廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

10インチの中の古き良きアメリカ音楽

2020年10月18日 | Jazz LP (Vocal)

Jackie Paris / That "Paris" Mood  ( 米 Coral CRL 56118 )


ジャッキー・パリスはその声質が嫌いなタイプの典型なので一切買わないが、このレコードだけはなぜか例外的によかった。
古いコーラルの10インチで、誰からも顧みられず、エサ箱の片隅で1人寂しそうに転がっていた。

静かなビリー・テイラーのピアノトリオにチャーリー・シェイヴァースが加わり、これまた静かにオブリガートを付ける。
選曲の趣味が良く、地味ながらも心温まるメロディーが切なく歌われる。エヴァンスも取り上げた "Detour Ahead" を歌っている。
全曲がスロー・バラードとしてアレンジされていて、ジャッキー・パリスがとても丁寧に歌っているのがいい。

寒い季節、暖炉で薪がパチパチと音をたてて燃える中、ジャッキー・パリスの静かなバラードを聴いているような光景が浮かんでくる、
そういうタイプの音楽。本人の名前にかけてパリの街並みがデザインされているけれど、内容はそれとはまったく関係なく、
古き良きアメリカの優しい音楽。この手の古い10インチのレコードでしか味わえない独自の世界が素晴らしい。


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秋の匂い

2020年10月08日 | Jazz LP (Vocal)

Mark Murphy / September Ballads  ( 米 Milestone M-9154 )


秋の気配を感じるようになると聴きたくなるアルバム。尤も、だんだん秋という季節が短くなりつつある現状では、このアルバムを取り出す
時期も後ろにずれていくような気がして、いろいろと心配になるけれど。

1987年9月から11月にかけて録音された本作は、ジャズというよりはAORに寄せた雰囲気になっている。そして、それは悪い話ではなく、
逆にうまく成功した形になっている。これはプロデュースの勝利だったと思う。

アルバムの最初から最後までを通して、夕暮れの涼しい秋風に吹かれているような心地よい爽やかさに満ちていて、これが素晴らしい。
しっとりと落ち着いた雰囲気で、アルバム・タイトルやジャケットの写真からもわかるように、「秋」という季節への憧れと親愛が
全体を通したコンセプトになっている。

1曲1曲が哀愁溢れる美しいメロディーで、何と素晴らしいバラード集となっていることか。マーク・マーフィーの歌は円熟の極みを
見せて、元々の歌の上手さにさらなる磨きがかかっている。"Crystal Silence" のような音程の取り辛いメロディーをこんなにうまく
歌えるのは、この人をおいて他にはいないだろう。

マーク・マーフィーのアルバムはどれも素晴らしいが、後期の作品群においてはこれがダントツの出来だと思う。
風の中に感じる秋の匂いを愉しみながら、日々、しみじみと聴いている。


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手の届かない大人の世界

2020年07月15日 | Jazz LP (Vocal)

Francis Albert Sinatra & Antonio Carlos Jobim  ( 米 Reprise FS 1021 )


キースのアメリカン・カルテットを集中して聴いているが、同じ系統ばかりでは飽きるので、気分転換にまったく違う雰囲気のものを。

シナトラの最盛期はキャピトル時代で、リプリーズ時代になるとかなり落ち着いた雰囲気になるが、そんな中でこの巨匠とのコラボを残している。
テーマはボサノヴァだが、それは露骨なものではなく、しっとりと落ち着いた深い雰囲気の傑作に仕上がっている。

クラウス・オガーマンのオーケストレーションはシックで知的で大人のムードで満点の出来。そういう重厚な背景の中、シナトラは巧くコントロールされた
歌唱で静かに歌っていく。ボサノヴァのリズムは隠し味的な使い方で、あくまでもシナトラの大人の世界が描かれている。ボサノヴァの代表的な楽曲が
並ぶ中で、通常のスタンダードも上手く配置されており、そのどれもが見事にボサノヴァのアレンジが施されている。ジャズとボサノヴァの相性の良さを
改めて感じ取ることができる。

アントニオ・カルロス・ジョビンはシナトラのサポートに徹していて、自身の歌を披露するのも半分以下。残りはガット・ギターで静かにシナトラに寄り添う。
この控えめな立ち振る舞いが如何にもこの人らしい。

