万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

戦争は‘損’なのでは?-戦争が起きる不思議

2022年11月02日 13時05分37秒 | 国際政治
 ‘戦争は仕組まれたものである’とでも言おうものなら、陰謀否定論者から袋だたきに遭いそうです。しかしながら、マネーが革命を起こすほどの絶大なる力を持つならば、戦争もその力で造り出すことができるはずです。確かに、革命と比較しますと、戦争の立案から遂行に必要とされる各種作業の多くは政府がその国権と統治組織をもって行ないますので、陰謀の実在性を証明することはより困難です。とは申しますものの、近代以降の戦争は、革命と同様に国益の追求⇒戦争という単純な図式では説明し得ないように思えます。

 何故ならば、戦争の場合、革命以上に‘目的’において説明がつかないからです。仮に、国益追求⇒戦争の構図が正しければ、戦争を起こす動機を持つ国は、極めて少数、即ち、軍事大国に限られます。国境線等をめぐる中小国間の小競り合い等はあり得るものの、兵力に劣る国にとりましては、戦争とは、敗戦国となる可能性の方が遙かに高い行為であるからです。しかも、時代が下がるにつれ、規模のみならず、軍事技術の発展レベルの違いは国家間の軍事力の質的格差が広がっています(NPTによって、中小国劣位は固定化・・・)。歴史を振り返りましても、周辺地域に武力侵入する国、すなわち、“はじめの一手”を打つ国は、マケドニア、ローマ帝国、ナチスドイツなど、必ずと言ってよいほど軍事大国ですし、今日でも、軍事大国ロシア側から、ウクライナに“はじめの一手”が打たれ、そして、今後、侵略行為を行なう可能性が最も高いとされる国は、世界第二位の軍事大国中国です。

 しかしながら、戦争は、軍事大国にとりましても、必ずしも自国にメリットをもたらすものでもありません。この側面も、時代が下がるにつれて顕著になります。アメリカをはじめ、人命尊重が根付いている自由主義国にあっては、相手がたとえ‘憎き敵兵’であれ命を奪う行為が伴いますので、戦争そのものが反倫理・同道徳的行為として見なされています。しかも、自由主義国では民主的選挙制度も備わっていますので、国民が拡張主義的な軍事政策を主張する政党や政治家を支持することはまずはありません。国民は、徴兵や動員によって自らも戦場に送り出されるかもしれませんし、ミサイル技術が発達した今日では、軍事的優位にあっても国土が破壊されるリスクがあるからです。また、テロやサイバー攻撃によって、経済が麻痺したり、インフラ等の破壊より国民生活が成り立たなくなる状況も懸念されます。仮に、軍備増強を支持するとすれば、他国から一方的な攻撃を受けるリスクが高いときに限られます。

その一方で、ロシアや中国と言った全体主義国にあっても、戦争によって得られる利益は時代と共に減少傾向にあります。戦争ともなれば、たとえ相手国が弱小国であっても自国も無傷ではいられませんし、強制的な徴兵や動員が行なわれ、物資の全面的な統制を伴う戦時体制に移行すれば国民の不満も高まります。戦局次第では、体制崩壊や指導者失脚の事態をも招きます。国民にとりましても、為政者にとりましても、戦争の遂行には、相当のリスクが伴うのです。また、たとえ戦争に勝利して首尾良く領土を拡張したとしても、異民族の居住地を自らの統治下に置くために必要となるコストも労力も甚大です。戦時中に破壊された併合地を復興させるにも莫大な資金を要しますし、経済が停滞している地域や途上国であれば、自国の予算を割いてインフラ整備から始めなければなりません。テクノロジーの発展により兵器の破壊力が高まるほど復興コストも上昇し、戦争の非経済性が増してゆくのです(核兵器が使用されれば、復興不可能な相互破壊もあり得る・・・)。加えて、併合地の住民による長期に亘る抵抗運動をも覚悟しなければならないでしょう。

以上に述べたように、合理的、かつ、冷静になって考えてみれば、戦争とは、政府であれ国民であれ、可能な限り回避したい行為と言うことになります。巨額の賠償や極めて複雑となる財産の請求権問題を含めれば、双方共に損失がさらに膨らみそうです。平和的解決手段もないわけではなく、また、国際法の整備も進んでおり、絶対に不可避の戦争はもはや存在していないと言っても過言ではありません。

ところが、今日に状況を観察してみますと、誰もが避けたいはずであるのに、ウクライナが既に戦場と化していると共に、国際社会全体を見ましても、中国による台湾の武力併合の危機も相まって、第三次世界大戦への懸念が広がっています。この状況は、如何にも不自然であり、非合理的です。それでは、一体、何が人類を戦争へと駆り立てようとしているのでしょうか。この問題は、戦争利権の問題であると共に、世界支配の問題でもあり、そして、この非理性的な現状に陰謀の実在性の問題が提起されると思うのです(つづく)。

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