或る人の代理で株主総会に出席した。株主総会というものに株主の側で参加するのは今回が初めてだ。たいへん面白い経験だった。会社側からの説明は特にどうということはないが、質疑応答は株式会社というものが公器であるということがよくわかるものだった。今回出席した企業の事業が公共性の高いものであるという事情はあるにせよ、広く社会から資本を募り、大勢の従業員を雇用し、多くの顧客や取引先を抱えるというのは、程度の差こそあれどの会社組織も同じことである。企業という形態の会社組織であれば利潤追求という根本的な存在目的がある。目指すところは同じでもそこに至る方法や過程については関係者がそれぞれの立場から利害を持ち、それらが対立することもある。関係者の数が増えるほど利害の種類も増え、それらの間で対立が生じる可能性も高くなるのは自然なことだ。株主というのはそうした関係者の一部でしかないのだが、企業規模が大きくなればそれだけ大きな数になる。ちなみに今回出席した会社には株主68,441名、議決権1,244,164個がある。このうち今日の総会で議決権行使をしたのは、郵送やネットによるものや委任を含めて株主21,927名、議決権903,380個とのことだった。このうち会場に足を運んだ人がどれほどなのか知らないが、会場の総座席数は2,150である。最前列に座っていたので、座席がどれほど埋まっていたのかわからない。
質問者は13名。質問順にまとめると以下のようになる。
質問者1. (T線沿線住民 最寄り駅:H)
Q: T線が東京メトロとの相互乗り入れを始めて以降、東京メトロ旧型車両の騒音に悩まされている。原因としては車輪の削り精度が低いことにあるようだが、対策をどのように考えるのか?
A(担当副社長): 再調査の上、適宜メンテナンスを行う。
Q: H駅に「K大学最寄駅」という案内が付くようになり、学生の乗降も増えたが、駅施設の対応がなされていない。
A(同上): 駅は老朽化していることもあり、改良工事を検討しているが、用地の制約等があるため時間がかかる。
質問者2.
Q: 246号線のバス・自転車共用レーンが狭く危険だ。国土交通省、警察など関係各所に対し事業者として意見して欲しい。また、そうした安全を考えることで、沿線の価値向上につながるはずだ。
A(担当常務): 既に誘導員を配置して安全に務めている。交通体系の最適化へ向け提言・提案は行っている。
質問者3.
Q: D線の混雑緩和が進まないままF駅周辺の開発が進むことへの対応をどのように考えるのか?
A(担当副社長): D線の地下部分の混雑緩和としてS駅の拡張が考えられるが、現状では無理。そうなると、まだ余力のあるO線をどのように活用するかという考え方になる。M駅まで延伸したときには緩和効果が認められた。今後はさらにT駅までの延伸を考えていきたい。また、ピーク時間の分散キャンペーンなども引き続き行っていきたい。
質問者4.(「安心して利用できるS駅を考える会」代表)
Q: 事業報告のなかでバリアフリーの進展ということがあったが、駅単位ではエレベーターなどの設置があっても、動線としてはまだ対策が不十分だ。「考える会」としては4月に会社と交渉を行い、調査が開始された。調査で終らせることなく、施策を実行して欲しい。
A(担当副社長): S駅は道路の直下にあるという制約がある。6月から9月まで行う流動調査に基づき、工務部が対応する。
Q: 取締役が男性ばかりだが、女性役員はいつ実現するのか?
A(社長): 女性総合職の採用を始めたのが昭和63年からなので、規定の勤務年限に達している者がまだいない。管理職には既に女性がおり、関連会社には取締役や執行役がいる。
質問者5.(「画家」)
Q: Tストアはたるんでいる。アタシの言うことをきかず、売上向上に務めない。もっとアタシの話を聞きなさい。
A(社長): 貴重なご意見として承る。
質問者6.
Q: 株主総会の日程が集中しているが、株主に対する情報発信として集中日を避けるほうがよいのではないか? また、現業現場見学といったものも開催して欲しい。
A(社長): 法律上、決算から3ヶ月以内に総会を開くことが義務づけられており、そのなかで決算から最短で開催となるとどうしてもこのような日程になる。現場見学は既に実施している。
Q: 2月の事故の財務へのインパクトは?保険でカバーされるのか?
A(担当専務): 事故の損害は包括保険でカバーされる。グループ全体の保険を効率的にかけており、今回の事故による料率の上昇は限定的。
質問者7.
Q: 駅構内にある2月の事故車両をどうするのか?