50歳を過ぎてこのアルバムを聴いても、こういう大人の世界にはとても手が届かないなと思う。クールで、物静かで、上質なこの世界観の中で
シナトラとジョビンはどこまでもスマートだ。いつかはこの世界の扉を開けることができるようになりたいと思うけど、そんな日はやって来るだろうか。


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圧倒的に上手いヴォーカル

2020年04月13日 | Jazz LP (Vocal)

Mel Torme / Sunday In New York  ( 米 Atlantic 8091 )


歌手の魅力はルックスも大事だろうが、やはり声の魅力だ。歌唱に多少の難があっても、聴き惚れるような美声があれば七難を隠す。選ばれし者だけ
に許された職業なのかもしれない。だから、メル・トーメが男性ヴォーカルの第一人者と言われるのはなかなか凄いことなのかもしれない。

彼の場合、お世辞にも美声とは言い難い。ハスキー気味だし、声量もない。声域が高くて、男性らしい低音の魅力もない。おまけにあのルックスだ。
まあ、親しみやすいキャラで、同性から嫉妬を買うことはないかもしれないけれいど、女子たちが歌声を聴いて、キャアー!と叫ぶタイプではない。

およそ歌手に向いているとは言いにくい感じなのに頂点の1人となったのは、ひとえに歌の上手さに拠る。驚異的なヴォイス・コントロールの技に
圧倒されるからだ。しかも、その技がわざとらしくなく、あまりに自然なので別の意味で聴き惚れることになる。

マニアにはベツレヘム盤がお馴染みだが、この頃はまだ若く、技巧的には少し未熟。歌手として才気が爆発するのは、その後の時代になる。
Verve時代のものは比較的聴かれているだろうが、それよりもアトランティックやコロンビア時代のほうが更にその歌は冴えている。
その中でも、この "Sunday In New York" は非常に出来がいい。

間の取り方が絶妙だし、複雑で微妙な音程の正確さは完璧。歌唱の表情が明るく朗らかで、聴いているこちらも自然に笑みが浮かんでくる。
これは貴重な美質で、他の歌手にはない特徴だと思う。選ばれた楽曲もいい内容で、ニュー・ヨークという主題が要となって大きなイメージを
うまく形成できている。伴奏との相性もよく、オケの音量に負けていない立派な歌が見事だ。

ただ、わざわざこういう聴き方をする必要はなく、単純に聴いていて「これはいい」と思う素晴らしいアルバム。ヴォーカル作品にとって一番
大事なのはそういうところだと思う。


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シスターズの先駆け

2020年04月11日 | Jazz LP (Vocal)

The Dinning Sisters / Songs By The Dinning Sisters  ( 米 Capitol H-318 )


女性コーラスは姉妹で結成されたグループが多い。マクガイアー、レノン、ボズウェル、アンドリューなんかがそうだ。
他人同士の女性のグループというのは、うまくやっていくのが何となく難しそうである。だから姉妹という関係性が必要だったのかもしれない。
そういうシスターズの先駆けが、このディニング・シスターズあたりになるのかもしれない。

40年代に活動していたので、レコードはほとんど残っていない。LPで聴けるのは2枚ほどで、この10インチもSPの切り直しである。ジャズという
よりは当時のポップスという雰囲気で、ジャズ・ヴォーカルとしての醍醐味は薄い。3声なのでハーモニーも単純だし、楽曲も短いし、あっという間に
聴き終わってしまい、分量的には物足りない。もう少しレコードを残して欲しかった。

SPを探せば他にも色々と音源は残っているから猟盤的には面白いのかもしれないけれど、さすがにそこまではやる気にはなれない。媒体としての
不完全さは手の施しようがなく、面倒臭さが音楽鑑賞の興を削いでしまう。

コーラスの世界もフォー・フレッシュメンが出てくるまではどのグループも楽し気にわかりやすく歌っていればよかったが、そのままの路線で
済むほど世の中は甘くなく、やがては技巧を磨いて高みを目指さなければ生き残れなくなってくる。そういう世知辛い時代がやってくる前の
穏やかなハーモニーの記録としてLPフォーマットが残されたのはよかった。


