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常温常圧でアンモニアを合成

2019-05-02 10:08:28 | 化学
東京大学の研究チームは、窒素ガスと水から常温常圧下でアンモニアを効率的に合成する新手法を開発しました。

アンモニアは食料生産に欠かせない肥料の原料や工業製品の原料となりますが、工業的な合成は100年前に開発された、莫大なエネルギーを必要とする手法が今も使われています。この手法が実用化できれば、省エネルギーで肥料が生産できると期待されています。

原料の窒素は空気中に豊富に存在していますが、反応しにくく利用は難しいものです。私も窒素は不活性ガスとして、色々な反応条件下でも全く関与せず、微量の酸素や水を嫌う反応では、窒素ガスを流しながら反応させるというのが常識となっていました。

工業生産では約100年前に開発された「ハーバー・ボッシュ法(HB法)」が使われていますが、この方法は400℃以上の高温と、100気圧を超える過酷な条件で窒素と水素を反応させます。

この方法では全世界のエネルギー消費の1~2%がこの合成法で費やされるとされ、多くの二酸化炭素を排出する問題点も抱えています。この改良研究はいろいろ行われてきましたが、触媒として非常に高価な金属などが必要になるなど、工業化できませんでした。

研究チームは、生物がアンモニア合成に使う酵素に着目しました。この酵素についてはよく分かりませんが、レンゲなどの植物が持っているポルフィリン系の酵素と思われます。この酵素に含まれているモリブデンを使った触媒を開発しました。

さらに有機合成化学で広く使われているヨウ化サマリウムを組み合わせると、常温常圧下で窒素ガスと水の中の水素が効率よく反応し、アンモニアが生成されました。モリブデン触媒は比較的安価としていますが、さらに良い触媒も検討しているとしています。

ヨウ化サマリウムは反応終了後に再利用が可能で、実用化に向けた共同研究を日産化学と始めているようです。

HB法は耐圧、耐熱性の大規模な装置が必要となりますが、この方法であれば通常の反応容器で十分であり、必要に応じた大きさも選択可能であり工業化に向けたメリットも大きいとしています。

この反応はアンモニアという有機化合物の製造といっても、反応自体は無機化学に近いものですので、どんな感じのものなのかのイメージは分かりにくいのですが、水溶液中で共にほとんど溶けない2種のガスを反応させるのはかなり面白いものと言えます。

生成したアンモニアは水溶性が高いため、溶媒である水に溶け込むというメリットもあります。アンモニアは現在でも農業や工業に必須の化合物ですので、安価で簡単な製造法が確立されることを期待しています。