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谷沢英夫『スウェーデンの少子化対策』日本評論社 2012年 の紹介
昨日、『家族社会学研究』Vol.25 No.1が送られてきた。
その中で、小生は、谷沢英夫『スウェーデンの少子化対策』日本評論社 について、紹介している。
文献紹介をすればよいところ、最後は、張り切り過ぎて、書評のような形になっている。
谷沢氏は、小生のブログをお読みになっていないと思うので、メールで送ることにしよう。
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谷沢英夫『スウェーデンの少子化対策』日本評論社
本書は、谷沢英夫氏が早稲田大学大学院人間科学研究科博士前期課程において研究し提出した修士論文をベースに出版したものである。
私はスウェーデンの高齢者ケアを専門にしている。表題のスウェーデンの少子化対策を紹介するに相応しい人間では決してない。もしも検討違いの理解に基づく紹介になっていたとするならば、このような事情であるので、ご寛恕願えれば幸いである。
まず、章の構成について紹介する。
第1章「スウェーデンの人口転換」と第2章「社会経済変化と女性の社会的地位向上の芽生え」では、1700年代以降の旧(歴史)統計書人口編とスウェーデン中央統計局(SCB)のデータベースを駆使して、スケールの大きな議論が実証的に展開される。圧巻は、何故、スウェーデンの産業革命が他の西欧諸国に遅れて19世紀半ばにスタートしたのかの謎解きである。そのヒントが、既婚女性の就労を禁じた成年被後見人法にあると氏は見る。
第3章「Myrdal夫妻の社会改革案と家族政策の始まり」、第4章「スウェーデンの戦後の出生動向と家族政策」、第5章「男女均等理念が舵取り役をする家族政策」では、前2章のスケールの大きな歴史分析を踏まえて、20世紀のスウェーデンの経済状況と家族政策の関連性が、きめ細かな実証分析により明らかにされている。
第4章では、いわゆるスピード・プレミアムという少子化対策が条件により効果の差が著しいことをエビデンスに基づき見事に実証している。
第5章では、与野党7党の少子化対策、家族政策の異同について審議議事録を手掛かりに明らかにし、さらに同7党の家族政策担当者へのメールサーベイから、家族政策における出生率動向の位置づけの違いを浮き彫りにしている。
最後の第6章「男女共同参画社会への挑戦」では、男女均等と出生動向に関する3つの代表的な実証研究を詳細に紹介した上で、男女均等(平等)理念実現のための長期的戦略として、スウェーデンが、学校教育と成人教育に重点を置いてきたことに注目している。氏は学校教育に焦点を当て、学校教育要綱の男女均等に関する事項を中心に、1962年、1969年、1980年、1994年の4時点で比較分析を行い、69年段階で男女均等理念が反映され、80年、94年と徐々に理念が強化される姿を分かりやすく明らかにしている。
本書はスウェーデンを含めた北欧研究者や少子化対策研究者、ジェンダー研究者の必読書であるにとどまらず、詳細なデータに基づき縦横無尽に議論を展開すること、その議論に基づき結論を導き出すことが必要不可欠な我々全てが読むべき文献である。
以上本文献を紹介してきたが、幾つかの注文を最後に記しておきたい。
まず、移民に対する少子化対策や家族政策の効果について今後明らかにしていただきたい。
次に、1975年に制定されたサムボ(sambo)法以後、出生率にどのような変化が生じたのか論じていただきたい。
第3に、児童手当の多子加算やスピード・プレミアムに関して、谷沢氏はどのような評価をしているのか私見をうかがいたい。
第4に、両親保険の所得補償割合は、従前の給与の80%であるが、その補償額に上限があることに言及していただきたい。
(東京経済大学 西下彰俊)