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ブロッサム・ディアリーの残した種

2020年01月25日 | Jazz LP (Vocal)

Les Blue Stars / S/T  ( 仏 Barclay 80076 )


ブロッサム・ディアリーが1952年に渡仏して、アニー・ロスやミシェル・ルグランの姉であるクリスチャンヌ・ルグランらと結成した男女混成コーラスが
このブルー・スターズで、一般的には "バードランドの子守唄" が収録されたアルバムが知られている。オリジナルは仏バークレーの10インチで、米国の
エマーシーから12インチで切られた方がよく見かけるが、このアルバムはアメリカではリリースされていない。収録された曲にジャズのスタンダードが
入っていないからかもしれないが、詳細はよくわからない。

男女混成の場合は1人の女性を中核にして男性のコーラスが厚みを持たせるのが普通だが、このグループのように両者の比重が対等なバランスで、という
のは、それが成功しているかどうかは別にして、珍しい。立ち上げたばかりのグループということもあってコーラスとしての完成度はまだまだだが、
後にダブル・シックスへと発展するこのグループの最初の姿が捉えられているのは貴重だ。

このレコードを聴いていると、コーラスの本場はやはりアメリカだったんだなと思う。アメリカのグループの取り組み方は本腰が入っており、完成度が
まったく違う。このブルー・スターズは仲間内でちょっと集まってみて、一斉にワーッと歌ってみました、という感じで、よく言えば手作り感がある。
ただフランスでは初の本格的なグループということだったのか、こうしてきちんとレコードが残っているのはよかった。

ブロッサム・ディアリーは程なくしてアメリカへ帰国するので、このグループとしては長続きしなかった。ただし、その意志を継いで次のグループへと
発展していることから、残されたメンバーにも手応えがあったに違いない。こうしてアメリカのジャズは欧州にその種を残していったのだ。


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影の主役が創り上げる傑作

2020年01月18日 | Jazz LP (Vocal)

Nat "King" Cole / Love Is The Thing  ( 米 Capitol W-824 )


このレコードの影の主役はゴードン・ジェンキンス。マイルスの "ポーギーとベス" がギル・エヴァンスであるように、それは主役と表裏一体となり
不可分の存在である。ナット・キング・コールの代表作と言われるこのアルバムも、ネルソン・リドルだったらこうはならなかったと思う。

このオーケストラはチェロやコントラバスが効果的に使われていて、それが他の弦楽器群の高音域との効果的なコントラストを産み出し、
重厚でいてシルクのような柔らかさを実現している。ナット・コールの歌はもちろん見事だが、それ以上にオーケストレーションに耳を奪われる。

決定的名唱である "スターダスト" の、天上から降り注ぐ無数の星屑を全身に浴びるような恍惚感もこのオーケストラであればこそ、である。
毎回書いているような気もするけれど、ヴォーカル作品はバックの演奏が重要である。ヴォーカリストの歌唱だけでアルバムが傑作になることは
決してないと思う。これはどちらかと言えば総合芸術の分野だ。

ナット・キング・コールの歌唱は概ねどのアルバムでも安定した歌唱を披露していて、ハズレはない。歌手としての最盛期を迎えていたのだろう。
そういう意味では、キャピトルのアルバムはどれを聴いても満足できる。平均点の高さだけで言えば、シナトラを超えているかもしれない。
裏を返せばそれは金太郎飴ということかもしれないけれど、聴く側の期待を決して裏切らないこの人の歌手としての神髄はここにある。
唯一無二のビロードのような声質は、やはりいつ聴いても素晴らしい。


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丁寧に歌った傑作

2020年01月13日 | Jazz LP (Vocal)

David Allen / A Sure Thing  ( 米 World Pacific WPM-408 )


David Allen、その後 David Allyn という綴りになるデヴィッド・アレンは意外に長いキャリアを誇る人で、1940年にジャック・ティーガーデンの
楽団で歌手として活動を始めている。それはちょうどフランク・シナトラがトミー・ドーシー楽団で歌い出した頃で、そう考えると驚いてしまうが、
本人はシナトラを意識するよりは、ビング・クロスビーから大きな影響を受けたと言っている。

