報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行」 4

2014-05-09 21:00:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月4日16:00.仙台市太白区長町ビジネスホテル ユタ、威吹、カンジ、イリーナ、マリア]

「こぢんまりしているけど、なかなかきれいなホテルね」
「ええ。さすが藤谷組です。ちょっと、フロント行ってきますよ」
 ユタはフロントに行った。
「これだと、どういう部屋割りになるかねぇ……」
 イリーナは考え込んだ。
「まず、ユウタ君とマリアは一緒にしちゃって……」
「えっ!?」
「何でだよ!」
 イリーナの発言にさすがのマリアも狼狽し、威吹は眉を潜めてツッコミを入れた。
「それとも、トリプルとかあるのかしら?」
 しばらくして戻って来る。
「ツインが2つと、シングルが1つです」
「じゃあ、私がシングルでユウタ君とマリアはツインに入っちゃって」
「ええっ!?」
「いい加減にしろよ!」
(鬼之助だったら、逆に有無を言わさず部屋に連れ込んでいただろう……)
 カンジは冷静にそう思った。
(だからこそ、栗原女史のような気の強い女性が相応しい。しかし、この場合は……)
「カンジ、お前からも言ってやれ!」
「……困ります、先生。そこは稲生さんやマリア師の意見を尊重しませんと」
 そう言って、
(逆にどちらかが積極的であれば、簡単に収まる話でもあるか……)
 と、思うのだった。
(鬼之助は積極的過ぎて、後に禍根を残すタイプでもあるが)
 更にそう付け加える。

 結局、威吹とカンジ、イリーナとマリアでツインに入り、ユタがシングルを使用することで話がついた。
「おい、こっそりユタを襲いに行くなよ?」
 威吹はエレベーターの中で、魔道師2人に釘を刺した。
「威吹君こそ、お腹が空いたからと言って、食べに行っちゃダメよ?」
 イリーナは悠然とした様子で言った。
「食べねーよ!ユタ、こいつらは瞬間移動で簡単に部屋にも忍び込まれるからな、何かあったらボク達を呼ぶんだよ?」
「分かってるって。もう……」

 部屋に入る前に、
「これからどこ行く?」
 と、イリーナが言う。
「せっかくだから遊びに行きましょうよ?」
「遊びに……ねぇ……」
 今から観光しに行くのかと思ったユタだったが、
「私はあそこの農家に泊まるものだとてっきり思ってたから、何も考えてなくて……」
「はあ、そうですか。威吹は?」
「ボクはちゃんと飯が食えれば、それでいいなぁ……」
「随分、断片的だな。カンジ君は?」
「あいにくと、オレも未定です」
「マリアさんは?どこか行きたい所あります?」
「マリア、遠慮しなくていいのよ。どうせ皆、決まってないんだし」
「わ、私ですか……。えーと……」
 マリアは言いにくそうにしていた。
「私……温泉に行きたいんですけど……」
(わざわざ長野から仙台まで来て温泉!?)←ユタ、イリーナ
(さすが、魔道師は考えることが違う)←カンジ
(温泉か。そういえばここ最近、入ってないな……)←意外にも威吹
「ユウタ君、いい所ある?」
「えっ?あ、はい。至急、検索します。カンジ君、タブレット貸して」
「ハイ」
 ユタはあえて手持ちのスマホではなく、タブレットで検索することにした。
「今から秋保温泉と作並温泉に行く方法は……」
「あ、あの、ユウタ君。マリアは温泉ならどこでもいいみたいだから、そんな有名どころでなくていいのよ?ここから行くの大変でしょう」
「そんな面倒臭いことしなくたって、そこのヤツでいいんじゃないのか?」
 威吹はエレベーターホールの掲示板に貼られている広告を指さした。
 それはスーパー銭湯の広告だった。
 ここから車で少し走ったところに複合娯楽施設があって、そこにあるらしい。
 天然温泉と書いてあったが……。
「威吹、わざわざ長野から来てスーパー銭湯も無いだろう?大丈夫。秋保温泉なら、確かここからバス1本で行けたはず。日帰り入浴も……」
「あ、あの、ユウタ君……」
 マリアが遠慮がちに言った。
「そんな、ノリノリでなくていいんだ……よ」
 とのこと。

