報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「魔道師の策」

2014-05-20 19:41:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日19:03.JR鶯谷駅〜日暮里駅間の陸橋 エレーナ・マーロン]

 黒いブレザーに黒いスカートをはき、黒いニーハイを履いた高校生くらいの少女は陸橋に佇み、眼下を通過していく特急列車を冷たい目で見下ろしていた。
(他愛も無い)
 風に靡く黒い髪は、向かって左側をサイドテールにしている。
 サイドテールにしているシュシュだけはピンク色である。
 今通過していった特急“スワローあかぎ”5号には、図らずも師匠の為に働いてくれた2人の男女が乗っている。
 無論、本人達にはそのような自覚は無いだろう。
 あとは得た情報と材料を精査して、どこに駒を打つかだ。
(いや……。私もそんな駒の1つか……)
 それでも構わない。

 全ては、あのお方の為に動く。
 今、生かされているのは、あの方のおかげなのだから……。

[5月18日13:30.大石寺・奉安堂 稲生ユウタ&藤谷春人]

 この日、ユタは藤谷に誘われて添書登山に来ていた。
 御開扉の時間になり、御法主・日如上人猊下の御出仕に合わせ、御隠尊・日顕上人猊下以下僧侶(※)、そして参加の信徒達が唱題を開始する。

(※いや、第三者的なナレーションなんだから、本来の小説的には『早瀬管長の出仕に合わせ、阿部前管長以下僧侶』と書くのが望ましいのだろうが、【お察しください】)

 そこで異変が起きた。

 ブチッ!
「!?」
 ユタの数珠が突然切れたのだった。
「落ち着け」
 動揺するユタを隣に座る藤谷が抑え、代わりに自分の予備の数珠を渡す。
「これを使え」
「は、はい」
 ユタは藤谷から予備の数珠を借り受けるとそれを使って、何とか事なきを得た。

[同日14:15.同場所 ユタ&藤谷]

〔「……くれぐれも、走っての退場はなさらぬよう、お願い致します。それでは係の僧侶の誘導に従って……」〕

「びっくりしたなぁ……」
 ユタは借りた数珠を藤谷に返した。
「稲生君、これで数珠切らすの2度目だろう?大丈夫か?」
「何かの前触れではないかと、怖いです」
「六壺の勤行に出る前に、売店で新しい数珠を買おう。急げばまだ店も開いてる」
「は、はい!」
 奉安堂の外では、
「特盛、また切れたの!?」
 エリちゃんが、一緒にいる特盛くんに何か言っていた。
「うん。まただよぉ……」
 半泣きの特盛くん。
「おっ、数珠切らしたの、稲生君だけじゃないみたいだぞ?これで安心だな?なあ?」
 藤谷はホッとした様子でユタに言った。
「でも、そうなると余計に心配です。他にも数珠が切れた現象の人がいたりして」
(しまった!逆効果だったか!)
 ヤブヘビだと思った藤谷だったが、
「だいたい、アンタまた太って!だからよ!」
 エリちゃんの怒鳴り声は鳴り止まない。
 太ったことと、数珠が切れたのとどう関係があるのだろうか?
 別にユタは太ってはいないが……。
「パンツのゴムが切れたの、これで何度目よ!?恥ずかしいったらありゃしない!」
「そっちですか!」
 ズッコケた2人だった。
 何でも猊下が御祈念の最中、伏せ拝をした時に切れたらしい。

[同日14:30.大石寺売店(仲見世) ユタ、藤谷、威吹、カンジ]

