先日、大阪の実家の方のブックオフに行きました。他のところは見なくて、百円コーナーをのぞいてみたら、すぐに米原万里さんの「真昼の星空」という本が見つかりました。中公文庫で2005年に出ています。私の買ったものは2012年の6刷で、年に1回くらいは増刷されていたようです。万里さんは2006年に亡くなられ、それからもずっと確かに読み継がれていた本でした。
そして、帯には没後10年文庫フェアということで、各社から出ている万里さんの本リストがありました。そのうち3冊は読みました。まだまだたくさんあるみたいで、たぶん読むたびに新鮮だと思われます。
これからもずっと信じて読み続けたい方だと今さらながら思います。そして、何しろいろんなアンテナがあって、みんなが万里さんにお話ししてくれるようでした。
彼女の友だちは、こんなことを教えてくれたそうです。
「いろんな子どもたちが(幼稚園に)通園してくるでしょう。最初の日に、ワーワー泣きわめいて、『家に帰りたいよー』って駄々をこねる子は結構いるの。それでも、しばらくすると大方の子どもたちは慣れてきて、それなりに園での生活を楽しむようになるものなのね。ところが、時々、自分の家庭のことを、異常なくらいむやみやたらに自慢する子どもがいるの。お絵描きの時間にかく絵も、家族のことばかり。園にいるあいだだって、家のことばかり気にしている様子で、帰宅時間になると、もう飛ぶように帰っていくのね。どんなに居心地のいい、幸せな家庭なんだろうって、こちらは想像してしまうわよねえ」
この流れからいくと、幸せではない、というのが予想されますが、どうなるんでしょう?
「百発百中違うのよ。そういう子に限って、どの家も不幸なの。悲惨といった方が適当かもしれないくらい。両親が離婚寸前だとか、一方が蒸発してしまったとか、父親が子どもにしじゅう暴力を振るうとか、母親がアル中だとか……」
「子どもらしく天真爛漫に遊びほうけていられないってわけね」
「幼いなりに、家のことが気になって気になって仕方ないから、どうしても外に目が向かわないのだと思うわ」
今の子どもたちとは違うから、今は今の現象が起きているかもしれませんが、子どもなりに幸せなイメージを抱き、それにすがり、自分の力で何とか事態を好転させようと心を痛めていたということでしょうか。
今もそんな子どもはたくさんいるかもしれないし、もっと深刻になっているかもしれません。
万里さんのアンテナの力だったのか、それくらいたくさんの話題を提供してくれる仲間がいたというべきか、友だちを大切にした人だったんでしょうね。
これはエッセイのとっかかりのエビソードで、ここから別の展開を見せていくんですが、私は、万里さんの築いた人間関係の力を感じました。そういう目でこれからも読んでいきたいと思います。何だかもったいなくて、1日1話くらいしか読めません。それくらい大事なエッセイストになりましたね。