報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行の疑惑」

2014-05-16 21:47:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日23:00.ユタの家1F『妖狐の部屋』 威波莞爾&威吹邪甲]

「ふう……。さっぱりした」
 威吹は浴衣を着て、タオルを首に掛けていた。
 明らかに風呂上りである。
「ユタは風呂に入らないのかな?」
「マリア師の看病で、それどころではないようです」
 カンジはテーブルの上で、タブレットを操作していた。
 ブルーライト防止の眼鏡を掛けていると、完全にインテリジェンスな人間である。
「そういうオマエも風呂どころでは無さそうだが、何をしている?」
「少し気になったことがあったので、調べ物です。先生、お休みになられますか?」
「いや……」
 威吹は缶ビールの蓋を開けた。
「せめて、これを飲んでからだ」
「さようで」
「調べ物って何だ?」
「あの週刊誌の記事は、明らかにおかしいんです」
「面白おかしく表現していたが、事実をありのままに伝えているのだろう?何か不自然な点があるか?」
「あの記事だけ見れば、相当な大事件だったはずです。それを何故今になって、週刊魔境が報道したかが気になりました」
「ああいうのは、面白ければ何でもいいようなものなのだろう?深く考える必要は無いと思うが……。で、お前はどう推理してる?」
「あの魔道師達は、稲生さんにはもちろん、オレ達にも隠し通すつもりでいました。そして実際その自信があったのでしょう。しかしたかがゴシップ雑誌に、いとも簡単にスッパ抜かれてしまいました。誰かがリークしたとしか思えません」
「で、誰だ?」
「その前に、マリア師が人間だった頃に起こしたという事件を調べているところです。あれだけの事件ですから、さぞかし本国では大ニュースになったと思うのです」
「ふーむ……。確かにあの雑誌を見る限りでは、一人間の女が起こしたにしてはおぞましいものだと思う。栗原殿よりも年が下だった頃の話だからな」
「その通りです。……おかしいな。ネット上に出てこない」
「ええ。出てこないわよ」
「!」
 和室の障子の外から、イリーナの声がした。
「入っていいかしら?」
「勝手にしろ」
 スーッと障子が開いて、イリーナが入ってきた。
 イリーナもまた浴衣を着ていた。
「お前、あの店でわざわざそんなもの買ってたのか」
「まあね。これから暑くなるし、ちょうどいい買い物だったよ」
 イリーナはチューハイの缶を持っていた。それを開ける。
「弟子の所にいなくていいのか?」
「いいのいいの。もう薬は飲ませたし、あとはユウタ君に任せるわ」
「で、何の用ですか?マリア師の過去の事件が、ネットでヒットしない理由をご存知のようですが?」
「ええ。もうここまで来たらしょうがないから、あなた達には教えてあげる」
「ユタには教えないのか?」
 威吹の質問には答えず、イリーナは目を閉じた。
「これから話すことは、ユウタ君が知ったら、ユウタ君も不幸になるかもしれない。私から聞いた話をユウタ君に話すかどうかは、あなた達にお任せするわ」
「ちっ。責任逃れかよ」
「まあ、先生。では、教えてください。何故ですか?」
「まず、マリアが事件を起こしたハイスクールは今は存在しないから」
「存在しない?廃校になったということですか?」
「違うわ。まあ、あんな事件があったから、放っておいても廃校になったとは思うけど……。私が魔術を使って、最初から無かったことにしたから」
「なにっ!?」
「! そうか。あなたはクロック・ワーカー、『歴史を陰で操る者』……」
「人間達はそれで誤魔化せたけど、妖怪達には誤魔化せなかったみたいね」
「マリアが起こした事件そのものを、人間の歴史から消し去ったというわけか」
「大きな声で言えないでしょ?人間からしてみれば、『勝手に俺達の歴史を操るな』ってなるからね」
「で、マリアの身に何が起きた?恐らくあいつは人間だった頃、気弱で貧弱で病弱な女子(おなご)だったはずだ。如何に仲間を募ったとはいえ、最初にそれをすることなどできぬはずだ。もしそれだけの者であれば、最初から虐げられることなど無かっただろう」
「悪魔がね……取り憑いたのよ」
「はあ?」
 威吹は変な顔をした。
