廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

Low Price Goes On

2016年11月26日 | Jazz LP (Vocal)

Sarah Vaughan / Sings George Gershwin  ( 米 Mercury MGP-2-101 )


新宿に寄るとロー・プライス品がたくさん出ていて、楽しい漁盤ができた。 買おうと思う盤自体たくさん混ざっているわけではないけれど、パタパタと
めくっていくだけで無条件に楽しい。 一通りチェックし終えて改めて店内をぐるりと眺めてみると、レコードって本当にたくさんあるなあ、と思った。
自分に引っかかるものや実際に買えるものはごく僅かだけど、それでもたくさんのレコードたちがこうやって棚の中で見染められるのを静かに待っている
様子はどことなく愛おしい。 営業時間が終わり、部屋の灯りが消え、従業員がみんな帰った後、レコードたちは何やらヒソヒソと話しをしているのかも
しれない。 「今日も誰にも手に取って貰えなかったよ」「もうちょっとで買って貰えそうだったんだけどなあ、残念」とかね。

サラのこのレコードもずいぶん久し振りに見かけたような気がする。 最近はこういう古い歌物は人気がないようで、全然流通しなくなった。
おかげで出てきた時には二束三文の投げ売り状態になっているから、その中から丁寧に拾っていくのだ。

マーキュリー時代のサラはキャリアの中でも安定期で、レコーディングもたくさん行ったし、歌唱も極めて安定していた。 こういうスタンダード作品も
まだ需要があった時期だし、レコードもたくさんプレスされた。 だからレコードは珍しくもなんともないので、また今度でいいや、と後回しにしがちになる。

高級シルクのように上質でリッチなオーケストラの演奏をバックに、深みのある澄んだ声で丁寧に歌い継がれていく。 2枚組というボリュームなのに
飽きることなく聴き通せるのは、サラの歌がただただ素晴らしいからだ。 歌い方もオケの演奏も本当に丁寧だし、録音が抜群にいい。 部屋の中いっぱいに
鮮度の高い音楽が拡がる。 ジャケットのインディゴ・ブルーのイメージ通りの素晴らしい内容に時間を忘れて聴き惚れてしまう。

こんなに満ち足りた内容なのに、1,296円。 なんだか申し訳ない。




Dick Haymes / Souvenir Album  ( 米 Decca 5012 )


白人クルーナーの雄としてビング・クロスビーと人気を二分したディック・ヘイムズのデッカの10インチは昔はまったく手に入らず稀少盤だった。
このレコードも存在は知っていたけど、現物を見たのはこれが初めてだ。 SP音源の33回転での切り直しで、古い真空管ラジオから流れてくるような
何とも言えない雰囲気が味わえる。 

シナトラがトミー・ドーシー楽団から独立する時に自分の後任に推薦したのがこの人で、シナトラよりも低音域で歌う本格派のクルーナーとして鳴らした。
デッカと契約していたのはSP期だったので、この時期に録音された歌のLPは10インチしか出ていない。 

こういう古い音楽は純粋に大衆が愉しむために作られているので、ややこしい話抜きに愉しめる。 1日の仕事が終わり、疲れて帰ってきた後にラジオから
流れてくるこういう歌を聴いて人々は癒された。 もともとそういう聴き方をするのが正しいので、私もそういう聴き方をする。

30数年で初めて手にしたレコードなのに、540円。 だから、今はロー・プライス品から目が離せないのだ。


コメント (2)
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