化学物質が招く肥満リスク

世界中で肥満が非常に速く拡散しており、日本では少ないものの成人男性の3割、成人女性の2割が肥満になっているようです。

その原因は過食や運動不足などといった生活習慣の乱れだけとは限らず、環境化学物質が肥満に関係するといった報告もあり、注目を浴びています。

我々の身の回りには多くの化学物質が存在しており、プラスチック製品や壁紙、工場や車などの排出ガスなど様々です。それらが口や鼻や皮膚などを介して体内に取り込まれています。こうした環境化学物質がインスリン抵抗性やインスリン分泌に影響を与える可能性があり、肥満や糖尿病発症に関係するのではないか、と注目を集めいています。

すでに2000年には、国の助成金で環境化学物質が肥満を誘発する可能性についての研究が行われ、環境化学物質が脂肪細胞の分化に関わり、肥満を誘発する可能性が報告されています。

ヒトが太るときは、身体の中で脂肪をためる貯蔵倉庫の役割をしている白色脂肪細胞が大きくなります。たくさんの中性脂肪を抱え込んだ脂肪細胞は、まるで風船のように膨らみ、これは脂肪細胞肥大型肥満と呼ばれ、妊娠、出産、中年になって太る人に多く見られます。

脂肪細胞はその数が際限なく増えないように分化を抑制する転写因子が備わっています。ところが環境化学物質があるとこの転写因子がその能力を発揮できなくなり、脂肪細胞の数が増えていく可能性があるようです。

昨年アメリカハーバード大学の研究チームが、パーフルオロアルキル化合物（ＰＦＡＳ）の血中濃度が高いほど減量後のリバウンドが大きいことを明らかにしました。

ＰＦＡＳはフライパンのコーティングに使用されているテフロンの製造過程で使われていたもので、水の汚れを防ぐ機能に優れていることからカーペットクリーナー、フローリングワックスなど日用品にも広く使用されています。

研究は過体重もしくは肥満の成人男女621人を対象に、研究開始時に血中ＰＦＡＳ濃度を測定し、体重の変化との関連を2年間追跡しました。その結果、血中ＰＦＡＳ濃度と減量後の体重増加との相関がみられ、その傾向は特に女性で顕著だったとしています。

肥満とかかわりの深い糖尿病は大気汚染により発症リスクが高くなるという報告もあります。肥満が色々な病気のリスクを高めるのは確かなようですが、肥満は60％以上が遺伝子によって決まるという説もあり、原因を探すのは難しいようです。

その中のひとつとして環境化学物質という可能性は、なかなか解決できない難しい問題なのかもしれません。