今日、パソコンの古いファイルを整理してたら、下の娘が成人になった時
書いた文が見つかった。ちょっと時期外れではあるけれど、ジダンの頭突き
ばっかりでもそれこそ頭が痛くなるので、今日はこれを載せようと思います。
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成人式。昨今それは、ばかばかしさの代名詞みたいなものになった。
人前で、公道で、暴れる、叫ぶ、飲む、練り歩く。でも“はったり”の大切さ
なんかまだ知る由もないから、つっぱりきれずにTVにピースサインで写る。
目立ちたいくせに、お揃いの衣装で行動もお揃いやから目立たない。
金魚のほうがちょっとだけ賢い、たぶん。
まぁ、悪い印象は、中国人の日本批判みたいに、仲間を募って、最後は
街宣車に乗って大挙してやってくるから、大多数の現代のフツーの成人達
の声は容易にかき消されてしまう。だからこんな人はほんの一握りで、皆が
皆こうじゃないことは分かるけど、皆が皆こうだと言われても納得できたりす
るから、今の世は恐ろしい。
まぁ、振り返って見れば自分も偉そうに言えるような自覚はなかったし、とに
かく目立ちたいって考え方がなくもなかった。精神的にも幼かったし、警察
に捕まるようなマネをする、鈍角な勇気も持ち合わせてはいなかった。
悲しいことに今でも成人とは思われへんねんからお笑いにもならない。
ただ、その頃と違うのは子供を持つ父親になっていることだ。
この1月、我が家の次女が成人になった。
おなかの中にいる時から、とにかくよく動く子で、妻のおなかの中で“でんぐり
がえし”をしたり、おなかを蹴飛ばしたり、二人でこの子の動き方は尋常じゃ
ないなと話していたその暴れん坊が。
やはり、おなかの中にいた時の予想は当たっていた。幼少の頃からとんでも
ないいたずらっ子で、抱いている時間より、叩いている時間の方が長かった。
水が大好きで、洗面台にティッシュを詰めて水を出しっぱなしにして、家中
の床にパナマ運河を作ったり、便器に手を突っ込んでウン気をつかんだり。
家の中でも外に出ても、とにかく水を求め、水を見つけるとまさに水を得た
魚のごとく遊んだ、というか、1ccの水でも泳いでいた。どんなに言い聞かせ
ても、おしりが真っ赤になるまでたたいても、結局翌日にはまた、我が家は
大阪のベニスと化していた。
まぁ、そんな調子で中学・高校と過ごした娘も、卒業して社会人になった頃
からようやく落ち着きをいうものを身に纏うようになってきて、成人式には、小
さい頃はどんなに着せようとしてもフギャー!ウギャー!と断末魔の叫びを発
し、暴れて全く着ようとしなかった着物を着ると言い出した。幸い前年に長女
が同じく成人式で着た振袖があったので、それを着せることにした。本人も気
に入っていたようだったし。
式当日。髪をセットし着付けも終わった娘に、妻は、振袖っちゅうのはとにか
く高価なので、汚れや臭いにはくれぐれも気をつけるように、焼肉屋さんとか、
たばこの臭いのたまる場所に長居をするようなマネはしちゃダメよ、とコンコンと
言い聞かせていた。その頃、娘はやはり三つ子の魂、もう着物は窮屈だの
しんどいだの、そんなことより早く脱ぐのだというどこで習ったか分からないストリ
ッパー精神も加わって、だから振袖なんかイヤなのよモードに突入していたの
だが。
まぁ、なんだかんだと言いながらも、とにかくそれで娘はご丁寧に市の方が用
意してくださった成人式ルーティーンを終えて戻ってきた。
ところがなんと!あれほど注意して着るようにいった振袖に“たこ焼き”の臭い
がついている!明石産とオホーツク産のたこの臭いを嗅ぎ分ける大阪人だか
らこそ分かる、お好み焼きとは違う、あのたこ焼きの臭いが!
ここはもう飯島直子と待ち合わせをしていても、直子を待たせて父親として
の威厳を示すべきところである。さっそく、こう言って話を始めた。
俺:「あれだけ言ったのになんでたこ焼きの臭いなんかつけてきたんや!」
娘:「いつもお世話になってるたこ焼き屋のおばちゃんが振袖をみたい、ていう
から見せにいってきた」
父:「たこ焼きの臭いがつくのが分かっててか?」
娘:「うん」
父:「えらーい!」
何のことはない、俺は怒るどころか娘を褒めてしまうことになったのだ。
娘は親の注意を忘れていたわけではなく、着物にたこ焼きの匂いがつくことを
知らなかったわけでもなかった。それでもあえて、お世話になった人の心に応
えようとした。そういう心を持てる人なら、成人と呼んでもいいと思った。振袖
なんてどうでもよかった。賞賛に値すると思った。
あの手のかかった娘が。魚ちゃうかとまで思った娘が、成人になった。
親のいうことを聞かない、ということがうれしくて涙が出るとは思ってもみなかった。
今年の成人式の思い出は、たばこでもなく、ましてや香水でもなく、たこ焼き
の匂いのついた振袖。
そんなんあるか?ま、ええか、大阪人やし。