６月 １８日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　（　かき氷・氷菓・氷屋　）



氷屋の旗に親友還り来よ　　　　　　　　　　　　　　　沢木欣一


氷菓互ひに中年の恋ほろにがき 　　　　　　　　　　　秋元不死男


山里のバスを待つ間のかき氷　　　　　　　　　　　　 竹内光江


くたびれて坐す江東の氷菓賣 　　　　　　　　　　　　黒田杏子


かき氷くづしどうでもよかりけり 　　　　　　　　　　　奥坂まや


氷屋の洗ひ晒しの旗を垂れ 　　　　　　　　　　　　　西村和子


六月の氷菓一盞の別れかな 　　　　　　　　　　　　　中村草田男


現在も稚拙な愛なり氷菓を木の匙に 　　　　　　　　　磯貝碧蹄館

６月 １８日

　　　　　　　　　　　　　　　（　　沙羅の花・夏つばき　）


あはあはと沙羅の花びら空にあり 　　　　　　　　　　沢木欣一


夏椿こらへかねたる白さかな 　　　　　　　　　　　　佐藤美恵子


騙されてまた人となる沙羅の花 　　　　　　　　　宇多喜代子


夏椿峡の湯岩古くなりぬ 　　　　　　　　　　　　　　横光利一


沙羅咲いて花のまはりの夕かげり 　　　　　　　　　　林 翔


一夜寝て一夜うしなう夏椿 　　　　　　　　　　　　　小池万里子


沙羅の花夫を忘るるひと日あり 　　　　　　　　　　　石田あき子


沙羅の花ひらきそめしは光り合ふ 　　　　　　　　　　平野恵美子

６月 １７日

　　　　　　　　　　　　　　（　蕃茄・トマト　）


妻も濡る青き蕃茄の俄雨 　　　　　　　　　　　　　　山口誓子


青トマトすくすく伸びし童女の背 　　　　　　　　　　相馬 遷子


たちいでて青き蕃茄をもがれけり 　　　　　　　　　松村蒼石


トマト青し夕映えてなほ青し 　　　　　　　　　　　　松尾隆信


水はじきトマトまんまる朝の卓　　　　　　　　　　　 藤田裕子


古書街に日は昇りけり青トマト 　　　　　　　　　　　斉藤夏風


トマト新鮮リヤカー部隊脊振から　　　　　　　　　　 鮫島康子

６月 １６日

　　　　　　　　　　　　　　　（　萓草・忘草。かんぞうの花　）


萓草が御裳の裾の花と咲く　　　　　　　　　　　　　　　　細見綾子


野に咲いて忘草とはかなしき名 　　　　　　　　　　　　　下村梅子


萓草の黄からはじまる野の夜明 　　　　　　　　　　　　　後藤比奈夫


忘草風がおもねるとき散れり 　　　　　　　　　　　　　　　粕谷南城


行く先々の萓草がもう嫌になりぬ 　　　　　　　　　　　　大石悦子


無宿墓そびらに長けし忘草 　　　　　　　　　　　　　　　　山城やえ


萓草の十時にひらく双子の家 　　　　　　　　　　　　　　　宮坂静生




野萓草




藪萓草

６月 １４日

　　　　　　　　　　　　　　　　　（　野茨の花。花茨・花うばら　）


野いばらの花や昨日の歌今日の歌　　　　　　　　　　　　　細見綾子


茨咲きぬ朝は真珠のいろに覚め 　　　　　　　　　　　　　　石原八束


茨咲く水の迅さよ旅をゆく 　　　　　　　　　　　　　　　　　　中村汀女


教師呉れしは所詮知恵なり花茨 　　　　　　　　　　　　　　寺山修司


花茨ゴルフボールが孵りさう 　　　　　　　　　　　　　　　　鍵和田釉子


花うばら信濃へ抜ける風ばかり 　　　　　　　　　　　　　　大獄青児


鳥海山に雲垂れて来し花うばら 　　　　　　　　　　　　　　堀 文子

６月 １３日

　　　　　　　　　　　　　　　（　蝸牛・でで虫・でんでん虫　）


かたつむり婚十年の二階住み　　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし


