[5月29日15:13.JR大崎駅 稲生ユウタ]
「今度の新月の時が1番魔力が落ちる時なんだけど、それが却ってチャンスだわ。特殊な魔術を使うから、ユウタ君は何もしなくていいからね」
先日、イリーナはユタにそう言った。
調べてみると、今度の新月は今日であるようだ。
魔道師の魔力が低下する代わり、妖怪達の妖力も低下する。
威吹達も第2形態、つまり本当の妖狐としての正体をさらけ出すことができなくなる。
(一体、何をしたんだろう?)
ユタは不安に思いながら、帰りの埼京線快速電車に乗り込んだ。
[同日03:40.長野県某所にあるマリアの屋敷の裏庭 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]
「師匠だってヒトのこと言えないじゃないですか!これから師匠が使うのは、禁忌の魔法ですよ!?」
マリアはミク人形を抱えながら師匠のイリーナに文句を言った。
「しょうがないじゃないのよ。できれば私だって使いたくないよ。でも私の予知夢の段階で阻止しないと、あなたが死ぬことになるのよ?魔道師は寿命無制限ではあるけれど、殺されれば死ぬからね。特にあなたは私と違って、普通に殺されただけじゃ死なない修行まで終えたわけじゃないんだから」
「……師匠、もしかして私が言い付けを破った魔術を使ったのに、破門にしなかったのって……?」
「何か夢で、私がこの魔術を使う様子を見たからさ、もしかしてと思って……たら、これも予知夢だったのね。とにかく、あなたも手伝って」
「魔法陣は347ページのヤツでしたっけ?」
マリアは魔道書を開いてイリーナに質問した。
「そう」
マリアは急いで魔法陣を描く。
「これでいいんですか?」
「そうよ」
2人の魔道師は魔法陣の前に立つと、魔法の杖を振りかざした。
青白く光る魔法陣。
「あなたも“気”を送って」
「はい」
マリアも自分の杖を魔法陣に向けた。
「ウヨキ・ゲ・ンレ・ウホ・ウヨミ・ンナ!」
イリーナが呪文を大声で唱えると、魔法陣の光と風が強くなった。
その光と風は空高く舞い上がり、月の無い夜空へと吸い込まれていった。
「ううっ……」
魔法陣の光と風が収まると、マリアはよろけた。
「大丈夫?」
「へ、平気です。上手く行ったでしょうか……?」
「分からないわ。せめて、今月末か月跨ぎくらいにならないと……」
「そうなんですか」
「まあ、とにかく上出来よ。ご褒美に謹慎中であっても、ユウタ君と会うのだけは許してあげる」
「そ、それって……」
「夏休みにここに遊びに来るってよ」
[同日16:15.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]
「ただいまァ」
「お帰り。今日は早かったね?」
威吹が出迎えた。
「最後の講義が休講になったんだ。それでね。久しぶりに、りんかい線の70-000系(ななまんけい)に乗れた」
「それはそれは。カンジがすぐに飯にするみたいだから、部屋で休んでたら?」
「そうする」
ユタは頷いて、自分の部屋に向かった。
部屋に入ると、待ち構えていたかのようにユタの携帯電話が鳴る。
「はい、もしもし?」
{「あっ、ユウタ君?私」}
「イリーナさん」
{「例の魔術なんだけどね、取りあえず終わったから」}
「終わったというと、それは成功したということですか?」
{「まだ確信は無いの」}
「何ですか、それは?」
{「禁忌の魔法よ。差し当たり最終的な成果は、週末に出ると思う」}
「……ということは、最低でも週末まではマリアさんも無事だということですね?」
{「ごめん。それも分からない」}
「ええっ?!」
{「でも、手段としてはあれしか無かったの。だから成果が分かる週末までは、何としてでも回避しなければならないわね」}
「僕は何をすればいいんですか?」
{「あなたの夢は蓬莱山鬼之助率いる鬼族に、マリアの屋敷が放火されて、マリアが焼き殺される夢だったね?」}
「そうです。最後に『復讐完了』って言ってました。キノがマリアさんを復讐目的で殺すということは、つまりキノの頭が割れたのは……」
{「鬼之助に、このことがばれないようにしないとね」}
「はい」
その後、色々な話をした。
マリアも秘密の魔術を発動する手伝いをしてくれたこと、謹慎処分に従って邸内でおとなしくしていること、ユタに心配を掛けたことを気にしていることなど……。
マリアと共同で発動した魔術の内容は秘密だが、クロック・ワーカーたるイリーナが主体で行ったものなので、時空を超えて予知夢の内容を回避させる力があるという。
