スワンホテル/バイブリー/コッツォルズ地方/イギリス 2008年6月8日
スティーブンスが旅の途中に泊まったのもこんな宿でしょうか。
今年のノーベル文学賞に輝いた日系英国人、カズオ・イシグロが1980年代に書いた長編。
小説の中の場所はイギリス、時は1956年7月の6日間、長くダーリントンホールで執事を務めていたスティーブンスは、新しい館の主、アメリカ人のファラディから思いがけずに休暇をもらい、車も貸してもらって、イギリス西部の町を訪ねる。
そこへ行って、かつて女中頭として働いていた、今は人妻のミセス・ケントンに屋敷に戻る可能性がないか確かめに行く。手紙によると、あまり幸せな結婚生活でもないらしい。
館はダーリントン卿の死後、使用人がやめて人手不足、また昔のように彼女と一緒に働きたい…心の底ではそう思いつつ、田舎道をハンドルを握り、旅をする。
小説の中では旅行中の時間が流れると同時に、スティーブンスの回想に多くが費やされる。
戦前は館が最も華やかな時代であり、多くの要人が集い、秘密裏の、国際政治の枠組みを変えるような会合も行われた。従者を連れて訪れるそれらの人々を、使用人のトップに立ち、粗相ないようにもてなすのは執事の大切な仕事。
スティーブンソンはその仕事に誇りを持ち、完璧にやり遂げようと長い年月、結婚もせず館で過ごす。
館の一番華やかな会議は、ベルサイユ条約を見直そうと各国から人が集まるくだり。ベルサイユ条約と言っても第一次大戦後のあれです。フランス人、アメリカ人…いかにもありそうに書かれている。
その会議の最中にスティーブンスの父親が館の中で亡くなるけど、それも放っておいて仕事にまい進する。。。。
がしかし、館がアメリカの金持ちの手に渡ったように、館を中心とした根回しの政治ももはや過去のもの、イギリスの栄光も徐々に失われていく、落日の、かすかに日の名残りのある時代である。
詳細は本を読んでいただくとして、大変読みやすい端正な文章で(翻訳なのに変な言い方ですが)、執事、女中頭、館の主、訪れる人たち、それから旅先で出会うイギリスの田舎の人たちがよく描写され、誰もが逆らうことのできない大きな時代の流れの中で精いっぱいに生きている構えの大きなストーリーに感動した。
端正なイギリスアンティークのような正統派の小説。
中部イギリス、ハワース郊外。6月のヒースの丘には白い花が咲いています。2008年6月9日
ゆるやかな起伏を見せるイギリスの大地、寒いので穀物は作れないようです。
他のも読みたいけど、品切れだろうなあ。