報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「東北の前に東京」

2014-05-06 17:15:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月3日 時刻不明 地獄界“賽の河原” 蓬莱山鬼之助]

 鬼之助はセンターの外で、自分の携帯電話を使っていた。
「お、おう。江蓮か?久しぶりだな。……あ、あの……その……あの時は悪かった!」
 人間界にいる方の江蓮である。
 思いっきり侘びたのは、先日、キノが江蓮を無理やり乱暴しようとした件についてである。
「だからその……盟約の件は……」
{「安心しなって。別に切ってないから」}
「おおっ!さすが江蓮!」
{「で、いつ戻ってこれんの?」}
「江蓮さえ良けりゃ、いつでも!」
{「よし。じゃ、あと100年そっちにいろ」}
「はーい……って、何でやねん!」
{「冗談だって。私はいつでもいいって」}
「あざざざざーっす!!」
{「あっ○ぁさんか、オマエは!」}
「ちょっと、調べ物をしたら戻る」
{「調べ物?」}
「オレも気になったら、とことん追及しないと気が済まねぇタチでよ。ほら、あのおもしろ魔道師コンビについては知ってるだろう?」
{「ああ、確か小柄なお姉さんの方が、稲生さんの好きな人だっけ?それがどうしたの?」}
「聞いて驚け。週刊誌の記者ならスッパ抜きたくなる内容だ。魔道師の大量殺人について」
{「ふーん……」}
「お前、驚けっつっただろ?」
{「アンタの過去の行いに比べりゃマシでしょうよ、それでも」}
「う……ま、まあ、とにかく、もうすぐ戻るから、首洗って待ってろ」
{「何でだよ!?」}
「間違えた。マ○コ洗って待ってろ」
{「あと300年そっちにいろっ!どアホ!!」プツッ!}

[同日16:30. 東京メトロ上野駅銀座線ホーム ユタ、威吹、カンジ、イリーナ]

〔まもなく1番線に、渋谷行きが到着致します。危ないですから、白線の内側までお下がりください。電車とホームの間に、広く空いている所があります。足元に、ご注意ください〕

「どこまで行くの?」
「赤坂見附です」
 イリーナの質問に、ユタはそう答えた。
「変わってるでしょう?多分両親のことだから、このまま成田空港へ行って深夜便に乗ると思います」
「確かに、変わってるかもね」
 電車がゆっくりと入線してきた。
 ゆっくりなのは、駅の前後がカーブしているからである。
 なので車体や車輪の軋み音がホームに響いた。
 それに混じってカツーンカツーンという音がするのは、第3軌条という壁側に貼られたレールにパンタグラフが当たるからである。

〔上野、上野です。日比谷線、JR線、京成線はお乗り換えです。1番線の電車は、渋谷行きです〕
〔「足元に十分ご注意ください」〕

 電車に乗り込む。
「イリーナさんだったら、瞬間移動の魔法で飛行機いらずでしょうね?」
「でも、かなり疲れるのよ?遠ければ遠いほど、『マジック・ポイント』も使うしね」
「マジックポイントなんてあるんですか!?」
「……の、ようなもの」
「何だ」
 電車が走り出した。

〔東京メトロ銀座線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は銀座、赤坂見附方面、渋谷行きです。次は上野広小路、上野広小路。乗り換えのご案内です。日比谷線、都営大江戸線、JR線はお乗り換えください〕

「だから、たまにこうして電車に乗ってしてるの。まあ、日本くらいならいいんだけど、大陸間移動は相当なMPを消費するのは間違い無いからね」
「そうなんですか」
「満月の夜が狙い目。妖怪も満月の夜が1番妖力が上がるのと同じように、私達のMPも満タンになるから」
「へえ……。RPGとはだいぶ違いますね」
「あれはゲームだからね。同じ魔法でもその時の体調や場所など、条件で左右されるのに、いつも全く同じ数字ってのは、ある意味優秀な魔法使いよ」
「はは、本職の人は言う事が違いますね」
 因みに、今のイリーナは魔道師の恰好をしていない。
 魔道師とは分からない、アラサー女性の普通の私服である。
 しかし、いつでも正体に戻れるようにはしているらしい。
「日本の地下鉄は平和だからいいけど、この前、ニューヨークの地下鉄に乗ったら、どこかのバカが銃を乱射しようとしたから、『自殺』に追い込んどいたけどね」
「お、お手柔らかに……」

[同日17:00.ホテルニューオータニ ユタ、威吹、カンジ、イリーナ]

「さすがユウタ君、富裕層ね。ご両親、このホテルに泊まってるの?」
「いや、泊まってるというか……。会社が近いので、中継地点にしてるだけです」
 因みにカンジだけラフの恰好というわけにもいかないので、師匠である威吹と同じ羽織袴の姿になっていた。
 第1形態の姿に戻ると、自動的にそうなる。

