新橋演舞場の｢松竹新喜劇」

｢松竹新喜劇」の名古屋｢御園座」公演を

録画するのに、名神高速道路を

通って、大型中継車を持ち込んで大掛かりです

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名古屋でも遠いと思っているのに

東京｢新橋演舞場」の公演も録画することになりました



｢新橋演舞場」は新国劇(しんこくげき)が上演されます

新国劇は緒形拳、島田正吾、

辰巳柳太郎で、立ち回りの舞台が好きでした

また前進座(ぜんしんざ)、歌舞伎など上演される

劇場でしたから、一度｢新橋演舞場」に

入って見たいとは思っていました



大阪から大型中継車はまず、名神高速道路を通って

名古屋から東名高速道路を走ります

大型中継車にはドライバーのほか、テレビ技術員一人が

側乗(そくじょう)します。

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浜松あたりでドライバーの休憩のため一泊して東京へ

大型中継車は二日がかりです

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中継スタッフは新幹線です

銀座のビジネスホテルに宿泊して

本番日、銀座の朝、｢新橋演舞場」へ

散歩がてらで出発します

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私の母親は、銀座新富町の生まれでしたから

この辺で遊んでいたのかと、一瞬心をかすめます



｢御園座」のある名古屋にはテレビ局があります

｢新橋演舞場」の東京もテレビキー局があります

わざわざ、大阪から大型中継車を持ち出して

録画しなくても、地元のテレビ局のスタッフで

録画して貰えば…と思ったりするのですが…

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人情に厚い藤山寛美さんが気心の知れた

大阪のスタッフで

撮ってもらいたいといったのでしょうか…

名古屋・御園座の｢松竹新喜劇」

｢松竹新喜劇」の公演は

大阪道頓堀の｢中座(なかざ)｣だけではなく

名古屋の｢御園座(みそのざ)｣ と

東京｢新橋演舞場(しんばしえんぶじょう)｣が

ありました



名古屋の｢御園座｣公演の録画中継に

われわれスタッフは出かけました

名古屋へは新幹線と近鉄があります

私は大阪ミナミの難波から近鉄特急で行きました



会社でカット割り済みの台本をもらって

近鉄車内で俳優さんをイメージしながら読み進みます

小島慶四郎(こじまけいしろう)、高田次郎(たかだじろう)、

小島秀哉(こじまひでや)、曾我廼家明蝶(そがのやめいちょう)

曾我廼家五郎八(ごろはち)、千葉蝶三朗(ちばちょうさぶろう)

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女優陣は曾我廼家鶴蝶(つるちょう)、酒井光子(さかいみつこ)

大津十詩子(おおつとしこ)、勝浦千浪(かつうらちなみ)

月城小夜子(つきしろさよこ)、四条栄美(しじょうえみ)

