万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アイルランドの税制問題ー経済成長率は当にならない

2016年09月03日 13時57分41秒 | 国際政治
アップル課税問題、アイルランドが提訴へ
 先日、EUが、アイルランドに対して米アップル社に1.5兆円もの巨額の追徴課税を課すようにと求めたことで、俄かにアイルランドの外国資本の移入促進を目的とした税制が注目を浴びることとなりました。この要求を不服としたアイルランド側は、EUの司法裁判所に提訴する構えのようです。

 このEUの対応は、『パナマ文書』によって明らかとなった租税回避行為への対応とも共通しており、基本的な構図は、低率の法人税など税制上の優遇制度を設ける特定の国と企業との間の”持ちつ持たれつ”の関係による租税回避行為に対する取締の一環として理解することができます。その一方で、この一件は、経済成長率が、如何に当にならないのかをも示しています。何故ならば、昨年2015年のアイルランドの経済成長率は、26.3%という驚異的な伸びを示しているからです。経済成長率はGDPに基づいて計算されており、GDPには、市場における財やサービス等の取引額が合算されています。当然に、金融市場等における取引も含まれており、アイルランドの異常なまでの高い成長率は、アイルランドの外資優遇税制の賜物でもあるのです。つまり、外国からの膨大な資本や資産の移転が、GDPの数値算出に加算され、アイルランドの経済成長率を大幅に押し上げているのです。この高い成長率については、一般のアイルランド人からしますと実感はなく、「26%という数値は経済実勢からかけ離れている」との疑問の声も上がったそうですが、EUの統計局によれば、数値算出に際しての計算ミスではないとのことです。

 アイルランドの事例は、経済成長率=国民生活の向上ではなく、たとえ成長率やGDPでは高い数値を誇っても、必ずしも一般の国民に恩恵が及ぶわけではない現実を示しています。海外からの資本移転のみならず、株式市場や不動産市場等でのバブルであっても、計算上は高い数値を弾き出すのですから。経済成長率やGDPへの過信や信仰には、国民生活の向上に繋がる’真に豊かな経済’を見失なわせるリスクがあるのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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