「さすがにパンツまでは、売店で売ってねぇだろうなぁ……」
「コンビニまで行くしかないですね」
「なになに?何の話?」
 威吹がユタと藤谷の会話に入って来る。
「いや、何でもないよ」
「稲生君、せめて数珠は4つ買った方がいい」
「ええっ!?」
「御経本もついでにな」
「どうしてですか?いくら何でも、そんなに切れないと思いますが……」
「まず、普段使い用」
「はあ……」
「そして予備用、保管用、人にあげる用だ」
「アニヲタのアニメグッズみたいなこと言わないでくださいよ」
「そうか?オレなんか、人にあげる用も含めて10個くらい持ってるぞ」
「多過ぎですよ!」
「バカ。突然の折伏の機会に見舞われて、御受誡まで行けたらどうする?新願者が最初から数珠や御経本を持ってるわけないだろう?それが無かったせいで、折伏流れましたってんじゃ、泣くに泣けないぞ」
「いや、まあそりゃそうですけど……」
 威吹は木の枝で、開眼済みの数珠をツンツンとつついている。
「何やってるんだ、威吹?」
「いや、ボク達にとっては、放射性物質のようなものだから……」
「とにかく、2つでいいですよ。さすがにいきなり御受誡なんて、ムシが良過ぎます」
「そういう気合も必要だってことだよ」
「藤谷班長。数珠も値段が色々あるが、高い物ほど高僧が開眼した物なのか?他に御布施を要求してくるとか?」
 威吹が聞いて来た。
「この数百円の数珠は差し当たり修行僧がやったもので、こっちの1万円の奴は僧正クラスがやったものですかね……」
 カンジも右手を顎にやって見比べていた。
「違うっちゅーに」
 藤谷は仏教とはおよそ縁の無い妖狐2人にツッコミを入れた。

 買い物も終わり、六壺の勤行に参加したユタと藤谷。
 今度は数珠が切れることは無かった。

 新町駐車場に止まっている藤谷のベンツに乗り込む4人。
「途中で飯食ってから帰るか」
「ケンショー・レンジャーもいなくなって、行き帰りはスムーズでしたね」
「おう。だが、今度の支部登山で、また会いそうだぞ。ターミネーターの如く帰ってきそうだ」
 こうして、今回のユタの添書登山は終わった。

[同日21:30.埼玉県さいたま市 ユタの家 ユタ、威吹、カンジ、藤谷]

「はい、到着〜」
「ありがとうございました」
 ユタは藤谷に礼を言った。
「なぁに、作者と違って1人気ままな登山じゃなくて、やっぱり複数で登山するのがいいんだよ」
 と、藤谷は言った。
「じゃあな。明日からまた大学だろ?ムリせずすぐに休めよ」
「はい。班長も仕事ですよね?」
「まあ、俺は役員だから、そこは何とでもできるんだ」
「いいなぁ……」
「就職先に困ったらうちに来いよ。ダンプでもユンボでもクレーンでも、何でも乗せてやるぞ」
「ええ。その前に免許取らないと……」
 ユタは苦笑いした。

 藤谷と別れて家の中に入る。
 郵便受けの中から郵便物を出したカンジ。
「えーと……。これは稲生さん宛てですね。親展です」
「ふーん……」
 A4サイズの茶封筒だった。
「何だろう?」
 差出人を見ると、藤谷になっていた。
「藤谷班長が?何も言って無かったのに……」
 封筒には、『座談会記録在中』とあった。
「ああ、座談会か。確かにこの前の座談会、参加できなかったけど……」
「言い忘れてたんじゃないか。車の中では、いかに雪女の脅威について話してたもんな」
 威吹が笑って言った。
 どうせ、日蓮正宗の内部のことだろう。
 だから、オレ達には関係ない。
 2人の妖狐は、そんな顔をしていた。

 ユタは部屋に戻り、封筒の中を開けてみた。
 中に入っていたのはCD。
 恐らく座談会の模様を藤谷が録音して、それをCDに焼いてくれたものだろう。
 ユタは早速、それを掛けてみた。
「!?」
 ヘッドホンの中から聞こえて来たのは……。

〔「……だから江蓮、お前もユタには内緒にしてくれよ?週刊誌の記者に、魔道師マリアの情報を流したってことはよ」〕

 キノの声だった。
 他にも色々と聞こえてくる。

 ああ、何と言うことだ。
 週刊誌にマリアさんの過去をリークしたのはキノ……蓬莱山鬼之助……。
 マリアさんの消したい過去を暴いて垂れ流したのはキノ!
 マリアさんの古傷に塩を塗り込みやがったヤツはキノ!!

