月島の路地。向こうに高層マンション。クレジット不要の素材サイトよりお借りしました。
少壮の比較文化の学者が、ニューヨーク生活を終えて帰国、住んだのは月島で、借りたのは古い長屋。そこでの日々の暮らし、月島の歴史、月島との文学者のかかわり、東京に月島のある意味など、縦横無尽に語りつくした奥の深いエッセィ集。
1990年から1991年まで、全18回に分けて文芸誌「すばる」に連載、のちに単行本になる。
刊行当時、話題になった記憶があるけれど、30年近くたってやっと読む機会に恵まれた。
この本の出た当時から、月島の眺めはものすごく変わったと思うけれど、地域社会の雰囲気は今も基本的には変わっていないと思う。一つには空襲で焼けなかったということもあると思う。
https://tikitiki21.exblog.jp/2141096/
これはさる方のブログですが、夏、お婆さんが通りから見える部屋で昼寝している。。。
そう、夏は開け放して畳の上で寝るのが涼しくてくつろぐ。今やお婆さんとなった私が日々実践していることですが、東京にもそういう暮らしのあることが嬉しかった。
作者が借りた家は下は玄関、玄関わきの2畳、奥の四畳半、台所、二階は4畳半2部屋に物干し。
玄関わきの2畳は建築学的に言うと、台所が通りに面していた時の名残だそうで。共同井戸と七輪の炊事では、台所は外につながっていた方が便利。水道と都市ガスが整備されてから奥に移動したそうで。
なるほど。
家はとっても住みやすそう。一階は、香川県の直島、三菱精錬所の職員住宅みたい。叔母一家が住んでいて、よく遊びに行ったのです。懐かしかった。
二階の四畳半二つは襖外すと九畳の大広間、風通しもいい。階段のちょっとした工夫で、それぞれ別の入り口から部屋に入れるのも工夫。
詳しい間取りが図が本書にはあって、なんか住みたくなった。
月島は1892年にできた新しい土地。たぶん初めは築島と書いていたのかと思う。江戸時代初めにできた隣の佃島とは成り立ち、気風も違うそうです。知らなかった。
作者は近所づきあいをし、祭りにも参加し、月島の暮らしを楽しんでいるようです。
下町ではなく、新開地。人々はあけっぴろげだけど、詮索はしない。いろいろな事情でここへ移ってきた人ばかりなので、いわゆる旧家と言うものがなく、地区の伝統というものもない。その風通しのよさが作者にも心地よさそうである。
でふと、わが地元と似ているなあと思った。
わが地元も、近世以来の広島湾干拓の最終埋め立て地。たぶん明治時代と思う。ここに来るのは、男では戦前の日本で跡取りになれなかった人たち。軍港の周辺に仕事を求め、商機を求めてきた人たちの子孫。細い路地の両側に植木を並べるのもおなじみの光景。
わが舅様も田舎の次男坊で、最終的にはここに落ち着いた。
人の学歴や勤め先を詮索して自分の立ち位置を決める・・・と言う人はわが近所には稀。稀なので目立ちます。そういう人とはお付き合いしないので、私もこの地では多数派。たぶんここで骨をうずめると思う。
一冊の本でいろいろことを考えた。面白かったです。