報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「復讐の連鎖」

2014-05-24 19:21:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月26日19:00.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]

 夕食前にはキノの見舞いを終えて戻って来た威吹。
 3人は夕食を囲んだ後で、それぞれ寛ぎモードに入ろうとしていた。
「2人とも、ちょっといいかな?」
 そんな時、ユタは2人の妖狐を呼んだ。
「何だい?」
「キノの事件のことなんだけど……」
「ユタ、余計な首を突っ込まないようにしようって言ったじゃないか。まあ、キノへの見舞いは一応の付き合いってものでね、あんなヤツでも」
「そ、そうだよね。ゴメン」
「栗原殿が半強制的に蓬莱山家に逗留させられているのが気になるが、家全体で大事な“獲物”という認識はあるようだから、悪いようにはしないはずだ」
「うん……」
「先生、恐らく鬼之助も含めて、その事件の真相に1番近い所にいるのは稲生さんだと思われます。その話をされたいのでしょう」
「だから、やめておこうと言ってる。……分からないか?」
 威吹は声のトーンを落とした。
「じゃあ、少しだけその事件について話してみようか」
「うん。僕は……」
「あ、いや、ちょっと待って、ユタ。僕から話す。多分キミは、いきなり真相に近い話をしようってことだろう。それはちょっとマズいんだ」
「どうして?威吹は真相が分かったらマズいの?」
「いや、ボクははっきり言ってどうでもいい。しかし、マズい理由もある。それを話してみよう」
「うん」
「コーヒーでも入れましょうか」
「ああ、お願い」
「オレは茶でいい」
「分かりました」
「今現在、進行しているのはキノの身に起きた事件だ。それについては今のところ、ボク達はキノの頭が突然割られたくらいしか知らないことになってる。幸い、キノは栗原殿から抽出した物質を使って妙薬を作り、それで驚異的な回復をしている」
「栗原さんの何を抽出したの?」
「血液はまず採取しただろうね。ボクも詳しいことは知らないけど、あとは『男には無くて、女にしか無い成分』だという」
「?」
「まあ、今はその話をしてるわけじゃない。そもそも何で、キノの身にそんなことが起こったんだと思う?」
「え?」
「ボクやカンジ、想像したくないけどユタや栗原殿がやられてもいいはずだ。キノの話によれば、見えない第三者によって殴られた感じだったという。だから、例えばキノが突然頭が割れる奇病に罹ってそうなったわけではないようだ」
「うん……」
「ユタは帰りの電車の中で、自分がキノを呪ったからだと言ったね?」
「うん。言った」
「確かに特種な霊力を持つキミなら、そういった呪いを行使することは可能かもしれない」
「やっぱり!?」
「だけどキミの宗派では、それは御法度だという」
「そうなんだよ」
「宗派の教義に従った信仰をしているキミが、たまたま言葉のアヤによって、キノにそんな呪いを発動できるとは思えない。恐らく仏法とやらで、キミのその負の力は制限されているはず」
 事実、顕正会時代は無駄に霊力が右肩上がりになり、見えなくても良い幽霊が見えるようになって襲われやすくなったりもした。
 今現在は霊力も抑えられ、逆に弱まっているくらいだ。
「そこで、だ。どうしてキミは、キノにそんな呪いの言葉を吐いたんだい?」
「あいつが……イジメはされる方が悪いなんて言うから……」
「では、キミがキノに電話をした理由は?」
「えーと……」
 威吹は話をどんどん過去に遡らせて行った。

