万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

海外企業による買収リスクは深刻ー東芝は他人事ではない

2017年02月16日 15時33分36秒 | 国際経済
東芝の取引先、1年半で4割減 家電子会社など売却で
 報道によりますと、東芝グループの経営難に伴う事業の”切り売り”の影響を受けて、1年半の間に東芝の取引先は4割ほど減少したそうです。グループ本体から切り離されたとはいえ、これまでのところは分離された事業体との間で取引関係は維持されているため、経営難に陥ったとする報告は見られないようです。

 白物家電部門は、半導体部門等に先んじて既に中国の美的集団に買収されていますが、果たして、美的集団は、日本企業との取引に拘るでしょうか。既に、東芝の白物家電部門の製造拠点の大半は中国に移転していますので、東芝グループと取引関係にあった日本企業の多くは、部品等を中国に向けて輸出してきたはずです。つまり、日本製の高品質の部品を用いて東芝ブランドの家電製品を中国で生産し、それを日本市場に向けて輸出してきたのがこれまでのパターンであったはずなのです。しかしながら、美的集団の東芝買収の狙いは、そのブランド力にあるとされていることに加えて、中国企業の部品製造技術も、近年、技術移転の成果として急速に伸びています。中国企業の戦略が、信頼性の高い日本企業のブランドを活用し、低価格を武器に輸出攻勢をかけ、世界市場を席巻することにあるならば、今後とも、部品調達を日本企業に頼るとは思えません。冷徹な経営戦略からすれば、むしろ若干品質を落としてでも、”部品調達の共通化”といった美名の下で何れかの時点で自国企業の部品に切り替えるはずです。東芝の白物家電部門は赤字経営でしたので、”合理化”という名目も使うことができます。ブランド名の使用については40年の期限付きなそうですので、近い将来、美的集団は、部品調達から製造に至るまで、コスト高となる日本の取引企業を切り捨てつつ、事業全体を中国国内に移転させることでしょう。良質の製品を製造しながら、”規模の経済”、”効率最優先”、”コストカット”の波に押し流され、日本企業が市場から淘汰される現象は、”グローバリズム”の一言を以って是認されるべきなのでしょうか。

 東芝グループの解体には、初めからシナリオがあったようにも見えるのですが、東芝のケースは、他の日本企業にとりましても他人事ではないように思えます。外国企業による買収により国内雇用が減少し、経済のスパイラル的な衰退を招く現象は、”行き過ぎたグローバリズム”の深刻な問題点です。特に、労働コストの低い国の企業による買収は雇用流出の原因となり、産業の空洞化にも拍車をかけます。日本国政府も保護主義を再評価し、買収リスクへの対応を講じるべき時が来ているように思えるのです。

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