万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国は台湾の併合を正当化できない

2022年12月14日 10時49分35秒 | 国際政治
 国連憲章では、全ての加盟国に紛争の平和的な解決を義務づけています。それにも拘わらず、今日に至るまで戦争が絶えないのは、今日の国際社会では、未だに平和的解決のための制度が整っていないからなのでしょう。いわば、基本法は存在していても、手続法が欠けている状態と言えるかもしれません。戦争をこの世からなくすためには、声高に戦争反対を訴えるよりも、平和的紛争解決のための制度整備に取りかかるべきなのですが、同方向性を阻む最大の抵抗勢力が、あろうことか、国際の平和に対して責任を負うべきはずの国連安保理常任理事国であるという、由々しき現実があります。中国も特権的権利が認められている安保理理事国の一つなのですが、同国を‘指導’する習近平国家主席は、台湾の武力併合への意欲を公言して憚りません。それでは、中国には、自国による台湾の武力併合を正当化できるのでしょうか。

 第一に、紛争解決の手段から見ますと、‘武力による一方的な現状の変更’は、明らかなる国連憲章違反です。上述したように、国連憲章は、全ての加盟国に対して紛争の平和的解決を求めていますので、中国にも、平和解決の原則を遵守する義務があることは言うまでもありません。しかも同国は、安保理常任理事国の地位にあるのですから、いわば、国際社会の治安を維持する‘警察役’です。台湾から自国が侵略を受けない限り、中国は、合法的に武力を行使のすることはできないはずなのです。

 それでは、中国の台湾に対する領有権主張の正当性はどうでしょうか。第二の観点は、領有権主張の正当性です。ある特定の地域の領有権を主張するには、凡そ歴史的根拠と法的根拠の二つを要します。南シナ海問題で常設仲裁裁判所が中国の言い分を退けた主たる理由もこの二つの根拠の欠如にあるのですが、台湾につきましても、中国には歴史・法の両面において正当な根拠が見当たりません。歴史的には、中国が、オーストロシア語系の人々が住む地であった台湾を初めて‘直轄地’としたのは清朝時代であり(日中貿易の拠点となると共に、オランダあるいはオランダ東インド会社が統治していた時代もあった・・・)、その理由も、同地が鄭成功等の反清復明運動の拠点であったからに過ぎません。

 日清戦争に際して締結された下関条約において、清国があっさりと日本国に台湾を割譲したのも、同地を‘固有の領土’とは見なしてはいなかったからなのでしょう。しかも、下関条約が締結されたのは1895年ですので、未だに征服王朝である清国自身が依拠する伝統的帝国主義も、列強による近代帝国主義もまかり通っていた時代でもありました。このことは、国民国家体系を基本体系とする現代の国際社会にあって、過去の帝国による征服の歴史が今日の領有権の根拠となるのか、という問題をも問うています(仮にこれを認めますと、今日の国境線は一気に流動化しますので、過去の征服に基づく領有権主張は却下されるのでは・・・)。

 中国による台湾領有の主張には歴史的根拠が欠けるとしますと、法的根拠はどうでしょうか。辛亥革命によって中華民国が成立したのは1912年2月12日のことです。この時既に台湾は日本領であり、中華民国の法的領域の外にありました。1949年10月1日に建国された現在の中華人民共和国にあっても、今日に至るまで台湾は同国の領域ではありません。法的根拠も欠如しているのは明白であり、この状態にあって中国が自国に武力で併合するとなれば、国際法上の侵略行為となることは明白なのです。

 その一方で、中国擁護論としては、国共内戦の末、蒋介石率いる国民党が台湾に移り、中華民国を継承した歴史を持って‘一つの中国’を正当化する見解もあります。ここで第三に問題となるのは、中華民国と中華人民共和国との関係です。この点については、当時の中華民国の立場は、‘亡命政府’に類似するものとして理解されます。革命や戦争においては前政権が外国に一時避難のために亡命し、亡命政府を維持する事例は少なくありません。イギリスには第二次世界大戦を機に同地に設立された亡命ポーランド政府(ポーランド第二共和国政府を継承・・・)が近年まで存続していましたし、1940年にはド・ゴール将軍も、ナチスからのフランス解放を目指して同地に「自由フランス」を設立させています。

 ただし、台湾の場合、一般的な「亡命政府」とは異なります。蒋介石が台湾島に政府を移した1949年10月時点では、同地は、国際法上にあって連合国側の占領地域であるからです。しかしながら、その本質的な部分においては違いはないように思えます。それが占領地であれ、自国の領域外における亡命政府の設置は国際法に違反する行為ではなく、国民党が台湾の地で中華民国政府を維持したことも合法的な行為となりましょう。となりますと、亡命地のイギリスに対して’亡命ポーランド政府’の存在を根拠として共産主義政権であるポーランド人民共和国が同国の領有権を主張できなかったように、中国もまた、亡命地である台湾に対して領有権を主張することはできないはずです。亡命地と領有権とは、法的には全く無関係なのです。

 以上、主要な三点について述べてきましたが、何れの側面からしましても、中国による台湾への武力侵攻は、国際法上の侵略行為と言うことになりましょう。そして、あくまでも中国が台湾の領有権を主張するならば、国際司法機関に対して領有権確認訴訟を起こし、自らの正当性を認めてもらうのが筋と言うことになります。中国は、国連安保理常任理事国の席を得ている以上、国際社会に対して平和的解決の範を示すべきではないかと思うのです。

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