 バスで行けること自体は同じだが、いかんせん本数が少ない。
 バスの時間に合わせて行くことにした。
「ちょうど行けば、夕食も取れるんじゃない?」
「そうですね」
 長町駅の前から、バスに乗り込む。
 後ろの席に座って、ふとユタは気づいた。
「そういえばマリアさん、いつものミク人形はいないんですね?」
「ああ、それならここにいる」
 マリアのバッグに付いたストラップのぬいぐるみ。
「これ!?」
 確かに、見た目はミク人形を更にデフォルメした感じだが……。
 他にもフランス人形っぽいのがいる。
「さすがに私服で、あの人形を持ち歩くわけにはいかない」
「そんなことも無い思うけど……」
 魔道師のローブも、マリアは着ていなかった。
「夜は冷えるから、ローブは持ってきている」
「そうね。それは私もそう思う」
 イリーナの場合も普通の私服の上から、ローブを羽織っている。
 防寒用にもちょうど良いとのこと。
 そういえば、夏に会うことはあんまり無いが……。

「ユタ、そういえばボク達手ぶらだけど、いいのか?」
「ああ、大丈夫だよ。タオルとかは全部レンタルで」
 と、ユタは答えた。
 バスが次停留所の放送を流す。
「あっ、ここだ」
 ユタは降車ボタンを押した。
「そんなに、時間が掛からなかったわねぇ……」
「そうですね」
 ユタ達はバスを降りた。
「本数も少ないし、最終も早そうなので、戻りはタクシーになりそうですね」
 ロードサイドのため広大な駐車場を持ち、やはり車で来る来場者が多そうだった。
「先に夕食にしますか?」
「いや、やはり風呂上りがいいだろう」
 威吹が言った。
「なるほど。それもいいかもね」
 ユタは頷いた。
 他に異議を唱える者はいなかったので、そのままスーパー銭湯まで向かった。

 この施設でユタ達は、ある人物と再会することになる。
コメント (4)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行」 3

2014-05-09 14:02:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月4日14:00.仙台市宮城野区小鶴 仙台・稲生家 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「まずいですよ、師匠」
「せっかく出された物なのに、そんなこと言わないの」
「いや、不味いじゃなくて、拙いです」
「日本語は難しいわね」
「↑みたいな説明、小説だからできることですけどね。……そうじゃなくて、ヘタレ妖狐コンビの弟子の方です」
「カンジ君がどうしたの?」
「師匠の正体について、感づいてるみたいですよ。何とかした方がいいんじゃないですか?」
 すると、イリーナはズズズと緑茶を啜ってから答えた。
「別に、どうってことないよ」
「しかし……」
「確かにこの体、使い始めてそろそろ300年くらいになるかしら。使用期限が迫ってるのは確かだからね、でもあと何十年か持つよ」
「でも、使用期限ギリギリまでは使えないって前に言ってました。既に残り数十年の時点で師匠、眠りの時間が長くなってます」
「大丈夫だって。朝が弱いのは、いつものことだから」
「ですが……」
「あなたが起こしてくれればいいの。……あ、でもお醤油はカンベンしてね」
「はあ……」
「それより、あなた自身のことも考えておかないと」
「私自身ですか?」
「ユウタ君と深い付き合いになるに当たって、あの事は避けて通れないよ?既にあの妖狐達も、あなたの目の奥の闇について気づいているみたいだしね」
「……ユウタ君は私の過去を詮索するような人ではないですし、妖狐の方は隠し通します。私や師匠が話さなければ、できることです」
「まあ、私もペラペラ喋るつもりは無いけどね。上手く行くといいんだけど……」
「はい」
「ところで、そのユウタ君達は?」
「師匠がお昼寝してる間、寺に行ってますよ。この近くに、日蓮正宗の寺があるそうです」
「へえ、凄い偶然ね」

[同日同時刻 仙台市宮城野区燕沢東 日蓮正宗 大洞山 善修寺三門前 威吹邪甲&威波莞爾]