無論それについてはユタも、ちんぷんかんぷんだった。
現在・過去・未来に、何か影響を及ぼすものらしいが……。
[5月25日17:00.東京メトロ有楽町線、銀座一丁目駅 PN雲羽百三(作者)]
上下2層構造の単式ホームで電車を待つ作者。
そこへ電話が掛かってくる。
「あ、はい、もしもし。HNユタ、PN雲羽百三でござい。……おんや、多摩先生、お久しぶり。ああ、今電話大丈夫っスよ。……お陰様で、大した功徳は無いけど、腐れ縁で信心しております」
{「そうか。オレは絶対、日蓮正宗なんぞ行かないからな」}
「ちぇっ、対象者1人オケラになったなぁ……。あっつぁブログの誰かに責任取ってもらいましょうか?誰も取らないと思うけど」
{「そんなんどうだっていいんだよ。……それより、随分と調子良さそうじゃないか。お前が手掛けている、例の作品は……」}
「ええ。おかげさまで」
{「別のロボットの方が休止状態なのが気になるが……」}
「キリのいい所で終了させた方が良かったですかね。一応、まだネタはあるんですが」
{「そこはお前に任せる。それより“妖狐”シリーズの方だが、MD系統で行くんだろ?」}
「そのことなんですが、ちょっと相談が……」
〔まもなく1番線に、各駅停車、新木場行きが10両編成で参ります。乗車位置でお待ちください。……〕
「あっ、いっけね!もう電車来ちゃうんで!」
{「まあ、今週末、俺、上京するから。そん時話そう」}
「えっ、今週末っスか!?」
{「ああ。ちょっと用事があって。それまでに、ちゃんとストーリー進めておけよ」}
「わ、分かりました。それじゃ、また」
作者は急いで電話を切り、
〔銀座一丁目、銀座一丁目です。1番線の電車は、各駅停車、新木場行きです〕
「よっと」
西武6000系の先頭車に乗り込んだ。
[5月29日18:00.ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]
「イリーナ師が何か魔術を?」
「うん。そうみたい。今週末に結果が出るってさ。それまで何とか頑張ろうね」
「頑張るも何も、ユタ」
威吹が変な顔をして言った。
「何だい?」
「イリーナが何の夢を見たかもわからないのに、ただ闇雲に頑張れと言われても困るよ」
「う……」
「確かに。どういう夢を見たかくらい教えてもらわないことには、オレ達も何もできませんね」
と、カンジ。
「もっとも、それが目的なのかもしれませんが。何もするな、と……」
「う、うん。まあ、そうなるのかな……」
ユタは頭をかいた。
因みにユタが見た予知夢のようなものについては、威吹達も聞いている。
だから本人に確認はしていないものの、ほぼ10割に近い確率でキノの頭を割ったのはマリアである、という確信に近いものは妖狐達も持ったようだ。
ユタの予知夢のようなものの内容も、それだと辻褄が合うからだ。
「とにかく、キノには絶対にバレないように……」
「バレるも何も、ヤツはしばらく家で療養中だから、ユタの夢の中のような行動は取れないと思うな。要はあと数日持たせればいいんだろ?栗原殿も未だに蓬莱山家に逗留状態だというし、彼女を放っておいて自分だけ人間界に行くとも思えないからな」
「まあね……」
と、その時、
「曲者!」
威吹はいきなり銀髪の中に隠した棒手裏剣(投げナイフのようなもの)を出して、外に向かって投げた。
「どうしたの!?」
「どうやら、今の話を聞かれてしまったようです」
「何だって!?」
カンジは外に出て、投げた手裏剣を回収した。
その先には血がついていた。
「妖怪の血の臭いではないな……」
[同日18:30.ユタの家の近くの公園 エレーナ・マーロン]
「くっ……くそっ……!」
エレーナは腹からの出血を押さえるべく、止血をした。
(新月の日で猫に化けられないから、人間の姿のままで来たのが失敗だったか……)
ズキズキと痛む腹を押さえる。
幸い棒手裏剣に、何か毒が塗ってあるとかはないようだ。
ゴスロリにも似た服装をしているため、黒い服の部分にはなかなか出血しているとは分からない。
(で、でも……ミッションは上手く行ったわ……)
エレーナはニヤッと笑った。
「今度の新月の時が1番魔力が落ちる時なんだけど、それが却ってチャンスだわ。特殊な魔術を使うから、ユウタ君は何もしなくていいからね」
先日、イリーナはユタにそう言った。
調べてみると、今度の新月は今日であるようだ。
魔道師の魔力が低下する代わり、妖怪達の妖力も低下する。
威吹達も第2形態、つまり本当の妖狐としての正体をさらけ出すことができなくなる。
(一体、何をしたんだろう?)