妻の疲れ蝸牛はみな葉の裏に 　　　　　　　　　　　　　　沢木欣一


でで虫や石積むだけの祝女の墓 　　　　　　　　　　　　　玉城一香


円卓にぬきさしならぬ蝸牛 　　　　　　　　　　　　　　　　宇多喜代子


木に草に雨明るしや蝸牛 　　　　　　　　　　　　　　　　　長谷川 櫂


ねむたくて殻を曇らす蝸牛 　　　　　　　　　　　　　　　　鷹羽狩行


でで虫の角を伸ばして風量る 　　　　　　　　　　　　　　　松村多美


かたつむり甲斐も信濃も雨の中 　　　　　　　　　　　　　　飯田龍太


かたつむり利休ねずみの影をひく 　　　　　　　　　　　　　石原八束

６月 １１日

　　　　　　　　　　　　　　　（　百合　）


佐渡の百合海の夕日の色なせり　　　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし






鹿子百合朝の冷牛乳濃かりけり　　　　　　　　　　　　　　　　沢木欣一






谷住みの鬼百合の朱のあざやかに　　　　　　　　　　　　　　　細見綾子






放馬五頭山百合雲の上に咲き 　　　　　　　　　　　　　　　　　大野林火






朝市へ鉄砲百合を肩抱へ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 矢島渚男






すかし百合ちらほら見ゆる御殿場線　　　　　　　　　　　　　　 高澤良一

６月 １０日

　　　　　　　　　　　　　　　　　（　青柿　）


本棚に青柿二つ子規祀る　　　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし


青柿に囲まれし家豆腐冷ゆ　　　　　　　　　　　　　　　細見綾子


城守る青柿ばかり会津なる 　　　　　　　　　　　　　　　杉本寛


青柿の青のきびしさ地をうてり 　　　　　　　　　　　　　石原舟月


青柿や秘仏小さき円通寺 　　　　　　　　　　　　　　　　加藤三七子


青柿やアルバムに見る幼な顔　　　　　　　　　　　　　　 阿部寿雄


青柿の堅さ女の手にすわる　　　　　　　　　　　　　　　 西東三鬼







　二人目の孫は元気な男の子　顔を見てきました
　　　　　名前は悠太　　　青柿や百面相の児のねむり

６月 ９日

　　　　　　　　　　　　　　（　青梅・実梅・梅の実　）


落ち梅が砂利に傷つく出勤路　　　　　　　　　　　　　　　沢木欣一


青梅を洗ひ上げたり何の安堵　　　　　　　　　　　　　　　細見綾子


青梅の酸にとほくより責められて　　　　　　　　　　　　　 秋元不死男


実梅から眼を離さずに竿で打つ　　　　　　　　　　　　　　 橋本美代子


牛の顔大いなるとき青梅落つ 　　　　　　　　　　　　　　　石田 波郷


青梅や島といへども国分寺 　　　　　　　　　　　　　　　　角川源義


再検診実梅落つるにまかせたり　　　　　　　　　　　　　　 鍵和田釉子


青梅を採りつくしたる顔洗ふ 　　　　　　　　　　　　　　　　岡本眸

６月 ４日

　　　　　　　　　　　　　　　　（　茄子の花　）


茄子の花巧言令色滅ぶべし 　　　　　　　　　　　　　　　　沢木欣一


霧降るが見ゆる茄子の末の花　　　　　　　　　　　　　　　細見綾子


下駄鳴つて水屋ともれり茄子の花 　　　　　　　　　　　　　長谷川 櫂


大漁の文字の木箱に茄子の花　　　　　　　　　　　　　　　門田路花


母の背の丸き歳月茄子の花 　　　　　　　　　　　　　　　　大堀春野


石仏に一燈淡し茄子の花 　　　　　　　　　　　　　　　　　　鷹野清子


貧しさの詩とはならぬ世茄子の花 　　　　　　　　　　　　　片山由美子




☆　散文は歩き、韻文は飛ぶ　＜　ヴィレリー　＞
短詩に於ける省略の効果