第二次大戦時に北アフリカで従軍後、ボイド・レイバーン楽団で歌った後にソロで活動するが50年代中頃にはドラッグで2年服役するなど、
そのキャリアはなかなかうまくはいかなかったようだ。その後、ワールド・パシフィックから出た初リーダ作がこのアルバムになる。

ジョニー・マンデルがアレンジと指揮をしたこのアルバムは素晴らしい出来で、50年代に出された男性ヴォーカルアルバムの中でも出色の内容だ。
それまでの誰にも似ていない堂々たる歌いっぷりで、ジェローム・カーンの名曲群を珠玉の作品としてまとめ上げた。

"A Sure Thing"、"The Folks Who Live On The Hill"、"In Love In Vain"などが特に素晴らしく、これらの楽曲でこれ以上の名唱は他に
例がないだろうと思う。ビング・クロスビーよりもダンディーで、シナトラよりも男の色気があり、ナット・キング・コールよりも優れた解釈だと思う。
丁寧に歌っているところが何よりいい。

ただ残念なので、この後が続かなかったことだ。同レーベルから翌年に第2弾が出るが、これがまるで別人が歌っているかのような弛緩した内容で、
非常にガッカリさせられる。その後も数年間隔でポツリポツリとアルバムは出るが、結局、第1作を超えるものは作れなかった。なぜだかはわからない。

そういう事情も手伝って、このアルバムは余計に重みを感じることになる。1枚しかないと思うと、ことさら大事に聴くことになるからだ。
このアルバムも30年聴いているけれど、飽きない。


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クルーナーの草分け

2020年01月11日 | Jazz LP (Vocal)

Earl Coleman / A Song For You  ( 米 Xanadu 147 )


男性クルーナーの元祖はビリー・エクスタタインと言われることが多いけれど、クルーナーというのは本来は静かに歌うイメージで、ああいうド派手な
エンターテイナーに冠するのは少し違和感がある。そういう意味では、クルーナーの草分けはこのアール・コールマンの方だろうと思う。
40年代にアール・ハインズ楽団付き歌手としてSP録音したのを皮切りに、ダイヤル・レーベルなど、活動は地味ながらも徐々に拡がっていった。

ただ、男性ヴォーカルはショー・ビジネスの世界に身を置かない限りは地味な活動にならざるを得ず、それは彼も例外ではなかった。忘れた頃になって
ポツンと録音が残っている程度で、余程好きな人を除いて誰からもまともに認知されることはなくそのキャリアを終えている。

私はこの人がとても好きなのでその音源はSPも含めて主要なものは手許に置いているけど、その中で最も優れているのがこのアルバムだろうと思う。
アル・コーンのワンホーン、ハンク・ジョーンズのトリオをバックにした素晴らしいアルバムで、ジョニー・ハートマンがコルトレーンとやったアルバムを
彷彿とさせる。私が知る限りではアル・コーンの最高の演奏はこのアルバムでの演奏だし、ハンク・ジョーンズのピアノも最高の出来で、バックの4人の
演奏だけを聴いても凄いことになっている。

クルーナーの中では最も低い声で歌う歌手で帯域が広くないので向かない曲での歌唱には難があるけれど、うまくハマると他の歌手には出せない良さを
見せる。このアルバムでもタイトルになったレオン・ラッセルの名曲での歌唱は素晴らしい。ラッセル本人の歌よりもこちらのほうがずっといい。
そして間奏で見せるアル・コーンの演奏の深み。

アルバムの数が少ないのが残念だ。ヴォーカルの世界はいい歌手なのにアルバムが少ないという人が多い、なかなか難しい世界なのだと思う。





パーカーと共演した2曲は33回転で聴けるが、こちらのファッツ・ナヴァロらとの共演はこれでしか聴けないので、しかたなくSPで聴いている。
SPはとにかく面倒臭いので嫌いなんだけど。


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完全アカペラが作る音楽の巨大な壁

2019年12月23日 | Jazz LP (Vocal)

The Singers Unlimited / Christmas  ( 独 MPS 20 20904-0 )


クリスマス・ソングは、やはり何と言ってもコーラスが似合う。コーラス・グループの多くがクリスマス・アルバムを残しているけれど、その草分けが
シンガーズ・アンリミテッドのこのアルバムかもしれない。

