ほんとに感動したことっていうのは、何十年前のことでも、数年に
一度思い出すもの。昨日、庭に咲いてる花を見てふと思い出し
たことがある。
俺が子供の頃はあちこちにたんぽぽの花がたくさん咲いていて、
花が終わったあとの胞子を「ふぅ」と吹いてよく遊んだ。でも、俺が
成人になる頃には、たんぽぽも、それを吹いて遊んでいる子供も
ほとんど見なくなってしまっていた。
そんなある日。たぶんどこかから引っ越してきたんやろう、あまり見
かけない少女がたんぽぽの胞子を持って家の庭先にやってきて、
「おじちゃんの家たんぽぽないねぇ、私が咲かしてあげる」
と言って、「ふぅ」と吹いてくれたのだ。
その時は、おじちゃんじゃなくてお兄ちゃんやで、などどお決まりの
フレーズを使うことも忘れ、飛んで広がる胞子を見ながら、その少
女の心根の優しさにただただ、感動していたことを覚えている。
それから一年、我が家の庭先にはたんぽぽの花があふれていた。
今その少女がどこで何をしてるのかはもちろん分からない。でも、
この子は最近のおかしな事件を起こすような人には絶対になって
いないと思う。
自分たちの子供にもこのような優しい気持ちを持って欲しいと願
うと同時に、灼熱のアスファルトばかりの昨今、せめて一輪のたん
ぽぽが育つ場所くらいは残して欲しいと思うのだ。