 ユタの両親と合流したのはいいが、やはりイリーナのことが引っ掛かったようだ。
 威吹はユタを“獲物”にするに辺り、小判を何束も積んで三つ指ついて挨拶したくらいだし、カンジのこともまあ、威吹から聞いている。
 部屋代と称して、札束を積んだというエピソードもある。
 だがそこは、齢1000年以上の大魔道師。
「私はユウタ君の彼女に勉強を教えている者で、彼女が急病で来られなくなったので、私が代理で参りました」
 と、嘘でもなければバカ正直でもない絶妙な内容の紹介をした。
 それでも、両親にとっては微妙だったらしく、それっぽい反応をされた。
「だから、お前は余計だったんだ」
 威吹はイリーナに文句を言った。
「まあ、とにかく、ちゃんとイリーナさんも席数に入れてあるそうですから、どうぞとうぞ」
 ユタが取り繕うように、エレベーターへ案内した。
コメント (1)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行……の前段階」

2014-05-06 10:09:09 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月のある時期 地獄界“賽の河原” 蓬莱山鬼之助]

(こりゃ、とんでも無い大ネタが転がり込んできたもんだ。もしオレが週刊誌の記者だったら、思いっきりスッパ抜いてやるところだな)
 キノは事務所センターの資料室で、ユタよりも先に真相に辿り着いていた。
(まあ、もっとも、オレがこれを知ったところで、オレには何の旨味も無いし、奴らに教える筋合いも無ェか……)
「おっ、ここにいたのか」
「ん?あっ、カントク」
 そこへ青鬼監督がやってきた。
「キミが希望していたある人物の面談が決定したよ」
「マジっスか?」
「数多の亡者の中から模範的な者、見所のある者を選抜して面談するというアイディア、本庁から好評みたいたぞ。さすがキミも、なかなかのアイディアマンだなー」
「はあ、どうも……。(いやオレ、テキトーに言っただけなんだけど……)」
 キノは苦笑を隠すのが精一杯だった。
「で、誰と面談させてくれるんスか?何人かチョイスしたと思うんスけど……」
「えーとね……。確か、アンジェラとか言ったな。そうそう。アンジェラ・ヒロタとかいう日系人だ」
「マジっスか」
「この人物が、何だと言うのかね?」
「いや、ちょっと気になることがありまして……。(分析した資料で、だいたい分かったけど)」

 キノは持っていた資料の内容を復習した。
(実年齢はもう20代前半ってところだが、ここでは歳を取らねぇから、死亡した18歳のままか……)
 キノは面談室のドアを開けた。
「…………」
 机の前に座っているのは、長い金髪に透き通るような白い肌を持っている女性。
 しかし、瞳の色はキノ達が妖力を開放した時のような赤色で、顔立ちは日本人に似ている所がある。
 まあまあ、美人な方だろう。
「あー、それじゃ面談を始める。オレはここの特別巡視班の班長で、蓬莱山鬼之助という。よろしく」
「アンジェラ・ヒロタです」
「お前のことは色々と資料で調べた。早速だが、聞きたいことがある。答えてくれ。……マリアンナ・ベルゼ・スカーレットって知ってるか?」
「!」
 その名前を聞いた時、アンジェラは俯いていた顔をパッと上げた。
「資料によれば当時、ミドルネームは無かったようだが。この者について、いくつか聞きたい」