ハイ・ローズ解散後にジーン・ピュアリングが作ったグループがこのシンガーズ・アンリミテッドだけど、レコーディングは1人が複数パートを歌い、
全体で4声以上の分厚いコーラスの層を作り、エコーをたっぷりと効かせた壮大な音響で録音した。おそらく教会の聖歌隊をイメージしたのだと思う。
ドイツのMPSレーベルと契約したおかげで、このレーベルの高度な録音技術がそれを可能にした。

このグループはジャズ・コーラスの技術的限界の枠を大きく拡げて、この路線は現代のザ・リアル・グループに引き継がれている。このアルバムも完全
アカペラで、人の声だけで巨大な音楽を作り上げている。取り上げられている楽曲はポピュラー系のものは避けてトラディショナルなものがメインに
なっており、それがアルバム全体の格調を高い印象へと押し上げている。そういう意味では極めて正統派の内容だ。

これをかければ、家の中は見事なまでにクリスマス一色となる。クリスマスツリーもクリスマスケーキも欠かせないけれど、やっぱり何はなくとも
音楽、である。お気に入りのクリスマスアルバムがあるのとないのでは人生の楽しさはずいぶんと違ってくるのではないか、という気がする。


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楽しいクリスマスの雰囲気はどこへ消えたのか?

2019年12月22日 | Jazz LP (Vocal)

Rosemary Clooney / In Songs From The Paramount Pictures Production Of Irving Berlin's White Christman  ( 米 Columbia CL6338 )


12月に入ると街の装いがクリスマス色に染まって、というのが楽しみだったはずなのに、どうも最近はそういう雰囲気が希薄になっていないだろうか。
昨日も街中へ出かけたけれど、クリスマスの雰囲気を感じることはなかった。なぜだろう?

そういう雰囲気を楽しむ心の余裕みたいなものが、社会全体から無くなってきているような気がする。子供の頃は、デパートに行くとクリスマスソングが
終始流れていて、緑と赤の装飾で彩られて、人々の顔つきも穏やかで楽しそうだった。そういうクリスマスはどこに行ってしまったのだろう?

だから、せめて我が家の中だけはクリスマスっぽくしよう、とクリスマスのレコードをできるだけかけるようにしている。幸いジャズの世界にはその手の
レコードがそこそこ残っているから、題材に困ることはない。

ローズマリー・クルーニーはジャズ・シンガーというよりはポピュラー歌手なのかもしれないけれど、ちゃんとクリスマス・アルバムを残している。
ポール・ウェストンやパーシー・フェイス楽団をバックに朗々と歌う。この人のいい所は色気を武器にしないところ。そういうのでごまかさない潔さだ。

アーヴィング・バーリンのクリスマスや冬に因んだ曲が集められていて、ザ・メローメンというコーラス隊がバックに付いたドリーミーな内容。
クリスマス・アルバムは出来がどうのこうのというべきではなくて、その存在そのものがありがたくて楽しいのだから、丸ごと楽しめばそれでいい。
このレコードは、ジャケット・デザインも素敵だ。何もかもが楽しい。


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エセル・エニスの歌声

2019年12月07日 | Jazz LP (Vocal)

Ethel Ennis / Have You Forgotten  ( 米 Capitol T-1078 )


天才の技に接する時、人は直感的に、理屈抜きに、「これは敵わない」と感じるものだ。特に歌の場合はフィジカルな感覚として理屈抜きにわかる。
エセル・エニスの歌声は、その最もわかりやすいケースだ。この歌声を聴いてそう感じない人はまずいないだろうと思う。

クセのない真っ直ぐでよく通る声、正確な音程、抑制された感情、それでいてにじみ出る情感と芳香、これ以上の歌手が他にいるかと思わせる。
ありふれたスタンダードではなく、地味でいてメロディーの良い歌を静かに歌っていく素晴らしいアルバムで、キャピトルの真骨頂と言える。
こういうレコードはこのレーベルしか作れない。

