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細菌性食中毒「カンピロバクター」の正体 その2

2022-09-14 09:27:21 | 健康・医療
前回食中毒菌のカンピロバクターについてその特徴を紹介しました。

この菌は分裂速度が非常に遅く潜伏期が長いことや、非常に少量の菌でも発症することを書いてきました。

カンピロバクターのもうひとつの特徴は治癒後の後遺症として、ギランバレー症候群を発症することがあります。この病気は自己免疫疾患であり、なんで細菌感染症でこんな病気が発症するかに興味がありました。

どうもそこにはこの菌が持つ、ヒトの免疫をごまかす仕組みが関係しているようです。カンピロバクターを含むグラム陰性菌の仲間は、細胞の表面にリポポリサッカライド(リポ多糖)という糖鎖のついた分子を持っています。

カンピロバクターの場合他のグラム陰性菌と比べて、その糖鎖が短いという特徴があります。このことからリポ「ポリ」サッカライド(LPS)ではなく、リポ「オリゴ」サッカライド(LOS)と呼ばれています。

この糖鎖の一部がヒト神経線維の表面を覆う「髄鞘」に存在するGM1とういう糖脂質(ガングリオシド)の糖鎖と共通なのです。

つまりカンピロバクターは、自分の菌体表面をヒトと同じ糖鎖でカムフラージュすることで、異物として認識されにくくしていると考えられます。

ところがヒトが生まれつき持つ分子ですので高い確率ではないのですが、カンピロバクターに感染すると菌を排除しようとして表面の糖鎖(ヒトGM1と同じです)に対する抗体が大量に誘導されることがあります。

これによってカンピロバクターを排除することはできるのですが、食中毒が治まった後この抗体が勢い余って自分自身の神経細胞を異物だと誤認して攻撃してしまうのです。その結果神経線維の髄鞘が破壊されて、脳からの信号をうまく伝えられずにマヒが生じます。

こうして生じる自己免疫疾患が、カンピロバクター感染後のギランバレー症候群だと考えられています。

ついでになぜカンピロバクターが少数でも感染可能なのかについて触れます。これはよく分かっていない部分もあるようですが、一部の菌株からは胃酸に抵抗するためのpHストレス応答遺伝子が見つかっています。

こういった菌株はストレスが加わると「コッコイド」といわれる球状のものに変化することが報告されています。カンピロバクターは生の肉などにもこの状態で存在していて、摂食後にヒトの腸内で何らかの刺激を受けて息を吹き返し、食中毒に寄与しているのかもしれません。

こういったことも含めてこの菌の生態を解き明かすことで、いつの日かになりますが安全に生食できる鶏肉が食卓に並ぶようになるのかもしれません。


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