 しかしカンジは、ポーカーフェイスを崩さない。
「その悪魔とは?憤怒の悪魔、サタンですか?」
「いいえ。怠惰の悪魔、ベルフェゴールよ」
「怠惰?しかし怠惰の悪魔は却って、『必要なことすらしない』悪魔のはずですが……」
「違うわ。『自分の手は汚さず、他人を操って手を汚させる』こともする。こうすることで、自分は怠惰でいられるわけだからね」
「しかし、あの悪魔達は魔界の王城に封印されているということだが……」
 威吹は口を出した。
「私達くらいになると、その化身をいくらでも召喚して人間に取り憑かせることは可能よ」
「おい、お前、まさか……」
「それは私じゃない。か弱いマリアに悪魔を取り憑かせた魔女が別にいる」
「今はその悪魔は取り憑いていないのですね?」
「ええ。今はね。でもその後遺症がまだ残っているから、私も気をつけていたんだけど……」
「その魔女というのは誰だ?」
「……今は話せない」
「ふざけるな!」
 威吹はイリーナを睨みつけた。
「まだ、確信が無いからね。江戸時代に日本に来て、1人の妖狐の人生を狂わせた事は知ってるけど、その後の足取りが掴めなくてね」
「なに?どういうことだ?」
「とにかく、カンジ君が今していることは、無駄な努力だから」
「分かりました。ではもう1つ、確信的な質問をさせてもらいます」
「なに?」
「ずばり、あなたはあの記事を書いた記者に情報をリークした者に心当たりがあるのではないですか?」
「ええ。その通りよ」
「誰ですか?」
「カンジ君。あの週刊誌はある?」
「ええ。これです」
「あの記事のページを開いてみて」
「ハイ」
 カンジはマリアの特集記事のページを開いた。
「この写真……。仙台のアミューズメント施設で、マリアが人形を操って加害者3人を殺したヤツね」
「ハイ」
「この写真、何かに気付かない?」
「は?」
「あ?」
 2人の妖狐は首を傾げた。
 写真は建物側からマリアに向かって、今正にマリアが狂った笑みを浮かべている瞬間を撮影したものだった。
 その横には、マリアを制止するユタの姿があった。
「? 別に不自然さはありませんが?」
「そう。じゃあ、こっちの雑誌と見比べてくれない?」
 イリーナは人間界で普通に市販されている週刊誌を2冊取り出した。
 1冊目は、とある大物俳優が新人女優との不倫疑惑が特集されていて、今正にホテルから出てくる所をパパラッチに撮られていた。
「あと、これ」
 今度は有名作家が、違法賭博で摘発された建物から出てくるところを撮られていた。
「どう?何かおかしくない?」
「……! 角度だ!写真の角度がおかしい!」
 俳優の不倫と作家の違法賭博は、道路側から建物に向かって撮影されている。
 しかしマリアの場合、建物側……言ってしまえば、加害者達のすぐ傍からマリアの方に向かって撮影されていた。
「こんな写真の撮り方では、すぐに本人に見つかってしまいます」
 と、カンジ。
「待て、カンジ。どうせ写真は、普通のカメラで撮影したものではないだろう。隠しカメラとやらで、撮影したものではないか?」
「そうだね」
 最後には、ユタとタクシーでその場から立ち去る所まで撮影されていた。
「そして、威吹君。現場から離れればいいのに、どうして私が利府のイオンに行こうって言ったと思う?」
「む?」
「じゃあさ、利府のイオンで何か変わったことがあった?」
「そりゃあ、マリアが万引きと間違えられて連行されたところだ」
 威吹はニヤッと笑った。
「違うわね。もっと別に偶然が発生しなかった?」
 カンジがふと気づいた。
「まさか……!いや、しかし……」
「でも、そのまさかなのよ」
「何だ、カンジ?」
「仙台のアミューズメント施設とイオンで偶然会った人物……栗原江蓮女史です!」
「栗原殿だって!?」
 2人の妖狐は驚いた。
「よく考えれば、偶然過ぎますよ。2回も会うなんて……」
「いや、2回目はイリーナの確信だっただろうさ。利府の店を希望したのは、あんただったからな」
「恐らく、マリアの失態……万引き犯と間違えられて連行された所も撮影されたでしょうね」
「栗原殿がどうして?」
「明日、本人に聞いてみるしかないでしょうね」
 イリーナはいつの間にか、缶チューハイを飲み干していた。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「復讐の魔道師」

