写真説明:大阪南のなんばの鉄眼寺の境内にて
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千切りカット(せんぎりかっと)…
昨日の長回し監督と正反対の映画制作をする監督さんです。
このひとは、助監督の時代に、本編映画から短いNGカットをもらい器用につないで、本編映画の予告編をつくりました。
そして社内で評判になりました。
会社から予告編用に生フィルムを1000フィートくれるのですが、それをそっくり本編に差し出して、NGカットを本編からもらっていました。
会社の考えている予告編の予算はそんなものでした。
本編撮影のスタジオで、少し長いカットがNGになると、監督さんは、冗談に
「いまのカットは予告編…」
スタジオ内を慰めるように言います。が、本当です。
この予告編で認められた助監督さんは、やがて監督に昇進します。
何本もの映画を制作して興行成績も良いので新進監督として会社も認めます。
それにしても、カットが短いのです、
「用意…スタート……カット!」
の積み重ねで、陰で「千切りカットの監督」と渾名されました。
立ち回りシーンで
刀を上段に構えて切り込む俳優さんのアップ。
切られる敵役の俳優さんのアップ。
別の敵役の俳優さんのアップ。
敵役のアップを撮る前に、監督自ら、切られる敵役の俳優さんの顔に絵の具の血糊を塗ります。
この短いカット連続で立ち回りのシーンは徹夜になりました。
立ち回り以外の落ち着いた芝居のシーンでも、
切り返しの多いカット割りで、じっくりとした連続の芝居のシーンが少なかったのです。
あるとき、どういう風の吹きまわしか、ワンシーン・ワンカット・スタイルの長いカットで撮ることになりました。
しかし、「千切りカット」の異名の監督さんです。
スタッフ全員、俳優さん全員がどうせ短いカットの積み重ねと考えていますから、俳優さんは長いセリフは入っていません。
結局、「千切りカット」スタイルに戻ってしまいました。
監督の制作スタイルは、この人は「長回し」の監督、
この人は「千切りカット」の監督とイメージが定着すると、
変えることは出来ないようです。
世間でも仕事の早い人、仕事の遅い人とイメージされた人がいます。
早く仕事をする人が、たまに遅い仕事をすると、目立ちますし、
仕事の遅い人がたまに早い仕事をすると、早いなあと評価されるのに似ています。