 そして話は、差出人が藤谷春人名義で届いたCDに辿り着く。
 その頃にはコーヒーやお茶も入っていた。
「藤谷班長は全く知らないと言ってた」
「そうだろうね。藤谷班長は名前を使われただけだ。ボク達は信仰関係だと思うだろう。その方がキミは警戒しないし、ボク達も無関心になるからね。それを本当の差出人は狙ったんだろう」
「本当の差出人って?」
「ここからが本題だ。キノの発言をどのようにして盗聴したか判明しない以上、不用意に真相を話さない方がいい。今の話は既に分かっていることだから、聞かれても問題は無いだろう」
「そっかぁ……。さすが妖狐」
「ボク達は隠密行動をすることもあるからね。ただ、それでもどのようにして盗聴したかまでは分からないな。唯一怪しいのは、山手線で座席の下から飛び出してきたという黒猫だが……」
「先生。黒猫は魔法使いの使い魔として有名です。魔法使い→魔女→魔道師……ではないですか?」
「魔道師か……。そういえばここ最近、イリーナの影が無くなったな」
「イリーナさんがそんなことするかい?」
「魔道師の考えてることは、宇宙のように計り知れないからね」
「でもイリーナさんもマリアさんも、黒猫と一緒にいる所なんて見たことないよ?」
「……別の魔道師の可能性がありますね。マリア師も、他に魔道師が存在していることを認めています」
「だとしたら、面倒なことになってるな。ただでさえ、あの2人の魔道師だけでいっぱいだってのに」
 威吹はわざとらしい溜め息をついた。
「でも、どうして他の魔道師がキノの盗聴なんか?」
「それは……何でだろう?」
「鬼族が別に魔道師と関わっているということでしょうか?」
「可能性はあるな」
「いや、それもおかしいよ」
 と、ユタ。
「もし鬼族がマリアさんやイリーナさん以外の魔道師と別個に関わっているとしたら、僕達は関係無いじゃないか。何で僕の所に盗聴したCDを送って来たんだ?」
「……魔道師という人種は、他人を巻き込むことも厭わないようですね。たまたま、稲生さんを巻き込んだだけかもしれません」
「ちょっと、マリアさんに電話して聞いてみよう。何か知ってるかも……」
「いや、待て」
 威吹はユタの手を掴んだ。
「電話の内容が聞かれる恐れがある」
「でも……」
「メールとかはどうですか?」
「マリアさんはケータイもパソコンも持ってないよ」
「お手上げか……」

 その頃、稲生家の庭に一匹の黒猫がいた。
(ちっ。さすがは妖狐……)
 盗聴を警戒して真相を話そうとしない家人達に苛立っていた。
{「エレーナ、エレーナ。聞こえる?」}
 エレーナという名の黒猫は猫ならではの跳躍力を駆使して、家の外に飛び出した。
「あ、はい。エレーナです。ポーリン先生」
 電柱の陰に行くと黒猫は、10代の少女の姿に戻った。
 右の耳にインカムを着けている。
{「ちょっとすぐ戻ってきてくれる?」}
「分かりました」
 エレーナは頷くと隠しておいたホウキを取り、それに跨って飛んだ。

[5月27日03:00.ユタの家・ユタの自室 ユタ]

 燃え盛る洋館風の屋敷。

 その周りには大柄な体躯の鬼達がいて、屋敷を取り囲んでいる。

 焼け落ちた屋敷から見つかったのは、マリアの亡骸とそれを取り囲むようにして焼け焦げた人形達……。

「復讐完了だ!」
 大きく勝ち誇った笑いを浮かべるのは、その鬼達を率いていた蓬莱山鬼之助……。

「……!!」
 そこで目が覚めたユタ。
「こ、これって……!?」
 ユタはトイレに行って用を足した後、水分補給をして部屋に戻った。
 そして布団を被り、自分のスマホを持ち込んで、マリアの屋敷に電話を掛けてみた。
 何度もコールしてやっと出たのは、
{「いつかは電話を掛けてくると思っていたけど、まさかこんなタイミングとはね」}
「イリーナさん。すいません、こんな時間に……」
{「いいのよ。マリアのことかしら?」}
「マリアさんがどうかしたんですか?」
{「ちょっとね、私の指導を無視した行動を取ったから、しばらく屋敷に謹慎してもらうことにしたから。ユウタ君と出会って、少しあのコの心境も変わったみたいだから、ちょっと外に出してみて……と思ったんだけど、私の判断ミスだったみたいね。結局、多くの人に迷惑掛けてしまったわね」}
「いや、あの、僕は……」
{「ああ、心配しないで。あくまでも謹慎だから。もう2度と屋敷から出さないというわけじゃないから。ただ、しばらく会えなくなるけど、ごめんね。せっかく気に入ってくれたのにね」}
「……それなら、今度の夏休みにでも僕の方から会いに行きます。それならいいですよね?」
{「んー……まあ、それならいいかな」}
「それと、もう1つ。気になる夢を見たので、イリーナさんに判断して頂きたいのですが……」
 ユタは先ほど見た夢の話をした。
{「……ヤバい。稲生君はその夢を見たのね?」}
「ヤバいって、やっぱり予知夢ですか!?マリアさん、死んじゃうんですか!?」
{「そんなことはさせないわ。多分、順番的に私が見た夢の方が先だと思う。私の夢の段階で阻止できれば、あなたの予知夢はキャンセルされるはずよ」}
「イリーナさんの夢って?僕は何をしたらいいんですか?」