[同日22:00.ユタの家、リビング 威吹、カンジ]

「アルカディア・タイムズなる瓦版は、あまり購読していても意味が無いんじゃないか?あくまでこれは魔界の状況を伝えるものだろう?」
「まあ、これとて良い情報収集になるのです」
 その時、バンッとリビングのドアが思いっきり開けられた。
「ユタ!?」
「どうかしましたか?」
 ユタの顔は憤怒の表情に満ちていた。
「威吹、1つ聞きたいことがある」
「何だい?」
「威吹は僕の言う事、何でも聞いてくれるんだよね?」
「あ、ああ。もちろん。盟約だからね」
「オレも先生の御意向に従います」
「そうか。じゃあ、もしも僕が、『キノを殺してくれ』って言ったら、そうしてくれる?」
「まあ、盟約だからね。キノがどうかしたのかい?」
「まずはキノに会って確認したいんだ。キノの所へ連れて行ってくれっ……!」
「まあ、恐らくは栗原女史のお宅へ入り浸っているでしょうから、そこでしょうね」
 カンジは冷静に言った。
「頼むよ。絶対に……許さない……!」
「……!?」
 ユタの霊力が異常なほどに上がっている様子を、威吹は確認した。
「先生。恐らく今の稲生さんには、何を言っても無駄です。ここは従うべきかと」
 カンジが威吹にそっと耳打ちした。
「そうだな。何があったのかは分からんが……」
「稲生さん、取りあえずタクシー呼びますから」
 カンジの呼び掛けにも、ユタはあまり耳を貸していない様子だった。
コメント (4)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「魔道師の抗争」 2

2014-05-20 17:44:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日07:00.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

「おー!やっと熱が下がりましたねぇ!」
 ユタは歓喜の表情を浮かべた。
「ああ。色々迷惑かけた」
「いえいえ、そんなことは……」
「とにかく、着替えて帰るから」
「あっ、せめて朝食べてからにしては……」
「師匠が忙しくなったみたいなので、手伝いに行こうと思う」
「そういえばイリーナさん、来ませんね」
「魔道師には魔道師の忙しさがある。師匠なんか大変だと思うな」
「はあ、なるほど……。あ、じゃあ僕は先にダイニングに行きますから」
「ああ」

[同日07:05.ユタの家・ダイニング ユタ、威吹、カンジ]

「おはようございます。稲生さん」
「おはよう、ユタ」
 ユタがダイニングに行くと、既にそこに妖狐2人がいた。
「おはよう」
「何だかユタ、欧州では大変なことが起きたみたいだよ」
 と、威吹。
「東北のどこ?」
「いや、奥州じゃくて欧州ね」
「日本語は難しいね」
 威吹がテレビを指差すと、ヨーロッパのどこかの山で大規模な爆発と共に山火事が発生したとのことだった。
「ふーん……」
「あ……」
 その時、普通の私服ではなく、魔道師の服を着たマリアがテレビの画面を見て反応した。
「何だ?お前らがやったのか?」
 威吹がなじるように言った。
「いや、私は何もしていない」
「威吹、マリアさんは何もしていないぞ」
「ああ……。まあ、師匠ということにしておこう」
「師匠ということにしておいてくれ」
「認めるのかよ」
「何でイリーナさんが?」
 ユタが目を丸くしていると、マリアは椅子に座りながら答えた。
「世界には、私や師匠以外にも魔道師はいるということさ」
「やはりそうか」
 作った朝食をテーブルまで運んできたカンジが納得したように言った。
「知ってるのか?」
 マリアはカンジを見た。
「知ってるも何も、大体想像はつく。魔道師のミドルネームは、7つの大罪の悪魔の名前から取るんだろう?イリーナ師は嫉妬の悪魔、あなたは怠惰の悪魔だ。すると、他に5つあるわけだから、あと5人いると思った」
「まあ……そういうことだな」
「あの山火事、魔道師同士仲良くお茶会して出した火では絶対ないな?あ?」
 威吹が詰問するように聞いた。
「ああ、まあ……そうだな」
 さすがのマリアも、ばつが悪そうだった。
「師匠も、なるべくユウタ君達には迷惑が掛からないように尽力されている。理解してもらいたいと思うのは贅沢だろうが……」
「分かってるじゃないか。実際、栗原殿には迷惑掛けたんだからな」
「まあまあ、威吹。この辺で」
「ユタが上手く説得してくれたおかげで、キノがここに怒鳴り込んでくることは無くなったが、これとて間一髪だったぞ」
「まあ、そもそも栗原さんを狙った魔道師が悪いんだから、文句はむしろそっちに言うべきだと思うね」
 ユタはしたり顔で言った。そして、
「言えるものならって感じ?」
「いくらお前の師匠が尽力するとて、万が一ということもあるだろう?脅威になるヤツがいたら、そいつの詳細と対策法を教えてくれ」
「私もよくは知らない」
「は!?」
「本来なら免許皆伝を受けた魔道師は、他の魔道師と顔合わせをするのだが、私は特殊な事情があるので、師匠以外の魔道師と会ったことがない」
「となると、傾向と対策が練れないということになりますね」
 と、カンジがまるで受験勉強みたいなことを言う。
 さすが、里では成績優秀なエリートである。
「まあ、マリアさんはまだ魔道師になってから日が浅いからさ」
「情報が入ったら、教える」
 そう言って、マリアは紅茶を啜った。

