飛行機の窓ガラスに油がずっと漏れて張り付いていました。どうするんだろう。 スチュワーデスは返事をしなかった。じっとエンジンの方を見詰めていた。その真剣な横顔に、五郎はふと魅力を感じた。やがてエンジンの形も見にくくなった。黒い飛沫(ひまつ)が窓ガラスの半分ぐらいをおおってしまったのである。斜めうしろの乗客たちも、異常に気付いて、ざわめき始めた。 スチュワーデスは何も言わないで、足早に前方に歩いた。 . . . 本文を読む
だまされたと思って、また付き合ってください。お願いします。 梅崎春生さんの「幻化(げんか)」のその第2回です。まだ飛行機の中です。小さな飛行機だから、通路は一本だけ。その両脇に二つずつのはずで、何人くらい乗ったんでしょう。窓の外で何かあるみたいでした。 羽田を発つ時には、四十人近く乗っていた。高松で半分ぐらいが降り、すこし乗って来た。大分でごそりと降り、五人だけになってしまった。羽田から大分まで . . . 本文を読む
いよいよこのネタも取り上げようと思います。 私の小説遍歴の原点の一つだと思われます。芥川さんの作品や、司馬遼太郎さんや、畑正憲さん(ムツゴロウさん)など、中学から高校にかけて小説を読みました。 そして、たどり着いたのが梅崎春生さんの「幻化」でした。新潮文庫で読みました。今、手元にあるのは76年の2月に天王寺のユーゴー書店で買った本でした。それから44年間身近に置いてあるんです。 わりと早い時期に . . . 本文を読む
ミシマさんがいなくなってから、五十年の歳月が経ちました。NHKがいくつか切り口を換えて三島由紀夫さんを追いかけて作った番組を、最近二つくらい見たでしょうか。ETV特集とBSのアナザーストーリー(こっちは2018年作成だったかな?)という番組でした。最近は、新聞でも特集記事がありましたし、五十年なので節目にはなっていました。 いくつか考えたこと、気になったことがあります。ミシマさんは1968年頃か . . . 本文を読む
クルマのハードディスクに、久しぶりに録音しようとアンタル・ドラティさん指揮の「春の祭典」を朝持っていきました。 朝の間は、FM聞いて、ストラヴィンスキーさんの出番はなかった。今朝、何を聞きましたっけねえ。モーツアルトさんのヴァイオリン協奏曲だったかな。そんなに耳に残りませんでした。心地よいけれど、何度も聞かないと、私みたいなボンクラには何も残りません。 それより何より、今朝はクルマの流れが悪くて . . . 本文を読む
ネットから借りてきたこの画像は、三人ともボンヤリしているし、クリアーではありませんね。 最近、知り合いの人が、この動画をカラーにしたから、ぜひ見てと教えてくれて、見させてもらったんですよ。そうしたら、三人ともゆったりとした会話をされていました。川端さんが妙にリアルで、いろんなことを考えておられる人なんだろうなというのを感じます。 川端さんは、大阪の人なのに、あまり大阪感のない人でした。でも、大阪 . . . 本文を読む
三島由紀夫さんの「潮騒」という作品は、かなり乗り遅れました。何度か世の中でブームになった時はあったと思うんですが、純愛みたいなのは、何となく面はゆいような、敬遠したくなる気分があって、しばらく手を出せませんでした。わりとすぐに自発的に買ったくらい、有名だし、当時の値段で100円だし、すぐに買えたはずです。でも、読めてなかった。 私が素直に「潮騒」を広げられるようになったのは、いつのことだったんで . . . 本文を読む
二十日の夕方に本屋さんで買ってきて、少しずつ読んで、いまやっと38ページまで来ました。まだまだお話はあるようです。筑摩書房から、今年の7月に出た本なんだそうです。ボクはツイッターで知りました。友香さんのフォロワーになってたんですね! 昨日まで読んだ内容、憶えてるかなと振り返ってみたら、何も憶えていませんでした。 とりあえず、出会った二人みたいな人が、それからそんなに深い関係になるのではなく、それ . . . 本文を読む
このバミューダアイランドのペナント、くちゃくちゃになりながら、今もうちにあります。あまり、使い道がなくて、あっち行ったり、こっち行ったり、ただ汚れていくだけで、何だかかわいそう。ペナントって、何をするためのものなんだろう。 ペナント集め、たぶん、70年代の初めからやりました。万博があったり、小学校の修学旅行があったり、みんなも買ってしまうし、それにつられて、自分も買ったのだと思う。人のふり見て、 . . . 本文を読む
94年前の夏、柳田さんは、岩手県の海側、八戸線の当時の終点・陸中八木駅にたどり着きました。 6年前は、まだここまで鉄道はつながっていなくて、1年前に開通したばかりでした。その4年後には久慈まで線路はつながるのですが、それほどに鉄道がどんどん伸びていった時代ではあったのだけれど、真新しい駅に降り立ったのです。 おそらく、当時の鉄道の旅というのは、最先端の旅だったでしょう。誰も簡単に鉄道なんて乗れな . . . 本文を読む
もうお盆は過ぎてしまったけれど、自分でお盆のお祭りをしたという体験がないせいか、いつもいい加減です。今年は仕方がなかったけれど、ここ何年かでも、お盆らしいこと、やれてなかったと反省します。 父の初盆の時、ちゃんと火を焚かなきゃいけなかったのに、私はボンヤリしていましたし、とうとう誰も火をたかないままにしてしまいました。 うちは核家族で、しかも父のお骨はずっと仏壇に飾られているから、いつも家にいる . . . 本文を読む
1918年の1月から、22歳の賢治さんは、進路で悩んでいたそうです。おうちのあとを継ぐのか、それとも徴兵検査を受けるのか、考えねばなりませんでした。 彼自身の信仰も深まっていました。国柱会という実家の宗教とは違う世界にどのように進むのか、東京で病気がちの妹さんをどうすべきか、お父さんとの関係、自らの進路など、あれこれと引き裂かれていた。次の年には妹さんは入院してしまいます。それから彼女は故郷に帰 . . . 本文を読む
久しぶりに本屋さんに行きました。岩波文庫から芥川さんの句集が出てたから、それは買いましたけど、見てみたら、紀行文集とかも出ていた。随筆集も出てるのかな。それは見てないかも。 もう一度、芥川さんを見直そう、これは私だけではなかったみたいです。いろんな人もふたたび注目しているかもしれない。 何だか残念なのは、芥川さんは紀行文集チラッと見たら、中国の旅行記も書いてたから、もう少し中国に取材した作品も書 . . . 本文を読む
三島由紀夫さんの最後の連作「豊饒(ほうじょう)の海」第一作は、「春の雪」でした。竹内結子さんと妻夫木くんの二人で映画も作られましたけど、もちろん私は見ていません。 単行本はいつ出てたんだろう。70年か71年には出てたんでしょうね。そのあと新潮社から三島由紀夫全集が出て、一冊三千いくらで、とても買えなかったものでした。少し欲しいと思ってたようです。それで、1977年の7月末に文庫版が出て、私は9月 . . . 本文を読む
何日間かかけて、やっとこの本を読み終えました。「古くてあたらしい仕事」って、本屋さんということみたいでした。 島田さんは、10年やってきたそうです。たったの一人で! 若いのに、しっかり者です。 小さな仕事は、小さなきっかけからはじまる。 だれかの一言から。ふと思い出した記憶から。昨日読んだ本の一節から。 それは、市場に転がっているのではないし、業界内の特別なコネクションのなかにあるのでもない。 . . . 本文を読む