と多彩です



近鉄特急車内で俳優さんをイメージしながら

台本を読み進むと、ＪＲ名古屋駅の隣に到着します

｢御園座」では録画中継する芝居が始まります

翌日の本番に備えて、芝居の下見(したみ)です

俳優さんの出入りや、舞台上の各俳優さんの位置を

覚えて客席で台本にチェックを入れていきます。

客席は暗いので懐中電灯で台本を照らしながらですが

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｢松竹新喜劇」に限らず、舞台中継録画は

一回の下見で、次に本番です

藤山寛美３６００秒

｢松竹新喜劇」は関西で大人気で

ＮＨＫ、関西テレビ、讀賣テレビ

毎日テレビ、朝日放送と各局で

放送されました

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ＡＢＣでは｢藤山寛美３６００秒」の

タイトルで２０時００分～５４分

火曜日のゴールデンタイムに放映されました



一時間番組なので６０(秒)×６０＝３６００(秒)です

番組名を３６００秒としたのでした

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中座の公演が終わってから、深夜

この番組のために新しい演目のリハーサルを行って

翌日、昼間に上演されて

それを、中継車で録画していました



当時、すでに中継車に２吋ＶＴＲ録画機が２台搭載されて

生中継のとき放送時間に合わせて劇場側が

幕を開けるのではなく

舞台の開始のブザーに合わせて

ＶＴＲを走らせるようになりました

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中継車に搭載されている録画機の２台パラ運転で

２台のうち１台は万が一の事故に備えて予備運転でした



深夜の中座の舞台で藤山寛美さんを中心に

新作のリハーサルが行われるのですが

ストーリーの進行につれて、藤山寛美さんは

若手俳優さんに、演技指導するのです

｢台詞のここで一拍おくと笑いがとれる…｣

｢この台詞は大写して撮られるはずだから

下手のカメラの方を向いて芝居を…｣と

実にきめの細かくて的確な演出でした

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藤山寛美さんは喜劇の天才だとつくづく感じました

リハーサルが一段落すると、深夜の喫茶店から

中継スタッフ、劇場側関係者全員に珈琲が運ばれてきます

テレビ映画とズームレンズ

テレビカメラは単レンズのターレット盤から

ズームレンズに切り替わっていきました

次にテレビ映画にズームレンズが

使われ出しました



映画には移動撮影という手法があります

撮影中のカメラがロングから俳優さんの

ワンショットに近づいていく場面や

俳優さんの歩きにつれて、カメラも

横に移動していく場面があります

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移動撮影は、現場にレールを敷いて

トロッコの上にカメラを乗せて

俳優さんの動きと演技のきっかけで

縦や横方向に動かす時間のかかる

面倒なショットです



洋画では特にフランス映画に

移動撮影が多用されます

邦画では｢忠治旅日記」など名作を手がけた

伊藤大輔(いとうだいすけ)監督が

移動ショットやパン・ショットが

多用されていました

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移動撮影の好きな伊藤大輔監督のことを

「いどう大好き…？」とかげで云われていました



日本ではテレビ映画制作に１６ミリカメラが

使われていました。

１６ミリカメラは西ドイツ製｢アリフレックス」が

使われていましたが、フランスのアンジェニュー製の

ズームレンズが入ってきました

｢アリフレックス」カメラはミラーシャッターという

構造で一眼レフ方式です

一眼レフ方式のカメラとズームレンズで相性はピッタリです

藤山寛美さんとズームレンズ

ドラマを制作していく過程で

出演している俳優さんをカメラで撮るサイズは

俳優さんの全身のカットはＦＦ(フル・フィギュア)

俳優さんの半身像はウエスト・ショット

大写しはクローズ・アップと呼ばれています

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ドラマの進行につれて、カメラは俳優さんを

これらのサイズでとらえていきます

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単レンズ４本が取り付けられたレンズ・ターレット盤の

カメラでは、とられている俳優さんからカメラを見て

短いレンズの場合はＦＦショットの全身で

また、長く大きなレンズの場合はクローズアップで

撮られているなあ…と想像できます



ドラマは単レンズのターレット盤カメラから

ズームレンズ１本のカメラに変わってきました

ズームレンズの操作はズームシャフトの位置によって

焦点距離が連続的に変化していきます

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｢松竹新喜劇」の藤山寛美さんは

スタジオ・ドラマにも出演されていました

ドラマ・リハーサルで藤山寛美さんをとらえている

カメラを見ても、ズーム・レンズですから

どんなサイズで撮られているかわかりません



藤山寛美さんはクローズアップの場合は表情中心で

全身ショットの場合は身体全体でと演技を組み立てるそうです

ズームレンズのカメラはどんなショットで撮っているのか

わからない…

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そこで藤山寛美さんは、ズーム・レンズがズームインしたときは