 この後、ユタは一睡もできずに朝を迎え、大学には寝不足のまま向かったという。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「蓬莱山家を訪問」

2014-05-24 16:04:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月25日17:00.長野県内某所 マリアの屋敷 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット&イリーナ・ブリジッド・イリーナ]

「♪」
 魔術による“復讐”を終えたマリアは上機嫌で後片付けを終え、鼻歌混じりで屋敷の中に戻った。
 そこで待ち受けていたのは、腕組みをして険しい顔をする師匠イリーナの姿だった。
「!? し、ししょ……」
 マリアが驚いた顔をした直後、イリーナの平手打ちが飛んできた。
「あれほど悪用するなと言ったのに!とうとうやったわね!!」
「だ、だって……。あの鬼は絶対許せなかった……」
「言い訳無用!こっちに来なさい!」
 イリーナは弟子の腕を引っ張って、屋敷の奥へと連行した。

[5月26日13:00.叫喚地獄にある蓬莱山家 威吹邪甲]

「たのもー!たのもー!」
 威吹は左腰に妖刀を差し、右手には風呂敷包みを持って、蓬莱山家の門前にいた。
「たのもー!」
「何用だ!?」
「おう、鬼門か。ちょうど良い」
 対応したのは蓬莱山家の使用人で、過去に羽田空港や大石寺で遭遇した鬼門の左と右だった。
 名前の通り、本来は蓬莱山家の門衛を務める下級の鬼である。
 仁王門の仁王像みたいな出で立ちが彼らの正体。
 人間界ではSPよろしく、黒スーツに黒ハット、サングラスを掛けているが。
「お前は確か妖狐の威吹とか言ったな。何の用だ?」
 鬼門の右が威吹を見下ろして言った。
 人間界で、人間に化けても身長2メートルくらいある左右だが、地獄界では3メートルくらいの高さを持つ。
「キノが災難に遭遇したというので、顔見知りとして見舞いに来た。取り次ぎ願いたい」
「あいにくと、鬼之助様は面会謝絶だ。早々に引き取られい」
 左がそう答えた。
「ほお。やはりキノは瀕死の重傷でござるか。それでは栗原殿に御目通り願いたい。栗原殿は重症ではなかろう?」
「それもできぬ相談だ。栗原様に対する面会も許可されておらぬ」
「そうか。しかしここはキノの家であるため、ここでキノが療養する分には何の問題も無いが、栗原殿に関しては如何かな?」
「ここで法論するつもりはない」
「作者の見解と同じだ」
「……いや、別に仏法の話をするつもりはないが。某は栗原殿の希望も聞かず、ここに連れ込むは誘拐、監禁にならぬのかと疑問に思った由」
「何だと?」
「何を考えようが自由だが、栗原様は鬼之助様の“獲物”である。部外の妖狐は口出し無用」
「そうかな。少なくとも妖狐族においては、本人の希望無しに魔境に連れ込むことはしないのだが。まあ、取りあえず挨拶だけでもさせてくれ」
 鬼門の左右は門扉の左右を閉じた。
「ならぬ!早々に引き取れ!」
「この門、我らの許可無くして開けられると思うな!」
 鬼門の2人が妖力を解放した。
(ちっ。めんどくせェな。何で鬼族ってのは、こう面倒な性格の奴らが多いんだ?人間の方がよっぽど素直で楽だよ)
 威吹は不機嫌そうな顔で、頭をかいた。
 と!
「あれ?お客さん?」
「あうっ!?」
 外側からは開けられなくなった門扉も、内側からは簡単に開けられるようだ。
 中から出て来たのは、セーラー服調の服を着た少女の姿だった。
「どちらさま?」
「あ、某は……」
「魔鬼様!こやつを入れてはなりませぬ!」
「我等にも立場というものが……」
 鬼門の左右は半泣き状態になった。
「何言ってんの。妖狐のお客さんなんて、生まれて初めてだよ。何のご用ですか?」
「鬼之助殿の見舞いに参ったのだが……。某は仰せの通り、妖狐族の威吹邪甲と申す」
「威吹……?ああ!キノ兄ィが言ってた、『とんでも妖狐、師弟コンビ』の師匠の方ですね!?」
「は、はあ……。(あいつ、陰でそんなこと言ってたのか)」
「それならどうぞ!入ってください!」
「か、かたじけない」
「魔鬼様〜!」
「我等の立場が〜!」
「うるさい!キノ兄ィの知り合いならいいの!」
 涙目になる鬼門の左右の立場を完全スルーして、魔鬼は威吹を屋敷内に招き入れた。
「えーと、そなたは鬼之助とはどういう……?」
「あたしはキノ兄ィの妹で、蓬莱山魔鬼です!」
「妹!……なるほど。確かによく見れば、目元がよく似ておいでだ」

