東京農大生物産業学部教授 地域資源の有効活用を
個体数の急増が問題視されるエゾジカを有用な 「地域資源」ととらえ、生態研究から養鹿、加工、 流通まで総合的に学ぶプログラム「エゾジカ学」 が今春、網走の東京農大生物産業学部で本格 的に開講した。主導する増子孝義教授(動物栄 養学)に、エゾジカ有効活用の意義を聞いた。昨 年10月下旬、全道でエゾジカ猟が解禁された。 明治時代に絶滅の危機にひんしたが、大量死に 結びつく豪雪が減ったことなどで、1980年代後 半から急増。道内の生息数は約40万頭と推測さ れる。農業被害はピ-クだった96年度の50億円 からは減ったものの、30億円前後で推移。最近は札幌市内の住宅街 にも現れ、騒ぎを起こした。このため90年代後半からは年5~8万頭が 捕獲され、最近はレストランなどでシカ料理が注目されるが、「活用さ れているのはほんの一部」という。「80年代の後半にもシカ肉ブ-ム が起き、飼養が試みられましたが、解体手続きや販売ル-トが従来 の家畜と異なるため、あまり普及しませんでした」東京農大では89 年の網走校開校以来、エゾジカの生態や食肉加工などの研究を続 けてきた。99年から釧路市(旧阿寒町)の前田一歩園財団の所有 地で、冬季に野生ジカへの給餌を行い、2005年からは大がかりな 「わな」で生体捕獲している。前冬は約5百頭を捕獲し、研究に活用 したほか、道東にあるシカ牧場にも提供された。
全国初という「エゾジカ学」は、これまでの東京農 大の取り組みを一歩進め、生態研究から養鹿、食 肉加工、流通などを体系的に学ぶカリキュラム。本 年度、文科省の『現代的教育ニ-ズ取り組み支援 プログラム」(現代GP)に選定され、昨10月から09 年度末まで2年半に及ぶ教育プログラムがスタ-トした。「エゾジカ学」 は、文系、理系の分野を横断的に学ぶ「文理融合」もうたい文句。大学 1、2年次で生態学や食品科学などの基礎と、「エゾジカ学のすすめ」 として総論を、3年次以降は生態調査などの実習や食肉加工、流通も 学ぶ。「エゾジカという地域資源の有効活用で、人間との共生を考える こと」が「エゾジカ学」の精神という。酪農飼料の栄養学的な研究を専 門とする増子教授は、89年の網走着任を機に、エゾジカ研究を始めた。 冬に捕獲した野生ジカを大学構内の施設で翌年秋まで飼養する「一時 養鹿」に取り組み、ふんを回収して餌の消化率を調べるなどで、飼養の 好適条件を探る。餌は牛との共通点が多く、牧草やトウモロコシなど粗 飼料を使ってコストを下げつつ、肉質を維持するのが課題だ。「エゾジカ 学」は、大学だけでなく、民間事業者や行政との連携が不可欠だ。「道 の野生生物の窓口は自然保護課だったが、食品加工は農政、流通は 経済の分野。これらの部署の連携と、シカ牧場、ホテルやデパ-トの関 係者も交えた有効活用検討委員会の発足で、動きが活発になつた」と 喜ぶ。増子教授は「エゾジカ学」を機に、地域資源としてのエゾジカがさ らに注目されることを願う。