Herb Jeffries / Time On My Hands ( 米 Coral CRL 56044 )
デューク・エリントン楽団で40年代に2年ほど歌っていたことで知られるハーブ・ジェフリーズだが、ジャズ・シンガーとしての実像は
レコードがあまり残っていないため、よくわからない。低い声質のクルーナー・タイプのシンガーだが、他のクルーナーたちよりも
よりムーディーな歌い方をするので、どちらかと言えばボビュラー歌手側に寄っている。そのせいか、ジャズ・シンガーとして
取り上げられることは稀だ。
一番まとまった形の作品はベツレヘムのアルバムだが、あれ1枚だけでは歌手としての実力はよくわからない。
それを補完するのが。こういう古い10インチになってくる。
静かなピアノ、ギター、ベースをバックに、古いスタンダードを落ち着いたトーンで歌う。
歌い方はビング・クロスビーの影響が濃厚で、この時代の男性ヴォーカルは皆、クロスビー・チルドレンと言っていい。
アーヴィング・バーリン、ロジャース=ハート、ヴィンセント・ユーマンスらの中でも渋めの楽曲を選び、丁寧に歌う。
こういう歌手たちの歌が後のハード・バップという音楽の基盤になっているわけだから、ジャズにとっては重要な音楽である。
ハード・バップが永遠の人気を保っているのは、それがこういうベーシックでわかりやすいポピュラー音楽をインストとして
継承・発展させた音楽だからだ。
ジャズの原型であるこういう古い音楽を10インチのノスタルジックな音質で聴くのは何とも言えない雰囲気がある。
できれば夜の深い時間にバーで酒を飲みながら聴きたいけれど、そういう店は現実世界にはあまりなさそうで、残念である。