[5月3日 10:00.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「うーん……。快適な家だわ。ここならマリアも、悪夢を見ずに済むのにねぇ……」
「おはようございます。イリーナさん」
 ユタは起きてきたイリーナに挨拶した。
「てか、今何時だと思ってんだ」
「まあまあ、威吹。イリーナさんはお客さんなんだから」
「そうよ。ちゃんと、宿泊代は払うからね」
「いえ、そんな、いいですよ!」
 ユタが慌てて手を振った。
「だーいじょーぶだって!ユウタ君が遠慮すると思って、あからさまに現ナマで払うわけじゃないから」
「えっ、どういうことですか?」
「ユウタ君、明日から旅行に行くんでしょう?」
「えっ、どうしてそれを!?」
「魔道師の異能の1つは、無意識に予知夢を見ることよ。ユウタ君もたまに予知夢を見ることがあるでしょう?生まれつき高い霊力も持ってるから、このまま埋もれさせるには惜しいと思ってるんだけどね」
 さりげなく魔道師になることへの勧誘をするイリーナだった。
「突然なんですよ。宮城に住む親戚からで、ゴールデンウィークに遊びに来ないかって。友達も大勢連れてきていいぞって」
「ユタの親戚って、何をしてるの?」
「ただの農家だよ。それにほら……」
 ユタは書留の封筒を持っていた。
「新幹線のキップも入ってた。自由席だけど」
「この時期に自由席はキツいわねぇ……。苦行だわ、きっと」
「末法の世の中に、苦行は不要なんですけどねぇ……」
「まあいいわ。いつ行くの?」
「えっ?明日ですけど……」
「そうじゃなくて、明日のどの列車に乗るの?」
「そうですねぇ……。なるべく早い方がいいのかな……。午前中辺りがいいかも……」
「OK。午前中ね」
「……って、イリーナさんも行く気ですか!?」
「友達、大勢連れてきていいんでしょ?じゃ、今回は私は『先生』としてではなく、皆の『友達』として行きましょうか」
「いつ、誰がオマエの先生になったんだ?」
 威吹が苦言を言った。
「少なくともオレにとっては、威吹先生はオレの先生です」
「……カンジ君、そこはマジメに答えなくていいんだよ」
 ユタは小さく溜め息をつきながら言った。そして、続けて言う。
「その前に、僕の両親が今日、都内で夕食をご馳走してくれるそうだから、皆で行きましょう」
「えっ、『親子水入らず』じゃないの?」
 威吹が目を丸くした。
「威吹達には僕の日常の世話をしてくれてるから、そのお礼もあるんだって。何か両親も、『友達連れてきていいぞ』なんて言ってたんだけど……」
「ユタの学友を呼べばいいじゃない?」
 と、威吹。
「それが、皆して旅行に行ったり、実家に帰省してたりして連絡が取れないんだ」
「マリアが今日来られれば、マリアを連れて行って、『ユウタ君の新しい彼女です』って紹介してあげられたのにねぇ……」
 イリーナは残念そうな顔をした。
「えっ?ええ、そうですね……」
 ユタはイリーナ発言に驚きながらも、一応同調した。
「もう既に資料は揃えておいたのに、本当残念だわ」
 イリーナは魔道師のローブの中から、まるで四次元ポケットのように釣書やら何やらマリアの個人情報満載の資料を取り出した。
「……テメェ、オレんとこのユタに何する気だ?」
「まるで見合いのセッティングですね……」
 カンジは資料の一部に目を通して、呆れたように言った。
 しかし、顔だけは相変わらずのポーカーフェイスのままだった。

[5月3日 時刻不明 地獄界“賽の河原” 蓬莱山鬼之助&アンジェラ・ヒロタ]

「……その話、本当なんだな?もし嘘だと分かったら、お前は無間地獄行きになるぜ?」
「嘘じゃない。本当よ」
「あの魔道師、とんでもねぇ……!」

 面談を終えたキノは、事務室に戻って来た。
「おお、鬼之助君、ご苦労さん」
 青鬼監督が話し掛けて来た。
「どうもっス」
「どうだった?あの亡者は見所がありそうかい?」
「それ以前の問題っスよ、カントク」
「何が?」
 キノは青鬼監督にアンジェラとの面談の内容を話した。
「ふむ……。そうなると、確かにそのマリアとかいう魔道師は魔道師にならなければ、本来ここに来るべき者だったか……」
「カントク。こうなったら、他の関係者とも面談したいくらいっス。マリアに悉く殺された亡者達の証言を」
「まあ、待ちなさい。確かに、人間界では歴史に残る大ニュースかもしれない。しかしここは地獄界だ。キミも叫喚地獄にいた時に見て来ただろう?戦災に遭って死んで、そこにやってきた亡者達を……」
「こっちではその情報が伝わってるからいいっスけど、魔道師がどうのなんてニュースはさっぱり来ないんスよ?ヘタすりゃ、地獄界を愚弄する行為っス」
「そこまで大げさではないと思うがね。とにかく、面談はあれだけにしておきなさい。あれだけでも、十分キミの知りたいことは分かっただろう?……今は魔道師となっている者に殺された、最後の人間だ」
「はあ……分かりました」
「こういうのは最初の人間より、より事情を知り得た最後の人間に聞くのがいい」
「監督……!」
 キノの驚いた顔に、青鬼監督はニヤリと笑った。

[同日15:25.さいたま市中央区 上落合8丁目バス停 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ]

「明日はマリアさん、来てくれるんですか?」
「さっきあのコに連絡したからね。ちゃんと来てくれるそうよ」
「でも、体の具合が悪いのに、何か申し訳ないなぁ……」
「だーいじょーぶだって。いざとなったら、私が魔術であのコを召喚するから」
「おおっ!召喚魔法ですか!?」
「まあ、そんなところね」
 そんなことを話していると、バスがやってきた。

〔「大宮駅西口行きです」〕

「私、Suica持ってないよ?」
「現金で乗ればいいだろう?」
「大丈夫です。僕が出しますから」
 バスに乗り込んだ。
 バスはユタ達を乗せると、すぐに発車した。

〔次は上小小学校、上小小学校。……〕

「ユウタ君、お昼のテレビ見た?」
「あっと……すいません、ゲームやってたんで、よくは……。何か面白いニュースでも?」
「終始、司会者の後ろの窓の外で、ラジオ体操をしているオジさんがいたの。あれは何気にいい感じだったわ」
「どうしてそこをツボとするかなぁ……」
 威吹は窓の外を見ながら、呟くように突っ込んだ。
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