Zoot Sims / In Paris ( 米 United Artists UAJS 15013 )
ズートのアルバムで一番好きなものがこれなので、ステレオ盤も当然聴いている。このレーベルは全般的にモノラル盤のイメージが
強いけれど、実はステレオプレスの音が良い。タイトルによって音場感はまちまちだけれど、過剰なステレオ感ではなく、
非常に自然なサウンドを聴かせて、好感度が高い。
このアルバムはズートが演奏旅行でパリに滞在していた時に録音されているので、アメリカのスタジオなどで録られたものとは空気感が
違う。全体的にノスタルジックな雰囲気が漂っていて、そこがいい。セピア調に色褪せした古いモノクロ写真を見ているような印象があり、
このムードを再生できるかどうかがカギになる。
ステレオプレスは、それが非常に上手く再現される。過剰な残響は付与されておらず、ほんのりとした奥行き感と楽器の音の立体感が
増していて、この奥ゆかしさがいい。空間表現も良くて、この名演がより素晴らしいものへとグレードアップする。
なんという自然な音場感だろう。モノラルプレスが持っていた柔らかい質感を損ねることなく、窓を開けて新鮮な空気に入れ替えたような
清々しさが心地よい。
好きなアルバムがこうして多面的に聴けるというのは、贅沢だけど幸せなことだ。このタイトルは他の選択肢があまりないので、
このステレオ盤の存在は特に重要になってくる。