[同日18:00.東京都区内某所 日蓮正宗 正証寺 稲生ユウタ&栗原江蓮]

「こんばんは」
「こんばんは!」
 夕方の勤行が終わり、最後に住職が本堂にいる信徒達に挨拶した。
 勤行の後で導師が参加者一同に挨拶するのは顕正会も同じだが、ルーツは宗門にあるようだ。
「栗原さん」
「なに?」
「新潟じゃ、大変だったでしょう?」
「ああ。何か急に力が抜けて寒気がしたんで、熱計ってみたら40度もあってビックリした。キノが飛んできたよ」
「そうだったんだ。何かね……」
 ユタはマリアが話した内容を江蓮に伝えた。
 本堂の外に出ながら、三門に向かって歩きながら話す。
「……というわけで、申し訳無かったって謝ってたよ」
「それでキノの奴、荒れてたんだ」
 江蓮は納得したようだった。
「荒れてたの?」
「親戚の家の裏手が山になってるんだけど、ムカついて何本も木を殴り倒したってよ」
「はは……。キノらしい」
「近所のお婆ちゃんが、『鬼が来た』と言って念仏唱えてた」
「うん。鬼が来たね。でも、念仏じゃキノには効かないな」
「法華経も効かねぇよ」
 三門の外で待っていたキノが腕組みをして言った。
「江蓮が無事だったからいいようなものの、偽者に気づかねぇなんて情けねぇ奴らだぜ」
「でも、それだけ向こうは巧みに化けてたんだよ?」
「んなもん知らねーよ」
「あ、そうだ。キノ」
「あ?」
「この前電話で、『本当にマリアさんが週刊誌にスッパ抜かれるとは思わなかった』ってどういうこと?」
「? オレ、そんなこと言ったか?」
「言ったよ」
「いや……?覚えてねぇな。まあ、深い意味で言ったんじゃねーと思うぜ」
「……??」
「キノ、早く帰ろうよ。お腹空いた」
 江蓮がキノを促した。
「おう、そうだな」
「稲生さん、私達は山手線で帰るから」
「ああ……」

[同日18:45.JR山手線車内 栗原江蓮&蓬莱山鬼之助]

「うん。ちゃんと稲生さんに上手く誤魔化したね」
「さすがにユタ達には言えねぇ……」
「『嘘をついたら、閻魔大王に舌を抜かれる』というのが迷信だったって分かったよ。キノだったら、100回以上は舌を抜かれるもんね」
「それだって、異世界通信のイエロー・ペーパーが流したデマだぜ?」
「かなり昔からの言い伝えだったと思うけど、その頃から異世界通信の新聞ってあったんだ」
「まあな。だから江蓮、お前もユタには内緒にしてくれよ?週刊誌の記者に、魔道師マリアの情報を流したってことはよ」
「稲生さんも、あれで怒らせると怖いからねぇ……。あんたなんか、S級の霊力が発動したら滅されるよ?」
「お、おう……」

〔「まもなく上野、上野です。お降りの際、お忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください」〕

 電車が上野駅のホームに滑り込んだ。
 そして、停車してドアが開く。
 上野駅はターミナル駅なので、乗降客が多い。
「!?」
 すると、いつの間に潜んでいたのだろう?
 空洞になっている座席の下から1匹の黒猫が飛び出すと、一目散に乗客をかき分けて、ホームに飛び降り、何処へと走り去って行った。
「猫!?」
「? 気が付かなかったな」
 キノは首を傾げた。
「ジ○リの『○をす○せば』みたい」
「何だそりゃ?それより、宇都宮線だか高崎線に乗り換えるんだろ?」
「そうそう」
「早く行こうぜ」
 キノは江蓮の手を取って、宇都宮線・高崎線ホームに向かった。
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