2014-05-16 00:10:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[異世界通信社、週刊魔境GW特別増刊号の記事より]

「チェック・メイト(復讐完了)」

 今から約10年前、某国のハイスクールに通う少女は、“復讐”を遂げる度にそう言い放った。
 その顔は正に快楽殺人者であり、彼女の毒牙に掛かったスクールメイトは実に32名にも及ぶ。

 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット、愛称マリア。
 世界を股に掛ける魔道師、クロック・ワーカーのイリーナ・レヴィア・ブリジッドの唯一の直弟子として現在、魔界から大注目の『人形使い。~人の形弄びし美女~』。
 彼女には人間だった頃、けして口外できない血塗られた歴史があった。
 ハイスクールでイジメを受けていた彼女は、『復讐』と称した血の惨劇を繰り広げるようになる。
 いかに彼女の手は血で汚れているのかと思うが、意外と彼女自身はそんなに直接手を下していない。
 謀略を張り巡らせ、直接イジメていた者はもちろん、それに加担する者、見て見ぬフリをする者、それぞれ分け隔てなく『復讐』した。

 ある者は凶悪事件に巻き込まされ、銃弾を何発も体に食らうように仕向けられた。
 ある者は自動車事故に巻き込まされ、やはり死亡した。
 ある者は毒劇物を服用され、悶絶死した。
 ある者は事故死させられた親友の死に耐えられず、後追い自殺に追い込まれた。

 これ全て、あろうことか全てマリアの謀略によるものである。
 彼女は言葉巧みに協力者を募り、自らの復讐という名の凶悪犯罪の片棒を担がせ、用済みになった者は『消した』。
 人間としてのマリアは自らの自殺未遂によって死んだも同然だが、今でも肉体的、精神的な後遺症を抱え、一生社会復帰の叶わない者も大勢いる。

 魔道師になっても、彼女の凶悪さは変わらない。
 写真は彼女の屋敷に迷い込んだ遭難者を魔術の実験に掛けるところである。
 邪悪な笑顔は師匠イリーナによって封印されているため、この画像からは想像できないが、それでもこれから人の命を奪うに当たって、薄笑いを浮かべているのが確認できる。

 そして、決定的瞬間を弊誌は捉えた。

 【中略。要は先日、仙台市内の複合施設でヤンキー3人を“狂った笑い”を浮かべて殺したことが写真付きでスッパ抜かれた】

 ……そして、多くの人間を不幸に追いやった邪悪な魔道師は、何食わぬ顔でまた人間界を歩き回る。
 何も知らぬ“対象者”の心を掴んで。

[5月5日21:00.さいたま市中央区 ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]