ただ、キャピトルにはこういう趣味の良いヴォーカル作品がザクザク転がっていて、その中に埋没してしまい、目立たなくなるという面がある。
これがマイナーレーベルからポツンと発売されていたら、おそらくみんなが目の色を変えて探す名盤となっていただろうと思う。
素晴らしい音楽だからメジャーレーベルが契約してリリースしているのに、それが却って作品の価値を平準化させてしまう。何とも皮肉な話だ。
マニアが騒ぐ名盤や人気盤の正体とは、得てしてそんなものだ。

今のところはエセル・エニスが好きな人は本当にヴォーカル作品が好きな人だろうと思うけれど、これはそういう枠を超えて認知される価値がある。
黒人女性ヴォーカルはエラやサラやレディー・デイだけではない、という当たり前の認識に早くなればいいと思う。


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ヴォーカリーズを愉しむ その3

2019年11月04日 | Jazz LP (Vocal)

King Pleasure / King Pleasure Sings  ( 米 Prestige LP 208 )


"キング・プレジャー"とは何とも人を喰った芸名だけど、本名はクラレンス・ビークスだ。テネシーからニューヨークに出てきてバーテンダーを
していた時にエディー・ジェファソンがクラブで歌っていた "Moody's Mood For Love" を聴いて真似し出したのがキャリアの始まりだったらしい。
51年のアポロ劇場のアマチュアコンテストでそれを歌って優勝してプレスティッジの眼に留まったということらしいが、詳しくはよくわからない。
私が知っている限りではレコードは3種類しかなく、それだけでは当時どういう活動をしていたのかを伺い知ることはできない。

美声とはとても言えるタイプではないけれど、エディー・ジェファーソンやジョン・ヘンドリックスよりもよく通る大きな声質だったことが功を奏して、
その歌は強く印象に残り、レコードは何度もシングル・カットされてヒットした。そのおかげでヴォーカリーズの第一人者と認識されたようだ。
歌い方もブルースのフレーズをいささか投げやりな雰囲気で歌うところがうまくツボにはまっており、1度聴くと耳に残る。

キング・プレジャーと言えば、ここに収められた "Perker's Mood" が最も有名ではないかと思う。パーカーの吹いたフレーズに歌詞を付けて、パーカー
さながらに気怠く、それでいて強く張りのある声で歌ったこの歌唱の印象は強烈だ。その他、ベティー・カーターを迎えた "Red Top" やスタン・ゲッツ
の演奏で有名な "Jumpin' With Symphony Sid" なども収録されている。この後が続かなかったのが不思議だ。

ヴォーカリーズはやはり技術的には難しいジャンルだったのだろうと思う。さほどたくさんの歌い手は輩出されなかったし、エンターテイメント性が
高くてライヴではウケたかもしれないが、レコードを制作するところまでは至らなかったのかもしれない。何となく、元の演奏をおもしろおかしく
諧謔的にパロディー化しているような印象もなくはないし、そういう誤解を与えかねないところはあるけれど、実はそんなことはなくて、オリジナルの
演奏への深い敬意と愛着に満ちた世界なのだ。

このスタイルは廃れることはなく、85年にマンハッタン・トランスファーが満を持して "Vocalese" を発表する。これはジャンルを超えた大傑作で、
私の30年以上の大愛聴盤だ。エディー・ジェファーソンからマントラまで丹念に聴いていくと、ヴォーカリーズはジャズのフィーリングに溢れた
素晴らしいスタイルだということがよくわかる。この先も稀有な才能が登場することを心底願って止まない。


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ヴォーカリーズを愉しむ その2

2019年11月03日 | Jazz LP (Vocal)

Eddie Jefferson / Letter From Home  ( 米 Riverside RLP 411 )


3大レーベルはヴォーカル作品をほとんど作らなかったが、数少ないタイトルにはデッカやキャピトルのようなメジャーレーベルが手掛けなかった
独自のセンスが光るものが多く、ジャズ専門レーベルの矜持が見られる。ブルーノートのシーラ・ジョーダンなんかは素晴らしい内容だし、
プレスティッジは録音の機会が与えられてこなかったアール・コールマンを取り上げ、リヴァーサイドはマーク・マーフィーの傑作を作っている。
どれもジャズの本流の中に歌手を引っぱり込んで歌わせるという作り方をしていて、そこが他のレーベルとは決定的に違う。各レーベルが一流の
ミュージシャンたちを契約で抱えていたという強みがそれを可能にした。

