ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

色々な病気に関わることもある「体質」のはなし

2023-09-25 10:33:44 | 自然
「体質」とは何かというのは、なかなか難しい問題で、この言葉は最近の医学書には登場しません。

昔はその人の体に本来備わった特徴を「体の性質=体質」と呼んでいました。たとえば虚弱体質といえば顔色が悪く、やせて体力が無くて病気になりやすい人のことを指します。

体質がその人の体に本来備わった特徴であるなら、一生を通じて変わらないはずです。しかし実際には突然花粉症になったり、ランニングをするようになったら風邪をひかなくなったというように、体質が変わったとしか考えられない現象が起こります。

辞書には体質をこう定義しています。「からだの性質。遺伝的要因と環境要因との相互作用によって形成される、個々人の総合的な性質。」となっています。

体質というと、生まれつき備わった遺伝的要因だけに目を向けがちですが、環境要因も体質に大きな影響をおよぼすと考えられています。ここでいう環境要因は食生活、喫煙、気候、細菌やウイルス、紫外線、ストレス、睡眠など身体に影響を与えるすべての出来事と行動を含みます。

この定義は、病気が起きる原因について昔から医学者たちが考えたものと同じです。この病気の中で遺伝的要因が大きな原因になって発生するのが遺伝子病、環境要因の影響がおおきいのが骨折などのケガです。

遺伝子病は遺伝子の異常により発生する病気のことで、筋ジストロフィー、血友病、高コレステロール血症などが有名ですが、遺伝子の異常は突然変異でおこることもあるので、親から受け継いだとは限りません。

そして遺伝的素因と生活習慣を含む環境要因の両方が発生に影響するのが、糖尿病などの生活習慣病、ガン、感染症です。

このように病気の発生に関わる体質も、遺伝子によって決まり基本的に一生変わらない部分と、生活環境やストレスなどの生活習慣によって変わる部分があり、日常生活においてはこれらをひっくるめて漠然と「体質」と呼んでいます。

たとえば感染症は遺伝子とは無関係のような気がします。インフルエンザが毎年流行りますが、毎年のように罹る人もいれば全くかからない人もいます。近年病原体の感染しやすさに関わる遺伝子が次々に見つかっています。

たとえば2015年には8番染色体に存在するある遺伝子に変異が起きると、結核菌に感染しやすくなることが示されました。このあたりの詳細は省略しますが、遺伝子によって感染症のかかりやすさが異なってくるのは確かなようです。

また体にはガン化した細胞や入り込んだ病原体を殺したり、体の外に追い出したりする防衛機能があります。この機能にも遺伝的要因に基づく個人差があるので、同じような危険にさらされても誰もが病気になるわけではありません。

こういったことをすべて含めて「体質」と呼んでいますので、よけい難しくなっているのかもしれません。

アルツハイマー病治療にも役立つ既存薬

2023-09-24 10:37:23 | 
アルツハイマー病の治療薬が最近承認されたことをこのブログでも取り上げています。

ケンタッキー大学の研究チームが、多発性硬化症の薬にアルツハイマー病を治療する効果がある可能性を発表しました。

研究チームは、「ポネシモド」という成分がマウスとヒトの脳組織において、アルツハイマー病の患者に見られる有毒なアミロイドプラーク形成や炎症を抑える働きをすることを発見しました。

細胞受容体ミクログリアの働きが、アルツハイマー病やその他の神経性疾患に関わっているのではないかという仮説を展開して研究を進めました。ミクログリアは脳の免疫反応を制御し、有害老廃物を排出する働きがあります。

このひとつにアミロイドβというタンパク質がありますが、これが脳にたまりプラークと呼ばれる塊になってしまうとアルツハイマー病の原因となります。

健康なミクログリアはこれが起きないように働きますが、アルツハイマー病が進むことで、機能不全に陥ったミクログリアの生産を引き起こす可能性があります。

研究チームは過去の研究から、溜まってしまったアミロイドβが、Spns2という受容体を介してミクログリア細胞に悪影響を与えている可能性を検討しました。このSpns2を制御する働きのある薬を使いこの一連の流れを止められないかを研究し、その薬として多発性硬化症の薬のポネシモドを見出しました。

実験で用いたのはアルツハイマー病的疾患を発症したマウスとヒトのミクログリア細胞で、両者においてポネシモドは期待通りの働きを発揮しました。ミクログリアが引き起こす炎症を抑えるとともに、異常なアミロイドを脳から排出する能力を高めていることが分かりました。

