懐かしい名前である。1970年代、漫画雑誌ガロで、シュールな作風の、漫画の純文学のようなのを読んだ記憶があるが、まったく商業ベースに乗ってこない作家なので、それに私はもともと漫画を読むのが苦手なので、その後の消息については全然知らなかった。
で、これはアマゾンのお勧め本にあったので、私の読書傾向からアマゾンが選んでくれたらしいので、取り寄せて読んでみた。
たいそう面白かった。1960年代から1990年ころまでの、ひなびた温泉宿などへの旅行。
川をさかのぼり、山へ分け入り、この先に家などあるのかと思う場所に忽然と現れるひなびた宿。泊まってみるとしみじみとした味わいがあり、癒される。
また外界から途絶したような、不思議な集落では、大人も子供も年寄りも、集まって、取り留めなく話したり、子供が遊ぶのを見たり、夢のような不思議な世界が広がっている。
そもそもこの本の導入部分からが不思議で、文通だけして会ったこともない人と結婚するつもりで小倉へ行く。相手は住み込みの看護婦さんで、土日にしか会えない。その間に杖立、湯布院、油平などの山間の温泉を巡り、ストリップを見たりする。旅館の二階がその小屋、座敷にベニヤ板で粗末な舞台が作られ、客は自分だけ、舞台に蛾が飛んできたので灰皿で伏せてやると、踊り子は安心して、サービスしてくれた。この人たちと温泉街を巡るのもいいなあと考えたりする。
文章もまたシュールで、読者をありえないような不思議な世界へと連れて行ってくれる。
当たり前と思っている暮らし、ものの見方、それを力技を感じさせずにいとも簡単にひっくり返してしまう。読後は読者の世界が広がり、風通しのよさを感じている。だからこれは純文学と同じ効能だと思う。
寡作な作家で、有名な時にも経済的にも恵まれたということではなかったらしい。今は病気のご子息の世話をされているとか。80歳くらいでしょうか。
風景だけを描いた部分でも、そのタッチにつげ風は歴然としていて、奥の深い物語を感じさせる。こういうのは努力してそうなるわけではなく、天性のものだろう。
とても面白くて一日で読んだ。短いのばかりだけど、このところ一日に一冊本読んでる。じっとして本読んでても誰にもとがめられないので、年取るのも悪くないなと思っている。