 広い屋敷を案内され、着いた部屋は……。
「キノ兄ィ、お客さんだよー!」
「魔鬼!頭痛ェんだから、でけェ声出すなって言っただろ!」
「……その自分がでけェ声出してるんだから世話無いな」
「イブキ!」
「見舞いに来てやったぞ。見舞いの品はこれでいいか?」
「わあ!人間の【グロテスクなので、カット致します】だぁ!」
「オレの妹をモノで釣るとは、さすが妖狐は狡猾だぜ」
 鬼之助はジト目で威吹を見た。
「性分でね。てか、見た目はかわいいのに、やはりそこは人喰い鬼だな」
「あれがいつか姉貴2号になるかと思うと末恐ろしいぜ」
「既にその片鱗を鬼門達の前で発揮していたが……」
「ああ、そうかい。おおかた鬼門達に排除される所を、たまたま妹が独断で許可したか」
「ま、そんなところだ。で、何があったんだ?」
 キノは頭に包帯を巻いていたが、頭全体をミイラのようにしているのではなく、ターバンのように上頭部に巻いているだけだった。
「知らねぇ。江蓮と話をしていたら、突然『見えない何か』にぶん殴られたんだ。見えなきゃどうしようも無ェぜ」
「見えない何かに殴られた、か……」
「あんなの初めてだ。多分、呪いか何かの類だとは思うが、鬼族のエリートのオレが何のなすすべも無くやられる一方ってどういうことだよ、と」
「カンジが言っていたが、例えば丑の刻参りなどで、熟練者ともなると頭に釘を打ち付けても効くらしいな?普通は藁人形の胸の部分に刺すけど……」
「いや、だったら気づくぜ。『見えない手』が迫って来るのが分かるんだ。だけど今回は全く分からなかったな」
 事件の状況を話していると、魔鬼がお茶と茶菓子を持ってきた。
「お茶どうぞ」
「おっ、かたじけない」
「魔鬼、こいつには紙コップに水入れたヤツと裏の池に転がってるタニシでいいんだぞ」
「何でだよ!」
「キツネってタニシ食うだろ?」
「食ってたまるか!……ああ、そうそう。お前の言動が気に入らなかったらしく、ユタが随分と荒れてたぞ?」
「そうか?オレは正論言っただけだがな。まあ、正論をガッと言われると逆ギレする奴もいるからな……」
「お前、人のこと言えんのか?」
「何がだ」
「まあいい」
「人間界での調査はどうなってる?」
「何が?」
「オレのこのケガだよ。どうしてこうなったのかの調査はしてねーのか?」
「するわけないだろう。全く原因も分からないのに……。お前こそ、心当たりは無いのか?」
「……無ェよ」
「すいません、通訳します。『心当たりがあり過ぎて、どれがどれだか分からない』だそうです」
 横で話を聞いていた魔鬼が右手を挙げて言った。
「魔鬼、余計なこと言ってねーであっち行ってろ!江蓮に人間界の話でも聞かせてもらえ!」
「おお、そうだった。栗原殿は無事か?」
「オレが『見えない力』にやられる瞬間を目の当たりにしていたからな、しばらくショックで放心状態だったが、何とか回復したようだ」
「それは良かった。早く家に帰さぬと、向こうで不審がられるぞ?」
「分かってるって」
「何だったら、ついでにオレが家まで送るが?」
「余計なことはしなくていい!」