研究チームは、タンパク質の除去はアルツハイマー病の治療において非常に大きな意味があり、脳内の有害タンパク質を排出する神経細胞を保護する細胞へとミクログリアを再プログラムし、アルツハイマー病の神経炎症を軽減、マウスの記憶を向上させることができたと述べています。

今回のように既存薬を使えば研究スピードが上がるとしていますが、多種の既存薬からどのようにポネシモドを選択したかは触れていません。既存薬であれば、その安全性などは確認されていますので、開発が容易になることは確かといえそうです。

これが本当にアルツハイマー病の治療薬となり得るかは、まだ多くの研究が必要ですがその一歩を踏み出したとはいえそうな成果です。

「皮膚」の刺激だけで「内臓の動き」が変化する

2023-09-23 10:32:57 | 健康・医療
私は若いころ何となく身体の調子が悪くなり、「自律神経失調症」と診断されました。薬を飲むとすぐに良くなったのですが、その後しばらくはこの薬が常備薬となっていました。

最近交感神経と副交感神経以外の「第三の自律神経」も見つかっているようです。ここでは自律神経についての解説を紹介します。

まずは東京都老人総合研究所のマウスを使った交感神経の電気活動を見た実験です。麻酔したネズミの腹部の皮膚をブラシでさすったり、ピンセットでつまんだりすると、胃の働きが一時的に抑えられます。

この時胃に行く交感神経の電気活動を見ると、活発になっていきます。一方胃に行く副交感神経の電気活動に変化は認められません。つまり腹部の皮膚の刺激で胃の働きが抑えられるのは、交感神経の働きによると考えられるわけです。

つぎにこの麻酔したネズミの前足や後足の皮膚を刺激すると、今度は胃の働きが活発になります。この時は胃の交換神経活動は変化せず、胃の副交感神経が活発になっていきます。

このように実際に内蔵の働きとその時の自律神経の電気活動の両方を見れば、内臓の機能と自律神経の関係が分かります。この実験では皮膚圧反射のように皮膚への刺激という事が、無意識のうちに内臓の働きを変えてしまっているのです。

このように腹部の皮膚刺激だと胃の働きが抑えられ、手足の刺激だと胃の働きが活発になります。これは反射中枢が異なるために起きている現象で、腹部の皮膚刺激による胃の反射の反射中枢は「脊髄」で手足の皮膚刺激による反射の反射中枢は「脳幹」であることが分かりました。

この脳を介さない反射は「分節性反射」とよばれ、反射中枢が脳幹にある場合は「全身性反射」と呼ばれています。両者とも「反射」ですので、基本的には意識に上ることはありません。こういったことを利用したものが東洋医学の鍼治療となります。

鍼をどこに打つかで効果は違い、どこがより効果があるかは内臓によって異なりますが、実際には分節性反射と全身性反射が複雑に絡み合っているようです。

マッサージによって血流が改善されたり、鍼や灸、指圧などの治療を受けることで内臓の症状が改善されますが、こうした効果の基本にあるのが体性‐自律神経反射というメカニズムです。

ここでは自律神経の解説というより、東洋医学の効果の謎の説明になってしまいましたが、こういったことはかなり進んでいるようです。

なんとなく鍼や灸には不信感がありましたが、かなりしっかりした科学的根拠があるといえそうです。

50歳未満のガンが世界的に増加

2023-09-22 10:33:02 | 健康・医療
日本では死因のトップとなっているガンですが、高齢化すると遺伝子変異の修復能が衰えるため増加すると考えられています。

ところが50歳未満でのガンの発症例が世界的に増加しているとする研究論文が発表されました。ガンは高齢者に多く見られるものの、論文によると50歳未満のガン(早期発症ガン)患者数は過去30年間で増加しているようです。

2019年には世界全体で50歳未満の182万人がガンと診断され、105万人が死亡したことが報告されており、1990年からの増加率は79%としています。発症増加が特に顕著なのは気管ガンと前立腺ガンで、年間でそれぞれ2.28%と2.23%のペースで増加していると推定されています。

早期発症ガンで発症例と死亡例が最も多かったのは乳ガンで、2019年の10万人当りの症例は13.7人、死亡例は3.5人となっています。非黒色腫皮膚ガンを除外すると、乳ガンは世界で最も多いガンとなっています。