「こんな所にもユタの宗派の寺があるなんて……。よく見つけたもんだ、ユタは……」
 威吹は呆れた様子で呟いた。
 県道8号線(利府街道)から路地に入って、少し登った所に寺院はあった。
 だから三門前から道路の方を見ると、それを見下ろす形となる。
「困った時の神頼み……もとい、仏頼みか。よくやるよ」
「ええ」
 ユタはこの寺院にお邪魔し、本堂で唱題しているという。
 困った時は御本尊に向かい、唱題で乗り切るというのがユタのモットーであった。
 そんなユタを口では言わないが、陰で笑う妖狐2人。
「ん?」
 その時、1台のミニバンが県道から登って来た。
 その車は三門の前を通り過ぎようとしたが、威吹達の前で急停車した。
「あれ?キミ達は確か……」
 パワーウィンドウを開けて、ドライバーが声を掛ける。
「あっ、あなたは……!」
 威吹はそのドライバーに見覚えがあった。
 それは……。

「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
 本堂で唱題中のユタ。
 その隣に座る初老の男。
 数珠を取り出し、御本尊に向かって御挨拶する。
 その姿をチラッと見たユタは、唱題の口を止めた。
「やあ、久しぶり」
「藤谷地区長!?」
 そこにいたのは藤谷春人の父親で、正証寺の仙台地区長を務める藤谷秋彦だった。
 (株)藤谷組の代表取締役社長でもある。
「どうしてここへ?」
「それはこっちのセリフだよ。まあ、私は母親の介護施設がこの近くにあってね、面会に行く途中なんだ」
「そうだったんですか……。僕はこの近くに親戚が住んでて……」
「ああ、そうだったのか。それはまた偶然だ。うちの春人が色々とやらかしてるみたいで悪いねぇ……」
「いえ、そんな。班長にはいつもお世話になっています」
「うちの家業を手伝ってくれるのはありがたいんだけど、罪障消滅と称して色んな事件に巻き込まれるのが辛いよ」
「は、はあ……。(半分は僕のせいかなぁ……?)」
「じゃ、唱題頑張って」
 藤谷が立ち上がろうとした時だった。
「あ、あの、地区長!」
「ん?」
「ちょっと相談が……」

[同日15:00.JR小鶴新田(こづるしんでん)駅 ユタ、威吹、カンジ、マリア、イリーナ]

「はい、到着〜」
「地区長、ありがとうございました!」
「いやいや、まさかこんな所で私の出番なんてね。ま、私ができるのはここまでだが」
「いいえ、十分過ぎます!本当にありがとうございます!」
 ユタ達は藤谷秋彦の車で、JR仙石線の駅まで乗せられてきた。
 ユタが歓喜しているのは、このことについてではない。
 ユタが善修寺で秋彦に相談を持ち掛けたのは、宿泊先の確保についてだった。
 以前、秋彦のツテで仙台市内のホテルを確保した記憶があったのだ。
 今から、といった感じで驚かれたが、藤谷は見事ホテルの部屋を確保してくれた。
 市街地や観光地のホテルは満員御礼だが、そのどちらにも属して無い所は、比較的空き部屋があるという。
 それを確保してくれた。
 しかも藤谷組の名前を使って、宿泊料金も若干安くなった。
「それじゃ、気を付けて行ってよ」
「はい、ありがとうございます!」
「春人が何かやらかしたら、思いっきり突っ込んでいいから」
「はい」
「この前なんて、フザけた体験発表書きやがったからさ」
「はは……」
 江蓮の学校に現れた幽霊騒ぎのこと。
 実話なのだが、実話過ぎて却って疑われる内容だった。
 いくら話しても秋彦に信用してもらえないと、春人が泣いていたのを思い出すユタだった。

〔まもなく2番線に、上り電車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください〕

「お、ちょうどこの駅始発がある。……てか、この電車?」
 ユタは時刻表を見ながら言った。
「凄い功徳だね、ユウタ君」
 後ろからイリーナが話し掛けた。
「あ、はい!信じられません!」
「この功徳で、マリアもよろしくね」
「えっ?」
「おい、電車来るぞ」
 威吹がユタ達に言った。
「おー」
 ユタは軽く手を挙げた。
 『仙台・あおば通』と、行き先表示にLEDで書かれた4両編成の電車がやってくる。
 見た目は首都圏で走っているような通勤電車だが、それもそのはず。
 元は山手線や埼京線で走行していた車両を寄せ集めて改造したものだ。
「ボタンを押して……」
 上野駅や東京駅始発の中距離電車で、期間限定で行われている半自動ドアも、東北では通年である。

