万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日米経済対話ー二国間経済協定のメリット

2017年02月12日 14時32分53秒 | アメリカ
副大統領と「しっかり議論」=日米経済対話―麻生副総理
 これまで、日本国政府はTPP交渉に心血を注いできただけに、アメリカのトランプ政権による二国間交渉へのシフトに対しては、批判的な意見が多数を占めています。地域主義が主流となりつつあるにもかかわらず、時代に逆行していると…。しかしながら、EUやNAFTAといった地域協定の先例を観察しますと、必ずしも二国間交渉を退行現象として決めつけることはできないように思えます。

 第1の理由は、少なくとも日米間では、当事国の間に極端な格差が存在しないことです。サービスや人の自由移動をも原則としているEUにおいては、既存の加盟国との間に著しい格差がある中東欧諸国が大挙して加盟したことで、製造拠点と人の移動が同時に発生し、イギリスが悲鳴を上げる結果となりました。また、人の自由移動は認めていないNAFTAでも、経済レベル差が大きいアメリカとメキシコとの間に軋轢が発生しています。両国間の経済レベルの格差が、メキシコへの製造拠点の移転とメキシコからアメリカへの密入国の増加の強力な誘因となっているからです。米墨間と較べますと、日米間の間には然程の格差がありませんので、貿易の自由化が図られたとしても、双方の間で国民の大量移動が起きる可能性は殆どありません。また、企業の製造拠点についても、既に日本企業は、アメリカ国内での生産に努めています。

 第2に、複数の国益が複雑に交差する多国間交渉では利害の摺合せが困難ですが、二国間交渉であれば、双方の得意分野における相互補完的な関係を構築しやすい点が挙げられます。特産品の交換によるウィン・ウィン関係こそ貿易の原初的なスタイルですので、両者が”良いとこ取り”ができる原初的な関係に回帰することができます。

 第3の理由は、日米両国とも、法の支配を共通の価値として尊重していることです。RCEPなども検討されていますが、合意された貿易ルールを守らない国が加盟国として存在すると、地域協定は、早晩、形骸化し、むしろ、加盟国間の対立要因となります。

 第4の理由を挙げるとすれば、現在のトランプ政権の貿易協定に対する態度が比較的柔軟である点です。TPPの場合には、ラチェット条項が問題視されたように不可逆性が強調されましたが、NAFTAの再交渉に踏みだしたように、何らかの問題や欠点が表面化した場合、見直しの余地が残されています。

 最後に第5の理由を挙げるとすれば、日米経済対話という形態であれば、新たな協定の締結の有無に拘わらず、より広範な問題が話し合われる可能性があることです。実のところ、日本国のみならず、アメリカもまた、国民の生活が豊かになるためには、経済や産業の構造的な変革を要します。この点も含めて日米間で知恵を出し合える場が設けられるとすれば、両国は、他の諸国に対しても新たな調和的なモデルを提示することができることでしょう。

 このように考えますと、日米二国間による経済対話は、後戻りではなく、自由化一辺倒の政策が壁にぶつかった時代において、その克服を目指すという意味で、時代の先端を歩んでいるのかもしれません。日米両国とも、危機をプラスに変えていける力こそ、試されていると思うのです。

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