死亡例の増加率が最も高いのは腎臓ガンと卵巣ガンで、続いて乳がん、気管ガン、肺ガン、胃ガン、大腸ガンとなっています。

論文の研究チームによると、早期発症ガンの増加は世界的な傾向ではあるが、2019年の罹患率は北米、西欧、オーストラリアの富裕国で高かった一方、死亡率は中央アジア、東欧、オセアニアでは不釣り合いに高かったとしています。

研究チームは、過去30年間の傾向を踏まえ、早期発症ガンの新規症例と死亡例が2030年までにそれぞれ31%と21%増加すると予測しています。早期発症ガンが増えている理由ははっきりしていません。

ガンは細胞の増殖に歯止めが効かなくなり、体の他の部分へと広がっていく疾患です。原因は細胞の成長抑制を司る遺伝情報が損傷することにあり、こうした変異は時間の経過とともに増えるため、高齢者にガンが多いことは説明できます。

ガン発症の要因はさまざまで、遺伝性素因、特定のウイルスへの感染、汚染物質などの環境要因、食生活、運動、薬物使用、アルコール摂取、喫煙などが関わっており、早期発症ガンの増加を1つの理由で説明することはできないと研究チームは指摘しています。

研究チームによると、米国における子宮頸がんの健診の普及など、検査体制や医療制度の改善が症例増加を部分的に説明できるかもしれません。またライフスタイルの変化、特に肥満人口の増加と運動不足や環境汚染などの要因も原因となっている可能性があるとしています。

このように50歳未満のガンの増加というのは、私には関係ないとはいえやや気持ちの悪い研究結果といえます。病気の増加の原因は、単なる気休め程度のものが多いのですが、常に出てくる食事や運動で片づけてしまうのでは、進展がないような気がしています。

体長1ミリの「線虫」の生物学の常識を覆す生態

2023-09-21 10:36:21 | 自然
最近テレビのCMで「線虫」を用いて尿を調べることで、体内のガンの有無を調べるという事が宣伝されています。線虫がなぜガン患者の尿に集まるのかは分かっていないようですが、線虫には不思議な能力があるようです。

体長わずか1ミリの小動物ですが、線虫は生命現象を分子レベルで理解しようとする分子生物学のモデル生物として知られ、1960年代から研究されてきました。

最近の研究ではシャーレ内を秒速1ミリで這う線虫が、突然立ち上がって約1センチ先に飛び移ることがあり、そのスピードは秒速1メートルという1000倍の加速となります。この線虫の加速装置の正体は静電気でした。

体を植物でこすったマルハナバチを近づけると、線虫は静電気に吸いつけられてハチの体に飛び移ります。こうして線虫の仲間は昆虫や動物の体に飛び乗って地球全体に広がったとしています。

大阪公立大学の研究によると、納豆菌をエサに与えた線虫は大腸菌がエサの場合より寿命が長く、紫外線や酸化ストレスにも強いようです。大腸菌で育てた線虫の平均寿命は15.6日ですが、納豆菌に変えると17.8日に延びました。

強い紫外線を照射後の余命も、納豆菌を食べさせると8.99日から10.83日へと長くなりました。逆に健康に悪い影響を及ぼすのが緑膿菌で、線虫に食べさせると短期間で死んでしまいます。

不思議なことに緑膿菌を食べた線虫が死ぬまでに生まれた子の世代は、一度もあっていない緑膿菌を避け、この行動が孫やひ孫の世代まで受け継がれます。緑膿菌を避ける線虫の体内では、緑膿菌の遺伝子の一部をコピーした短いRNAが大量に作られ、神経細胞で働くようです。

このRNAは線虫の卵巣などにもあり、子孫に「記憶」を伝えているとみられます。知識や経験など成長に伴って獲得した性質は遺伝しないという従来の生物学の常識を覆した発見で、ヒトにも同様の仕組みがあるか解明が待たれるところです。

ドイツなどの研究チームが、シベリアの永久凍土で約4万6000年間も眠っていた線虫の仲間が復活したとする論文を発表しています。線虫に関しては、新型コロナワクチンで注目されたRNAもブレイクスルーは線虫の研究から始まっているようです。

こういったことから線虫は扱いやすく、国際的な共同研究も盛んなので、今後も驚くような成果が出てくるだろうと期待されています。

私は線虫がガン患者の尿に集まるのはどんな物質を認識しているか調べてみたいのですが、こういったバイオアッセイは非常に難しいと予想されます。

それでも線虫というのは、調べればいろいろ面白いことが出てきそうな対象といえるようです。