Toni Harper / Toni ( 米 Verve MG V-2001 )
9歳の時に初レコーディングした "キャンディ・ストア・ブルース" がヒットして一躍有名になり、アルバムを3枚残して29歳で引退した早熟の歌手として
ヴォーカル好きにはよく知られたトニ・ハーパーのファースト・アルバムで、彼女が18歳の時の作品だ。 その年齢が嘘のような落ち着きとしっとりとした
雰囲気に包まれている。
声質はエセル・エニスによく似ていて、黒人シンガーのアクの強さを敬遠する人にも歓迎されるあっさりとした質感が持ち味で、バックのピーターソンや
ハーブ・エリスの歌伴のシンプルさも相俟ってしっとりとした穏やかな作品に仕上がっている。 ただ、声質は似ていても、エセル・エニスはサラ・ヴォーンの
影響を受けている一方で、トニにはあきらかにエラ・フィッツジェラルドの歌い方の影響があって、そこが嗜好の分かれ目になる。
ずいぶん久し振りに聴いたが、以前は気が付かなかった "Little Girl Blue" の繊細な表情が素晴らしいと思った。 年を取ると、歌の良さに対する
感じ方がずいぶん変わって来る。 若い頃はメロディーの歌わせ方やサウンド全体のインパクトなんかに意識が向いていたけれど、今は地味な曲の中に
ある小さなさざ波みたいなものに聴き耳をたてるようになっている。 落ち着いて音楽を聴けるようになってきたのかもしれない。
昨日、仕事帰りにいつも通り新宿に寄ったら、US買い付けのロー・プライス品(2,000円以下)が新着コーナーに出ていて、その中にこれがあった。
値札は1,512円で、更に週末の値引きで-10%。 このレコード、こんなに安かったっけ? 昔はもっと高かったような気がするんだけどなあ。
とにかく、レコードが安いのだ。 お財布に優しい猟盤の日々がゆるゆると続いている。