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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ドゥテルテ大統領の暴言ーメキシコ化のリスクを抱えるフィリピン

2016年09月10日 13時48分10秒 | 国際政治
フィリピン大統領、また暴言 国連事務総長に「ばか」
 フィリピンのドゥテルテ大統領は、オバマ米大統領に次いで、今度は、国連の藩事務総長に対して暴言を吐いたと報じられております。大統領を暴言に駆り立てた理由は、今回もまた、麻薬取締問題です。

 政治家の暴言は、外交関係を損ないかねませんので、誉められたものではないのですが、メキシコ化のリスクを抱えているフィリピンの危機感に対する理解は必要なように思えます。フィリピンとメキシコとでは地理的に離れていますが、両国には、幾つかの共通点があります。

 第一に、フィリピンは、米西戦争でアメリカの植民地となりましたが、それ以前には、長期に亘り、スペインの植民地とされていました。宗主国がスペインであった点は、メキシコと共通しています。第二に、両国とも、スペイン領であった歴史を背景として、宗教的にはカトリック信者が多い国です。カトリック諸国には、教会の懺悔制度が影響してか、犯罪に対して比較的寛容な傾向が見られます。第三に、両国とも、国民の多くは、モンゴロイド系の先住民と他の人種との混血であり、西欧文明の影響を受けつつも、血縁関係等を絆としたネポティズムが強い社会です。ネポティズムは、麻薬が組織的に広がる基盤ともなります。第四に、アメリカとの微妙な関係も両国の共通点です。トランプ候補の”壁建設”発言で注目された不法移民問題も然ることながら、1846年の米墨戦争で、テキサスやカリフォルニアがアメリカに割譲された歴史もあり、必ずしも両国の関係は良好とは言えません。一方、フィリピンも、先日、ドゥテルテ大統領が東アジアサミットで人権問題としても言及したように、アメリカの植民地であった歴史は、両国間に隙間風を吹かせています。そして、第五に指摘する共通点とは、中国との関係です。メキシコの麻薬戦争の遠因は、中国が麻薬原料をメキシコに大量に輸出していることにもありますが、地理的により近いフィリピンにおける麻薬蔓延にも、中国との関連が推測されます(未確認情報による…)。

 フィリピンでは死刑は廃止されており、警察の捜査や捕縛段階における麻薬密売人の”殺害”が、その罪に対する罰の重さとして妥当であるのか、という問題にもなるのでしょうが、メキシコを見る限りでは、麻薬戦争と呼ばれるほど、麻薬犯罪組織との闘いは、苛烈極まるものです。麻薬密売組織は、犯罪ビジネスとして他者の命や身体、そして健康な精神と引き換えに、巨万の富を得ているに留まらず、麻薬の撲滅に取り組もうとした勇気ある人々をも無情にも殺害しているのです。メキシコ化の危機に直面しているフィリピンの現状を考慮しますと、この件については、一方的なフィリピン批判は、人権を擁護しているようで、より悪辣な人権侵害行為を見過ごすことになりかねないと思うのです。

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