〔「ご案内致します。この電車は15時7分発、普通電車のあおば通行きです。終点あおば通まで、各駅に止まります。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

「一時はどうなることかと思いましたけど、本当に助かりましたね」
「全くだね」

 電車は定刻通りに発車した。

 つくづく人の縁の大事さについて痛感したユタだった。 
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“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行」 2

2014-05-09 10:41:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月4日時刻不明 叫喚地獄の中央にある蓬莱山家 蓬莱山鬼之助&蓬莱山美鬼]

「それじゃ、雑誌ができましたらお送りしますので。また……」
「おう。ご苦労さん」
 異世界通信社の記者が、キノ達の屋敷をあとにした。
「何だ、賽の河原ってな、そんなに特殊な場所だったのか」
 キノは家に戻りながら両手を伸ばして、そう呟いた。
「そうよ。あんた、気ィつかなかったん?」
「いや、変わった場所だなぁとは思ってたけどよ……」
「そもそもが、あそこは元々地獄界では無かったっちゅう話もあるんよ?」
「賽の河原が地獄界じゃねぇ?」
「人間どもの話で、どこぞの菩薩が鬼族と対峙して、亡者を救うっちゅうのがある。菩薩界の一部だったあそこをウチらが分捕った……そういう話もある」
「てことは、姉ちゃんが生まれる前か。800年くらい前か?」
 ガシッ!(←美鬼がキノの胸倉を掴む)
「あ!?座敷牢がまた空いとるんな?」
「……すいません、計算ミスりました。ゴメンナサイ」
 何とか放してもらう。
「ところで最後に記者に話したアレ、本当に話して良かったんか?」
「ああ。どうせオレが知っていたところで、何の旨味も無ェし」
「何だか、胸騒ぎがするんよ」
「どうせ週刊誌の書くことだろ?STAP細胞並みのいいネタだよ」
「そうねぇ……」

[同日10:11.JR仙台駅 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、マリアンナ・ベルゼ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

〔「ご乗車ありがとうございました。終点仙台、終点仙台です。お忘れ物の無いよう、お降りください。この電車、仙台止まりです。盛岡、新青森方面へおいでのお客様は……」〕

「師匠、終点ですよ!」
「……うーん……あと5分……」
「やっぱりこうなったか……」
「利府の車両基地まで乗ってけ!カンジ、先に降りるぞ!」
「は、はあ……」
「何で威吹、利府の車両基地知ってるの?僕、そんな話したっけ?
「もうそろそろ、体の交換時期か?」
「……えっ!?」
 カンジのボソッとした呟きに、マリアが反応した。
「えっ、なに?」
 ユタが首を傾げた。
「何でもない」
「あー、もう着いたのね。やっぱ新幹線は速いねぇ……」
「早く降りましょうよ」
 下車駅が終点の列車に乗って良かったと心から思うユタだった。

[同日11:00.仙台市宮城野区某所 ユタの親戚の家……の田んぼ ユタ、威吹、カンジ、マリア、イリーナ]

「えー、東京からわざわざご苦労さんです。私はこの家の者で、ユウタの従兄の稲生忠夫(32歳)です。田植えの手伝いに来てくれて、本当に助かります」
「……ユタ、これは一体、どういうことだ?」
 威吹は不信顔で聞いた。
「しまった!仙台に住んでいた頃、よくゴールデンウィークはよく手伝いに来させられてたんだ!」
「ユウタもカルト宗教を辞めてくれたおかげで、素直になってくれたし……」
「そうだった!『顕正会や浅井先生に謗法する輩の田んぼなんか手伝えねぇ!』って、ダダこねたんだった!」
 熱心な顕正会員だったユタ。
 家族や親族に折伏という名の勧誘をして、大変な事態になったのだった。
 顕正会よりはマシという理由で宗門での信心は許してくれたが、誰1人入信する者はいない。
 そういった意味で、一家広布状態の栗原家や藤谷家を羨ましく思っている。
「……んで、楽しく田植えして、お米の楽しさを知ってください」
「…………」
「…………」
 目が点になっている魔道師2人。
 1番冷静なカンジが、小さく溜め息をついた。
「仕方ありませんね。さっさと終わらせて、昼飯でも食べましょう」
「そ、そうしようか」
 ユタはカンジの言葉にホッとした。