 しばらくして……。
「結局、キノも分からずじまいか……」
 家の外まで送るのは魔鬼だった。
「魔鬼殿、その出で立ちは学校の制服か?」
「はい。ちょうど学校から帰った時、鬼門の2人が威吹さんに無礼な対応をしていたんで」
「なるほど。そういうことであったか」
「あたし、高校は人間界の所に行きたいんです!」
「そなたも人間界に憧れるクチか」
「はい!」
「まあ、面白い所ではあるがな。鬼之助が意外と元気で何よりであったな。……まあ、如何な妙薬を使ったのかは聞かないでおこう」
 鬼之助のケガの程度が意外なほど軽かった理由を、威吹は何となく見破っていた。
 江蓮も連れて行った理由も、それで辻褄が合うからだ。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「狂気の魔道師」 キノ・江蓮視点

2014-05-24 00:23:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月20日13:00.叫喚地獄にある蓬莱山家 蓬莱山鬼之助]

「だから何度も言ってんだろっ!あの雑誌記者はオレの知り合いで、たまたま聞かれたから答えただけだってな!」
 キノは自分の携帯電話で怒鳴り声を上げていた。
「まさか本当に記事にするとは思わなかったんだよっ!」
 電話の相手はユタだった。
{「分かったよ。じゃせめて、マリアさんに謝ってよ。僕も一緒に……」}
「バカ野郎!何でオレが謝んなきゃなんねーんだよっ!?そもそも事件を起こしたのは事実だし、身から出たサビってヤツだぜ?てめーこそ、勝手に復讐した奴らに謝罪しろってんだ」
{「マリアさんはあの当時、ヒドいイジメを受けてて……」}
「知らねーよ、そんなの。お前はあの女の肩を持ってるからそんなこと言うけどな、オレからハッキリ言わせてもらえば、イジメってのはされる方におおかた責任があるもんだぜ?要するに、自己防衛ってのがなってねーのよ。愛想は悪い、要領は悪い、気は小さい……お前も思い当たるフシあんだろ?……あれ?切りやがった、この野郎。気持ちにも余裕が無ェ。だからイジメられんだよ」
 キノはそううそぶいて、自分も電話を切った。
「兄ちゃん、電話終わった?終わったら、ちょっとここ教えて」
 妹の魔鬼がやってきて、宿題のテキストを持ってきた。
「お前、高等教育受けるつもりか?」
「うん。できたら人間界の高校に行きたい!」
 魔鬼は牙を覗かせて笑みを浮かべた。
「そこは大変だぜ?いや、勉強とかじゃなくてよ。昨日もまたどっかの高校生がイジメを苦に飛び込み自殺ってのがあったらしいぞ?」
「あたしは大丈夫だよ」
「まあ、どうしてもってんなら、自分が加害者になるこったな。もし被害者が自殺しちまっても、せいぜい『イジメの事実は確認出来ない』とか、『いや、自殺ではなく、フザけ合っていた中での事故死です』とか、しまいには『イジメはあったのかもしれないが、それが直接自殺の原因とは限らないと思う今日この頃です』とか言って庇ってくれるぜ?」
「そうなの。で、この問題なんだけど、公式当てはめても……」
「あー、そうそう!『ヒトの不幸は蜜の味』って言うだろ?みんな仲良くなんて、そもそも無理があんだよ。ユタ達も甘ェよな!『広宣流布してみんな幸せ』なんてよ。誰かが不幸になってくんきゃよ、自分の幸せってのは実感できねーもんだ!」
「……兄ちゃん、分かんないんだったら別にいいんよ?」
 魔鬼はため息をついた。

[同日同時刻 さいたま市中央区 ユタの家・2階ユタの部屋 稲生ユウタ]

「くっ!……くくく……くかっ……!キノのヤツ…!!」
 ユタは自分の電話を握りしめ、歯ぎしりしてわなわなと震えていた。
 明らかな、憤怒の打ち震えだった。

[同日同時刻 同場所・1階“妖狐の間” 威吹邪甲&威波莞爾]

 ドシン!……ズシン!……バン!……バンッ!バン!
「な、何だ!?」
 部屋で寛いでいた威吹。
 突然、天井から大きな物音が断続的に響いてきた。
 真上はユタの部屋である。
「何だか分かりませんが、今日は稲生さんの御機嫌が相当悪いようです」
 カンジもまた天井を見上げ、ほぼ無表情で答えた。
「『キノなんか死んじまえ!』と……言ってるみたいだな?」
 威吹は長く尖った耳を天井に向かって澄ました。
「あの週刊誌の記事について、相当お怒りのようですね」
「宥めに行きたいけど、何か怖いな」
「『触らぬ神に祟り無し』とはいいますが……」
 さすがの妖狐達も、行動を躊躇った。