レンズの上に旗が立つとか、なんとか目印ができないかと

云われました

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テレビカメラのズームレンズ化は、スタジオだけでなく

劇場中継のカメラも高倍率のズームレンズが使用される

ようになりました。

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舞台に立つ藤山寛美さんの悩みは増えるばかりです

ズームレンズとテレビカメラ

テレビカメラはレンズを通った映像を

光電面(イメージ・オルシコン管)で受けます

光電面で受け取った映像信号を本線とファインダーに

分岐します

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最近、流行のミラーレス一眼レフと同じ構造で

テレビカメラはすでに先輩でした

一眼レフはレンズとファインダーのパララックスは

全くありません。テレビカメラは

ズーム・レンズにとって理想的なカメラでした



単レンズを使用するレンズ・ターレット盤式カメラでは

レンズを交換するたびに、ガチャと音がすることがありました

一緒にテレビ番組を制作するスタッフ、音声係から

｢もう少し、静かにレンズ・ターレットを操作できないか！…」

とよく、文句を云われました



いつの間にか、テレビカメラはズームレンズが主流に

なりました。

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キヤノンズームレンズは次に１０倍、１２倍と

ズーム比を上げてきました

撮像できる画面が広がりました



いいことずくめのズームレンズでしたが

思わぬところから苦情を云われました

｢松竹新喜劇」の藤山寛美さんから

「あのズームレンズは何とかならないか…」と

私は云われました…

テレビにズームレンズ登場

テレビスタジオカメラ用に

新しくズームレンズが登場しました

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ニュース映画時代に映画館で皇居前メーデーの

会場シーンでズーム比２倍のズームレンズ使用の

カットを見たことがありましたが…

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テレビカメラ用ズームレンズは

キヤノン製でズーム比は７倍でした

ワイド側が３５ミリ位でズーム比、７倍ですから

３５×７≒２５０ミリでした

単レンズ４本のレンズ・ターレット盤に

取り付けて使用しました



画面の鮮鋭度にうるさい写真や

映画のスクリーンに比べて

テレビ受像機の画面は小さくて

鮮鋭度もあまり良くありません

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そこでテレビでは画面の鮮鋭度を

あまり問題にされないので

テレビカメラ用にキヤノン製の

ズームレンズが売り出されたのでしょうか？



セットのフルショットから俳優さんの

クローズアップへのズームインや

俳優さんのアップからセットのフルショットへの

ズームアウトのショットは目新しく感じられました

大阪テレビだけでなく全国的にテレビ局の

テレビカメラは単レンズ４本のターレット盤から

ズームレンズ使用に移行していきました

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東西のテレビ局カメラマンの間で

このズームレンズとは何ぞや？と

使用と効果について激論が戦わされました

｢松竹新喜劇」生中継

当時、｢松竹新喜劇」中継はテレビの

ゴールデン・タイムには打って付けの

番組だったのでしょう

夕餉の一家団欒のひととき、

午後７時～午後１１時ごろを

テレビではゴールデン・タイムと呼んでいました

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大阪テレビではこの時間(２０時～６０分・土曜日)に

｢道頓堀アワー」として放送されていました



｢松竹新喜劇」の人情喜劇が家庭の居間に

相応しかったのでしょう

在阪テレビの大阪テレビ、関西テレビ

讀賣テレビそれにＮＨＫ大阪と４局が

それぞれ、中座から中継していました



｢松竹新喜劇」側と４テレビ局がそれぞれ

どの演目を中継するか会合を重ねて

決めていたのでしょう



道頓堀｢中座」から生中継する場合

中座の横の高いビルの屋上にテレビ局に向けて

パラボラアンテナを設置して中座、舞台の映像を

マイクロ波(電波)で飛ばします

テレビ局マスターでは、受信した｢中座」からの映像に

番組タイトルや番組紹介アナウンスをつけて放送されました

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当時は劇場中継は生放送でしたから

地方のテレビ局にネットしていたかも

知れませんが、良く覚えていません

思い出の｢松竹新喜劇｣

渋谷天外(しぶやてんがい)、

藤山寛美らの｢松竹新喜劇」は

大阪では、道頓堀の中座で

公演していました

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大阪以外の地方巡業としては

京都｢南座」、名古屋｢御園座」

東京｢新橋演舞場」がありました



私が中学生の頃

芝居好きの母親に連れられて、

｢松竹新喜劇」を京都四条

南座で観たのを思い出しました



母親は、舞台に登場した若手俳優さんを指さして

「あの人が藤山寛美よ…」と

私に教えてくれました



中学生の私が観た、｢松竹新喜劇」を

今度は仕事として大阪｢中座」へ出かけるとは

なんとも感無量でした

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母親と一緒に劇場(演劇)に出かけたのは

この｢松竹新喜劇」だけでした。

松竹家庭劇

中座の渋谷天外、藤山寛美さんで

人気の｢松竹新喜劇」は、熱烈なファンや

一般客のほかに団体さんを受け入れていました

団体さんは劇場、劇団にとって大事なお客さんでした



しかし、団体さんは商店街の大売り出しの

景品としてもらった観劇券で、しかも

弁当付きだから行ってみようか…で

ファンや一般客ほど熱心な観劇客ではありません



昼食の時間が来ると、舞台に関係なく

弁当の包みを開いて、客席がざわざわしてきます

この客席の有様に舞台の俳優さんはどう思っているのか

気になっていました



｢松竹新喜劇」からわかれて、同じ道頓堀

朝日座で公演していた曾我廼家十吾(そがのやとうご)の

｢松竹家庭劇」生中継の打ち合わせで

楽屋にお邪魔したとき、同劇団の看板女優

由良みち子さんに

｢客席で弁当を使っている観客が気になりませんか？…」と

聞いてみました。

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「ようし熱演で、そのお客さんの箸を止めてやろう…」

逆に芝居にファイトが沸いてくる…。と笑顔で

由良みち子さんは話されました

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｢松竹家庭劇」の座長、曾我廼家十吾さんは｢婆さん役」が

得意芸でした。