Thelonious Monk / Piano Solo ( 仏 Swing M 33.342 )
私が初めて聴いたセロニアス・モンクのアルバムがこれだった。 生まれて初めて聴いたジャズのレコードがロリンズの "Vol.2" だったのだが、その中で
モンクが客演した "Reflections" が気に入って、モンクのレコードでこの曲が聴けるのはどれかと探して最初に目に付いたのがこれだったからだ。
もちろん、その時聴いたのは国内盤の"ソロ・オン・ヴォーグ"というタイトルが付いた黒いジャケットのヤツだった。
レコードから出てきたのは古めかしいピアノの音で、それは寂し気に響いていた。 聴き入っているうちに目の前に浮かんでくる風景はモノクロの色合いで、
人の気配もなく静かだった。 "ソロ"という言葉は「孤独」という意味なのかと思うような風景だった。
この演奏には何か強く訴えかけてくるものがある。 私が普段ジャズという音楽に対して無意識のうちに取っている距離感を無遠慮に無視してこちらにやってくる。
そして、私に向かって何事かを伝えるのだ。
曲のメロディーを軸にしながら装飾的なフレーズが行ったり来たりする。 でも、脇道に逸れたか思うとすぐに本線に戻ってきて、曲は淡々と進んで行く。
感覚的にはフレーズの半分近くは「モンクの音階」の中で戯れている感じだけれど、不思議と曲の原メロディーはしっかりと頭の中に残される。
そう考えると、モンクが弾く「音との戯れ」はそれ自身が元々原曲の一部であるかのように思えてくる。 ただそこには複数のヴァリエーションがあるに過ぎない。
モンクの主要な楽曲が網羅され、彼の持ち味である音との戯れが整然としたリズム感の中で淡々と披露されるこの演奏は、そのわかりやすさも手伝って多くの人から
支持されている。 だから、レコードを入手するのは中々難しい。 オリジナルを見かける頻度はさほど少ない訳ではないけれど、人気があるので値段が高いし、
国内盤も最近はエサ箱の中で見かけることすらなくなった。 でも、それでもこれは探す価値のあるレコードである。 私たちにとって、セロニアス・モンクの
イメージに一番ぴったりとくる演奏を聴くことができるからだ。
ジャケット表紙の綴りは間違っているし、記載されている曲名も間違っているし、で当時のフランス人にとっては完全なる初物だったにも関わらず、
母国では異邦の人のような扱いだった彼の一番素朴な姿を録ることができたのがこの異国の地であったことは、当然といえば当然だったのかもしれない。