[5月25日15:00.さいたま市大宮区 江蓮の家 栗原江蓮&蓬莱山鬼之助]

「……したらよー、あの後ユタのヤツが文句言いに来やがったからよ、代わりに投げ飛ばしてやったぜ。まあ、あんまりやると今度はイブキやカンジがしゃしゃって来やがって、メンドーなことになるから、それ以上はオレの大慈大悲でカンベンしてやったよ」
 キノが江蓮の自室で武勇伝?を語っていた。
「な?オレって優しいだろ?ちゃんとイジメの回避法なんかも教えてやったんだぜ?」
「……アンタって、結構ヤなヤツだね」
 江蓮は机の椅子に座りながら、ジト目でキノを見た。
「オレの?どこが?」
「いや、だからさ……。あそこはこの際ウソでもいいから、『悪かった』くらいの一言でも言った方が良かったと思うよ?」
「何でだよ?オレは悪くねーぞ?」
「いやいや、人間の感覚だと、やっぱ週刊誌にベラベラ喋ったアンタも悪い」
「あー?」
「あーじゃない。とにかく、稲生さんもあれで怒らせたら結構怖いんだから」
「そうかぁ?」
「怒りのスーパーサイ○人じゃないけど、稲生さんってSクラスの霊力を持つんでしょう?カ○ハ○波みたいなの撃ってきたら、あんたソッコー【お察しください】だよ?」
「ひゃはははは!面白ェ!栄光の仏法信徒様は、呪いがお好きですか?好きなだけブッ放してぉk!オレの類いまれなる優秀な妖力で……」
 その時、急にキノが床に突っ伏した。
「?」
 最初、江蓮はキノがフザけているのではないかと思った。
「な、何だ?急に頭が……!うっ!?」
 今度は鈍い音がしたと思うと、仰向けに倒れた。
「キノ!?どうしたの!?」
 次にまた鈍い音がした時、キノの前頭部から噴水のように血しぶきが上がった。
「!!!」
 その血しぶきが至近距離にいた江蓮の顔に掛かった。
「え……れん……。に……逃げ……」

 江蓮は叫び声を上げることもできなかった。

 今起きている現象について、何も把握できなかったからだ。

 ついにキノは頭からどくどくと血を出し、仰向けに倒れて動かなくなった。

 茫然としていると、キノのポケットの中からケータイの着信音がして、それで我に戻った。

 江蓮は何故かそこは無意識のうちに手を伸ばし、電話を取った。
{「あー、もしもし?ウチやけど……」}
 電話の相手は美鬼だった。
{「アンタ、また江蓮ちゃんとこにおるん?まあ、行くな言わんけどね、ようやっと復職のメドがついたき、今からよう自覚持って……」}
「お姉さん……」
 江蓮はやっと声を出すことができた。
{「ん!?鬼之助やないん?……あ、その声、江蓮ちゃんやったん?鬼之助はどないしたん?」}
「どうしよう……お姉さん……。……キノ……死んじゃった………」
{「はあ?!何があったん!?……ええわ!今からウチ、そっちに行くき、ちょい待っとるんよ!」}

[同日17:00.東武APライン電車内 ユタ、威吹、カンジ]

「もしかして……。僕があの時、『キノなんか死んじまえ』って言ったから、ああなったのかな……」
 夕日が差し込む車内。
 ユタはドアの前に立ち、夕日を見ながら呟いた。
「い、いや、まさか、そんなことは……」
 威吹は否定しようとしたができなかった。
 ユタの霊力であれば可能な話だと思ったからだ。
「しかし、世の中には言霊というものがあります。稲生さんの宗派では、言霊についてどのような見解ですか?」
 カンジがポーカーフェイスの状態で質問した。
「どうなんだろう?でも、呪いを祈念しちゃいけないんだ。勤行での祈念ではないけど、いくら相手が鬼でも、相手を呪っちゃダメなんだ……」
「ユタ……」
 ユタは後悔するような口調で、自分に言い聞かせるような口調だった。
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