 バンッ!とユタは怒り心頭で、その週刊誌をリビングの床に叩き付けた。
「何だよ、これ!まるでマリアさんが一方的に悪いみたいじゃないか!!」
 しかし威吹はさらっと言い放った。
「だから、一方的に悪いんだろ?」
「何だと!」
 ユタは威吹を睨みつけた。
「『恋は盲目』と言うが、ユタ、いい加減に目を覚ませ。確かに悪意を感じる記事ではあるが、嘘を書いているわけではないだろう?」
 威吹はいたって冷静で、週刊誌を拾い上げた。
「内容が細かく書かれている上に、ここに詳しく32人の人間がどのようにしてやられたか、御丁寧にも表にして紹介している」
「そんなの関係無い!」
「ですが稲生さん、先生の仰る事も正論です。最後の“対象者”というのは、稲生さんのことでしょう。正直、この雑誌が出るまで、オレ達は知る由も無かった。つまり、彼女らは隠ぺいを企んでいた恐れがあります。となると、やはり信用の足りる者達ではないかと」
 カンジも諭すように言った。
 威吹も続けて言う。
「そりゃあ、ボクだって昔は人間の血肉を食らっていた。そして今、キミの血肉を狙っている。でもボクはその事実をちゃんとキミに話したし、盟約の内容は厳守している。もちろん、特約(※)もね」
 ※ユタとの盟約が満了するまでは、一切人間を襲ってはならないというユタが通常の盟約に追加したオプションのこと。
「しかし奴らは過去を隠ぺいしようとしたばかりか、それでキミに近づこうとしたじゃないか。そんな奴ら信用できるか?」
「…………」
「奴らはキミの霊力に目を付けて、仲間に引き込もうと画策して近づいたに違いない」
 威吹がそう言い放つと、
「とんだイチャモンね。何の証拠も無い当て推量でユウタ君を混乱させないでくれる?」
 奥からイリーナが気配も感じさせずやってきた。
「当て推量とは何だ!図星だろうが!」
 威吹は相変わらず悠然とした態度を取るイリーナを睨みつけた。
 イリーナは微笑を浮かべて、その睨みを受け流した。
「雑誌社には明日、正式に抗議するわ。確かにマリアがハイスクール時代、ヒドいイジメを受けていたのは事実。それに立ち向かうべく、色々と策を立てて対抗したのも事実だし、同じイジメられっ子達と団結してそのリーダーとなって立ち向かったのも事実よ」
「32人も殺したというのはどういうことだ?」
「よく読んで御覧なさい。32人のスクールメイトに復讐したとは書いてあるけど、32人全員殺したとまでは書いてないから」
「確かにそうですね……」
 と、カンジ。
「実際に何人、結果的に死んだのかはその表を見ていちいち数えないと分からないようになってるでしょ?」
「本当だ……」
 パッと見た感じ、10人も行っていないような気がした。
「いくら策略だからって、それにまんまと引っ掛かって、事故や事件で死ぬのも、それはそれで間抜けだと思わない?」
「し、しかしだな……!」
 威吹が言い返せないのは、謀略を得意とする妖狐ならイリーナの言いたいことがなまじ理解できてしまうからだ。
「ユウタ君も分かるでしょう?イジメの被害者の気持ち……」
「も、もちろんです!」
 ユタもまた中学生まではイジメの被害者だった。
 威吹の封印を解き、彼が代わりに『復讐』しなければ、手首を切って自殺していたかもしれない。
「マリアはあなたと違って、誰も助けてくれなかった。最初は本当に1人で立ち向かっていたのよ?」
「素晴らしいです」
 カンジは、
(この論戦、イリーナ師の方に分がありそうだ。先生ですら、負けが込んでいる……)
 そう思った。
(まあ、確かにマリア師が何故このような凶行に及んだかの背景が詳しく書いていない時点で、中立性は無きに等しい)
 更に思う。
(何故今になって、このようなゴシップを出した?……まさか、誰かリークしたのか?誰が?何故?何の為に?)
 魔道師達の存在をウザく感じている威吹なら、メリットがあるだろう。
 しかし威吹の反応を見る限り、リーク者ではないように見えた。
 異世界通信の新聞や雑誌に、そもそも興味が薄かったこともある。

「……それで、ユウタ君。お願いがあるんだけど……」
「何でしょう?」
 威吹を完全に沈黙させてしまったイリーナは、にこやかな顔でユタを見た。
「マリアの看病をお願いできないかしら?私、これから薬を作るのに部屋を出ないといけないから」
「は、はい!分かりました!」
「ちょっと待て!何故そうなる?」
 威吹が文句を言って来た。
「マリアもずっと、うわ言でユウタ君を呼んでるから」
「……マリア師は高熱にうなされているそうですな?」
 カンジが何か考えながら、イリーナに質問した。
「そうよ。もう40度もある」
「脳がオーバーヒートして、錯乱したりはしないだろうな?いや、暴走して攻撃魔法でも使われたら、稲生さんが危ない」
「そうだ!カンジ、よく気づいた!」
 しかしイリーナはいたってにこやかに答えた。
「それなら大丈夫。今、マリアの魔力は著しく低下してるわ。恐らく今、人形1体すら操れないかもしれない。この状態で例え万が一錯乱したとしても、たかがしれてるわね」
「なるほど……。僕、マリアさんの看病します」
 ユタは席を立った。
「ユタ、危ないと思ったら、すぐにボク達を呼ぶんだよ?」
「分かってるよ」
 ユタは先頭に立って、マリアが寝ている客間へと向かった。
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