅葉することもなく、それらしい実はなかった。時期が遅かったのだろうか。あきらめて帰ろうとした時、たった1個見つけた。深いぷとう色をした8㍉ほどの丸い実。触ると意外に硬い。果肉は薄く種が一つ。1個なりとも見せてくれた木に感謝。次は鈴なりのころ訪ねてみたい。二度、三度足を運ばせる並木である。
   出水市 年神貞子(71) 2007/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

仙厳園菊まつり

2007-12-04 21:22:31 | はがき随筆
 11月2日、妻と2人で市内を周遊するカゴシマシティビューに乗り仙厳園(磯庭園)の菊まつりに出掛けた。
 目的地に着くと観光客でにぎわっていた。入り口付近から多彩な菊が作品の種別ごとに各ブースに飾られ、心が和んだ。特別コーナーでは、今話題の篤姫(あつひめ)の菊人形が前後に動き、前でしばらく停止し、左右に首を振ると、隣にいた外人女性が「オー、ワンダフル」と叫んだ。私もつられて「オー、ワンダフル」と……。菊を心ゆくまで観賞でき充実した1日だった。
 秋深し仙厳園の菊まつり
    花花花にわが心和(な)ぐ
   鹿児島市 川端清一郎(60) 2007/12/4 毎日新聞鹿児島版掲載

げせん

2007-12-03 18:26:40 | はがき随筆
 11月23日毎日新聞のくらしナビ欄にニッケ(肉桂)の記事をみつけ、懐かしく子共のころを思い出した。
そういえば同級生の男の子の家にとてつもない大きな木があった。私たちは「げせん」と言っていたがニッケでは?
 時々、彼が木を削ってくれる「げせん」はうれしく、うらやましくもあった。独特な強い香りとピリッとした辛さ。おやつは握り飯の時代の子供には魅力があった。
 怖いおじいさんのいる彼の家の庭で「いいのかなあ?」と恐る恐るもらう時のスリルまで思い出したニッケ。
   霧島市 口町円子(67) 2007/12/3 毎日新聞鹿児島版掲載

いちょう

2007-12-02 23:57:28 | アカショウビンのつぶやき
 お隣の銀杏は小さい木だけれど、毎年見事な黄葉を楽しませてくれる。
朝から、ガーガー音がしていると思っていたが、外出から帰るとばっさり切り倒されていた。ブロック塀の小さなすき間に生えた銀杏なので、切らざるを得なかったのだろうが、去年は裏のお宅の銀杏が、大きくなりすぎたとかで伐られてしまい、このあたりには一本も銀杏がなくなってしまった。
 数年前には、私の通うキリスト教会の付属幼稚園の大きな銀杏も伐られちゃった。とても勢いがよく、切り株からは次々とヒコバエが伸びてきて驚いたけれど、伸びるたびに伐られ、とうとう切り株の赤ちゃんもなくなってしまった。
 きれいに手入れされた庭に、伸びすぎた木は邪魔なのだろうなあ。
「屋根より高い木だけが、ホントに大きい木と言うんだよ」と誰かが言っていた。
 箱庭のようにきれいに手入れされた庭よりも、一見荒れた庭のように見えるかもしれないが、自然に伸びた木々に囲まれている方が私は落ち着く。
 お正月が近づくとどこのお宅でも木々の剪定が始まるけれど…どうしようかなあ。

写真はcozyさんからお借りしました。

三十三回忌

2007-12-02 22:27:34 | はがき随筆
 父の三十三回忌の法事を行った。
 脳いっ血で倒れた父は、誰にもみとられることなく、この世とお別れした。温泉から帰った母の驚き、そして嘆き、悲しみは、まさに狂乱であった。
 知らせを受け、信じられないまま、安らかな父の姿と対面した。その時ほど、人の命のはかなさを痛切に感じたことはなかった。
 お坊様が「誰にも迷惑をかけずに逝かれたことは、ありがたいことですよ」と話されたのをふと思い出し、父らしい最期だったと思うようにして、合掌した。
   鹿児島市 竹之内美知子(73) 2007/12/12 毎日新聞鹿児島版掲載

あたたかき北風

2007-12-01 23:52:40 | はがき随筆
 年の瀬になると思い出すことがある。教師になって社会人としての第一歩を踏み出した昭和33年。高度経済成長の号令が発せられる以前で、世の中はそんなに豊かではなかった。そんな時勢に長年、親のすねをかじって学生生活をしてきた自分が月給をもらい、12月にはボーナスも出て、ひそかに感謝と満足感に浸っていた。その時、ふと新聞で歳末助け合い運動の標語が目に止まった。「北風もまた温かし年の暮れ受けずあたえる幸を思えば」。これまで街頭募金は横目に通り過ぎていたが、募金に協力できた時、大人になった喜びを実感したことを思い出す。
   志布志市 一木法明(72) 2007/12/1 毎日新聞鹿児島版掲載

鳥になる

2007-12-01 23:46:45 | はがき随筆
 7月、休暇をそろえた3人の娘たちと立山へ行った。室堂のホテルに滞在して大自然の中をゆっくりと散策した。ミクリガ池の周りにはまだ残雪があり、空気はさえ、高山植物の花の色も鮮やかだった。そんな中、娘たちが鳥を呼んだ。バードコールの摩擦音で鳴いている鳥の声そっくりの音を作る。と、やがて目の前に数羽の鳥があらわれた。セキレイに似ている。鳥にならないとだめだよと言いつつ音を作る娘たちの技に、私はすっかり心奪われてしまった。その時以来、散歩や山歩きにバードコールを手放せなくなってしまった。この冬、きっと鳥になる──。
   出水市 中島征士(62) 2007/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載

耳のスイッチ

2007-12-01 23:40:05 | はがき随筆
 「○○二等兵、厠へ行って来ます」
 「……ただ今厠から帰りました」
 兵舎の出入り口で精いっぱいの声。入隊2.3週間は声がつぶれて鶏の鳴き声。軍歌演習、対空戦、厳しかったそのせいでもないけど、加齢と共に耳の機能が低下。補聴器はつけているが妻との日常会話、いろいろな会合、不便を感じている。
 「そげん大きな声を出ししゃんな」
 自分でもそんなつもりではない。
 「今ぐらいがちょうど良い」と言うが数字に表れてこないので加減が分からない。数字に表れる、耳のスイッチがあったら、と思う毎日。
   薩摩川内市 新開 譲(82) 2007/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載