私たちはラジオが停波して
以来、世の中がどうなっているのか
さっぱり、判らなくなってしまいました。
昼間近く、広い道を大勢の地元民が
大八車?に荷物をいっぱいに積み上げて
長い列を作ってどこかへ、歩いて行きます
… … …
夜になると、ラジオが聞こえるようになりました
しかし、聞こえてくるのは音楽だけで
ニュースなどのアナウンスはありません。
しかも、聞こえてくる音楽は
ソ連のコーラスだけです。
戦後、一時流行った歌声喫茶で
聞かれたコーカサスの合唱曲です。
平和なときの音楽は別にどうということも
ないのですが、戦時中、初めて聞く
ソ連のコーラスはなんとも不気味なものでした。
… … …
その後、次第に噂が伝わってきました。
「ソ連の戦車部隊が北満を越境してきた」と
云うのです。
満洲國は大陸の一部ですから、歩兵でも
機械化部隊でも陸続きで攻めてこられます
… … …
新京の放送局の人はとっくに
逃げていたのかもしれません。
ソ連軍が満州に強力な放送設備を
持ち込んでソ連の合唱曲を流していた
のでしょう…