「うーん……」
 苗を持って、考え込むマリア。
「……ていっ!」
 思いっきり植え込む。
「よい……しょっと」
 そして、長靴を履いた足を前に進める。が、
「マリア、ちょいストップ」
「はい?」
 すぐ前にいたイリーナが止めた。
 しっかり麦わら帽子を被っている。
「せっかく植えた苗、ガチ踏みしてるんですけど……」
「あらま?」
「こういうのはねぇ、後ろに下がりながら苗を植えて行くの。……こうね」
「おー、さすが師匠。先人の知恵」
「……先人とか言うな」
 しかし、1000年生きている中での知識であることに違いは無い。
「威吹は田植えしたことあるの?」
「いや、無いなぁ……。ボクは一応、人間界では武士のフリをしていたから」
「オレは一応、社会科見学の一環でやったことがあります」
 カンジは微笑を浮かべた。
「なるほど。それで勝手を知ってるんだね」
「一応ですが……」
「なあ、1つ思ったんだが……」
 と、威吹。
「なに?」
「あいつらの魔法で、田植え一気に捗るんじゃないか?」
「あ……」
 少し離れた場所では魔道師2人が、
「そうそう。その調子、その調子。これも魔道師の修行の一環よ」
「はい」
 というやり取りを見て、
「何だか、フツーにやり続けるみたいだよ」
 ユタが言った。
「先生、オレも田植え続ければ修行になりますかね?」
「ああ……【お察しください】」
「でも、何だか変だぞ」
「何が?」
「確か、こっちの稲生さんって……」
「うん?」
「今年の年賀状で、『新しい機械買った』って書いてたよ?」
「は?」
 すると、
「ふんふーん♪」
 真新しい田植え機のハンドルを握る稲生忠夫の姿があった。
「いンや〜、こいづ買ってがら人の手と機械とどっちが効率いいか確かめてみたかったんだけンど、やっぱ機械だっちゃね〜。……あ、ユウタくーん!もう帰っていいよ〜!ご苦労さん!」
「…………」
 全員目が点になった。
「新しい機械って、田植え機のこと……だったか」
「早く気づこうよ」
「さっさと家に行って、昼飯ご馳走になりましょう」
 ユタは気を取り直してそう言った。
「そうするしか無いね」

「って、日帰り!?」
「あくまで、『田植え体験ツアー』だったみたいですねぇ……」
 ユタは出された煮物を口に運びながら答えた。
「せっかくだから、泊まり掛けで遊んで行きましょうよ」
 と、イリーナ。
「泊まり掛けったって、今からホテル取れるかなぁ……」
 ユタは考え込んだ。
「あ、そうだ。あの人に相談してみよう」

 ユタは食べ終わった後で、スマートフォンを出した。
「……あ、もしもし。藤谷班長ですか?稲生ですけど……」
{「おう、稲生君。どうした?折伏の対象者でも決まったかい?」}
「あいにくとそういう話じゃないんですけど、実は今、仙台に来てまして……」
{「なにっ?」}
「今日から泊まれるホテル無いかなぁ……なんて、探してるんですけど……。班長のお力で、何とかなりませんかね」
{「プッ。このゴールデンウィークにそんな都合のいいことが……おやあっ!?」}
「石ちゃんみたいな反応やめてください。あるんですね?」
{「無い!」}
 ズコーッ!
{「稲生くんのその信心じゃ、そんな都合のいい事態は発生しないな。やっぱり誓願を大きく突破する弘通を成してから、そういうことを言わなきゃ」}
 顕正会みたいなことを言う藤田だが、実はこれって正論である。
 顕正会の場合、血脈が無いのでトゲのあるように聞こえるのだ。
「うう……」
 なので、ユタも言い返せない。
「完……か」
 ユタがorzになるところだった。

 しかし……。
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