廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

美しいメランコリア

2021年08月22日 | Jazz LP (Capitol)

Duke Ellington / The Duke Plays Ellington  ( 米 Capitol T-477 )


エリントンが自作の曲をウェンデル・マーシャル、ブッチ・バラードらとのピアノ・トリオで弾いていく。
とても落ち着いた、澄んだ心持ちで弾いている様子が素晴らしい。エリントンらしい諧謔に満ちた、それでいて不思議と美しいメロディーが
どの曲にも零れんばかりに溢れている。ただ、楽譜に書かれた音符を弾いているだけでは、この世界を生み出すことはできないだろう。
エリントン独特の間の取り方や打鍵の質感があってこそ、である。

このアルバムの白眉は、"Melancholia" 。ベースとのデュオで奏でられるこの美しさは筆舌に尽くし難い。
これまでにいろんなミュージシャンがこの曲を取り上げてきたが、誰一人、この美しさを再現できた者はいなかった。
あのマイルスも畏れ多いと思ったか、この曲を演奏することはなかった。おそらく、唯一、演奏するのに相応しい人だったにもかかわらず。
ウィントン・マルサリスのように、この孤高の世界に触れるという暴挙をしでかす無神経さは彼には当然なかっただろう。

エリントンはピアノ・トリオのアルバムを他にも何枚か作っているが、このアルバムには他の作品にはない特別な雰囲気が漂っている。
高貴で、エレガントで、洗練された静謐さのようなもの。これを聴いていて思い出すのは、モンクのSwing盤である。
エリントンが弾く "Melancholia" や "All Too Soon" には、モンクがフランスのスタジオで一人寂しく弾いた "'Round About Midnight" と
同じ雰囲気がある。作曲者本人にしか語りえない曲想の核のようなものが表現されている。

このアルバムは初めは10インチでプレスされたが、そこには "Melancholia" や "All Too Soon" が含まれていない。
だから、聴くなら12インチで。



コメント (2)
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