エディー・ジェファーソンの初リーダー作は1962年になってやっとリヴァーサイドからリリースされた。アーニー・ウィルキンスやジョニー・グリフィン
など当時のレーベルお抱えのミュージシャンらがバックを支える豪華な作りで、演奏はとてもいい。オリン・キープニューズがタイトル曲の歌詞を
書いたりしていて、アルバム制作への気合いの入り方が違う。有能な才能たちが集まって総がかりでこのアルバムに取り組んだ雰囲気が伝わってくる。

エディーの声はスモーキーで、歌い方も柔らかい。それがバックの演奏とうまく調和していて、全体がいい雰囲気でまとまっている。ヴォーカリーズの
技を聴かせるというよりは、音楽全体で聴かせる仕上がりになっているのが心地よい。歌が浮いておらず、音楽の中にうまくブレンドされている。

アルバム最後に置かれた "Bless My Soul" は "Perker's Mood" の変名で、歌詞もエディー自身が書いたものに変更されて、キング・プレジャーとの
差別化が図られている。元々ヴォーカリーズとしてはエディーが先駆者なのに、後発のキング・プレジャーのレコードのほうが売れたりして、認知度は
どうやら逆転していたらしい。音楽家にとってレコードを作るというのは大事なことだったのだ。

リヴァーサイドはいいアルバムを作る。こういうのはブルーノートではあり得ない。3大レーベルはそれぞれの路線を明確にしながら、意識的だったのか
無意識のうちにだったのかはよくわからないけれど、お互いにうまくホワイトスペースを補完し合っていたと思う。そのおかげで、我々はジャズとは
一体どういう音楽だったのか、を知ることができるのだ。


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ヴォーカリーズを愉しむ

2019年11月02日 | Jazz LP (Vocal)

Eddie Jefferson / Body And Soul  ( 米 Prestige PRST 7619 )


ヴォーカリーズの創始者はこのエディー・ジェファーソンだと言われている。ジューク・ボックスから流れるコールマン・ホーキンスの "Body And Soul" を
聴いて、そのサックスのパートすべてに歌詞をつけてライヴで歌うようになったのが本格的なヴォーカリーズの起源だったらしい。1939年後頃のことだ。
ホークの "Body And Soul" は当時ヒットして有名だったから、たぶん本当の話だろう。

その後、キング・プレジャーやランバート・ヘンドリックス&ロス、マーク・マーフィーらが続き、レコードもリリースするようになるが、肝心のエディー
のレコードは60年代に入るまでリリースされることはなかった。理由はよくわからないけれど、長年冷や飯を食わされていたのは気の毒な話だ。ただ、
ヴォーカリーズ自体マイナーな分野だから、レコードの需要はさほどなかっただろう。どの歌手もさほどレコードがたくさん残っているわけではない。
唯一、マーク・マーフィーは長くコンスタントにアルバムをリリースしているけれど、彼の場合はヴォーカリーズは隠し味程度に使っていたから、
普通のヴォーカリストとして認知されていたということだと思う。

美しい声で上手く歌うということよりも有名楽器奏者が残した名アドリブをそのまま歌詞をつけて人の声で再現するということが目的だから、歌唱として
の魅力はここにはあまりない。でも、まるで声による曲芸とも思えるような歌いっぷりはどれを聴いても感心するし、純粋に楽しい。音楽の広い裾野を
実感することができる。

最初に歌ってから20年以上経ているけれど、代名詞の "Body And Soul" を筆頭にマイルスの "So What" やホレス・シルヴァーの "Psychedelic Sally”
などの極め付きのヴァージョンが聴ける楽しいアルバムになっている。ジェイムス・ムーディー、デイヴ・バーンズやバリー・ハリスらがバックを固めて、
彼らの演奏を聴くだけでも楽しいものがある。

ジャズの世界ではこういうのは際物扱いされているせいもあって、当然安レコ扱い。ただ聴く人も少ないし、売っても金にならないこともあってだろう、
レコード自体があまり流通しないのが難点。逆の意味で入手が面倒臭いタイプのレコードかもしれない。ジャケットにはドリルホールがあるけれど、
まあどうでもいい感じだ。
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