A(担当副社長): 事故原因の調査中なので現時点では動かすことができない。自社車両は今後どうするか検討中。Y社車両は陸送でY社施設へ輸送する。
質問者8.
Q: F駅東地区開発の社会貢献が低過ぎるのではないか?50平方メートルの区施設しか公共施設が入居しないと聞いている。
A(担当常務): 当該区画だけではなく開発全体で見ていただきたい。一期開発区画には保育施設、公営診療所、区役所分室が入居している。二期分についても、屋上緑化や防災公園の整備などを実施している。
Q: F駅は利用客が多いにもかかわらず改札口が一つしかない。混在も問題だが非常時のことが心配だ。駅構内へのアクセスも遠回りになっている場所がある。
A(担当副社長): 安全対策は地元警察や消防と共に防災訓練を実施しており、非常時の対応準備は行っている。アクセスの件は検討する。
質問者9.
A: ベトナム事業のリスク管理は大丈夫なのか?
Q(担当常務): リスクについては通常の事業リスクに加えて相手国特有のリスクがあることは認識している。相手国政府100%出資の企業と合弁で事業を行っており、政治リスクについては相対的に低いと考えている。万が一損失が発生しても剰余金の範囲内で対応できる事業規模である。
質問者10.(J駅利用)
Q: S駅のホームが狭く混雑時には人の流れが止まってしまう。どうしてこんなことになっているのか?自分の近所の人たちのなかには都心に出るのにS駅を利用せずに、O線でO駅へ出てJRを利用している人もいる。自分もS駅は使いたくない。
A(担当副社長): 道路直下の敷地を使っているので、現状でギリギリのサイズ。
質問者11.
Q: 今回の総会の質問を聞いているとCSR関連のことが多いので、CSRだけの会を設けたらどうか?
A: (直接回答なし)
Q: 自分が利用している駅では通行秩序が確立されておらず、構内の移動に苦労する。なんとかして欲しい。
A(社長): 調査の上、対応する。
Q: 沼津Tホテルでは何故、株主優待券が使えないのか?
A(社長): 諸般の事情で現在は当社との関係がなくなったため。ご不便をおかけして申し訳ない。
質問者12.
Q: 当社の取締役が同業他社の取締役になり、その会社の取締役が当社の取締役になっているのは問題ではないか?今後どうするつもりか?
A(社長): 情報共有による事業運営上のメリットがある。今後はわからない。
質問者13.
Q: 女性取締役がいない。様々な属性の人が取締役となるボードダイバーシティによってイノベーションが生まれるのではないか?
A(社長): 多様な人材登用については今後対応していきたい。
株主になる、ということはその企業に投資をするということだ。投資というのは果実を得ることを目的とした行為である。株主の利益は企業が利益をあげることで、その適正な配分を享受することであるはずだ。つまり、株主は企業に儲けて欲しい、はずなのである。そういう視点からの意見や質問は画家の清水さんくらいではないか。質問の仕方やものの言い方にエキセントリックなものを感じないわけではなかったが、発言の内容は株主として真っ当なものだと思う。自分の生活圏内に自分が株主となっている会社が経営している小売店があり、そこの売上を増やそうとあれこれ提案しているのに、店長が自分の意見に聞く耳をもたないのはけしからん、というのは尤もなことだ。それ以外の質問や意見の多くはコストを発生させるだけで、その対価は自分の不便解消でしかないようなことが多い。混雑緩和を求めるのは利用者の立場からすれば当然のことだが、株主の立場からすれば混雑は喜ぶべきことである。設備稼働率が高水準を維持するということは、それだけ利益率が高くなり配当が増えたり株価が上昇したりすることにつながる。利便性改善についての質問や意見も目立つが、利便性が改善すれば利用率が高くなるので混雑の度は増す。利便性は高くして混雑は嫌だというのは単純に駄々をこねているだけだ。利便性を高めて混雑を緩和して利益は上げる、というのを考えるのが経営の仕事なのかもしれないが、理屈で考えれば無理である。物事の全体を観ることなしに局面だけを取り上げて相手を糾弾するというのは、どういうことなのだろうか。株主なのだから立場としては利益を上げて欲しいということなのだろう。それは言わずとも当然なので、敢えて利用者としての不満を表明しているということなのかもしれないが、株主の集まりというのは本来的にはその企業の応援集会のようなものであるはずなのではないか。総じて意味不明なことの多い世の中だが、この総会に参加した人がどうこうということではなく、人間というのはそういうものなのだろう。これは選挙や政治についても言えることであり、つまりは社会全体の在り方についても言えることだ。今日はそういう勉強になった。