ユタは不安に思いながら、帰りの埼京線快速電車に乗り込んだ。
[同日03:40.長野県某所にあるマリアの屋敷の裏庭 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]
「師匠だってヒトのこと言えないじゃないですか!これから師匠が使うのは、禁忌の魔法ですよ!?」
マリアはミク人形を抱えながら師匠のイリーナに文句を言った。
「しょうがないじゃないのよ。できれば私だって使いたくないよ。でも私の予知夢の段階で阻止しないと、あなたが死ぬことになるのよ?魔道師は寿命無制限ではあるけれど、殺されれば死ぬからね。特にあなたは私と違って、普通に殺されただけじゃ死なない修行まで終えたわけじゃないんだから」
「……師匠、もしかして私が言い付けを破った魔術を使ったのに、破門にしなかったのって……?」
「何か夢で、私がこの魔術を使う様子を見たからさ、もしかしてと思って……たら、これも予知夢だったのね。とにかく、あなたも手伝って」
「魔法陣は347ページのヤツでしたっけ?」
マリアは魔道書を開いてイリーナに質問した。
「そう」
マリアは急いで魔法陣を描く。
「これでいいんですか?」
「そうよ」
2人の魔道師は魔法陣の前に立つと、魔法の杖を振りかざした。
青白く光る魔法陣。
「あなたも“気”を送って」
「はい」
マリアも自分の杖を魔法陣に向けた。
「ウヨキ・ゲ・ンレ・ウホ・ウヨミ・ンナ!」
イリーナが呪文を大声で唱えると、魔法陣の光と風が強くなった。
その光と風は空高く舞い上がり、月の無い夜空へと吸い込まれていった。
「ううっ……」
魔法陣の光と風が収まると、マリアはよろけた。
「大丈夫?」
「へ、平気です。上手く行ったでしょうか……?」
「分からないわ。せめて、今月末か月跨ぎくらいにならないと……」
「そうなんですか」
「まあ、とにかく上出来よ。ご褒美に謹慎中であっても、ユウタ君と会うのだけは許してあげる」
「そ、それって……」
「夏休みにここに遊びに来るってよ」
[同日16:15.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]
「ただいまァ」
「お帰り。今日は早かったね?」
威吹が出迎えた。
「最後の講義が休講になったんだ。それでね。久しぶりに、りんかい線の70-000系(ななまんけい)に乗れた」
「それはそれは。カンジがすぐに飯にするみたいだから、部屋で休んでたら?」
「そうする」
ユタは頷いて、自分の部屋に向かった。
部屋に入ると、待ち構えていたかのようにユタの携帯電話が鳴る。
「はい、もしもし?」
{「あっ、ユウタ君?私」}
「イリーナさん」
{「例の魔術なんだけどね、取りあえず終わったから」}
「終わったというと、それは成功したということですか?」
{「まだ確信は無いの」}
「何ですか、それは?」
{「禁忌の魔法よ。差し当たり最終的な成果は、週末に出ると思う」}
「……ということは、最低でも週末まではマリアさんも無事だということですね?」
{「ごめん。それも分からない」}
「ええっ?!」
{「でも、手段としてはあれしか無かったの。だから成果が分かる週末までは、何としてでも回避しなければならないわね」}
「僕は何をすればいいんですか?」
{「あなたの夢は蓬莱山鬼之助率いる鬼族に、マリアの屋敷が放火されて、マリアが焼き殺される夢だったね?」}
「そうです。最後に『復讐完了』って言ってました。キノがマリアさんを復讐目的で殺すということは、つまりキノの頭が割れたのは……」
{「鬼之助に、このことがばれないようにしないとね」}
「はい」
その後、色々な話をした。
マリアも秘密の魔術を発動する手伝いをしてくれたこと、謹慎処分に従って邸内でおとなしくしていること、ユタに心配を掛けたことを気にしていることなど……。
マリアと共同で発動した魔術の内容は秘密だが、クロック・ワーカーたるイリーナが主体で行ったものなので、時空を超えて予知夢の内容を回避させる力があるという。
無論それについてはユタも、ちんぷんかんぷんだった。
現在・過去・未来に、何か影響を及ぼすものらしいが……。
[5月25日17:00.東京メトロ有楽町線、銀座一丁目駅 PN雲羽百三(作者)]
上下2層構造の単式ホームで電車を待つ作者。
そこへ電話が掛かってくる。
「あ、はい、もしもし。HNユタ、PN雲羽百三でござい。……おんや、多摩先生、お久しぶり。ああ、今電話大丈夫っスよ。……お陰様で、大した功徳は無いけど、腐れ縁で信心しております」
{「そうか。オレは絶対、日蓮正宗なんぞ行かないからな」}
「ちぇっ、対象者1人オケラになったなぁ……。あっつぁブログの誰かに責任取ってもらいましょうか?誰も取らないと思うけど」
{「そんなんどうだっていいんだよ。……それより、随分と調子良さそうじゃないか。お前が手掛けている、例の作品は……」}
「ええ。おかげさまで」
{「別のロボットの方が休止状態なのが気になるが……」}
「キリのいい所で終了させた方が良かったですかね。一応、まだネタはあるんですが」
{「そこはお前に任せる。それより“妖狐”シリーズの方だが、MD系統で行くんだろ?」}
「そのことなんですが、ちょっと相談が……」
〔まもなく1番線に、各駅停車、新木場行きが10両編成で参ります。乗車位置でお待ちください。……〕
「あっ、いっけね!もう電車来ちゃうんで!」
{「まあ、今週末、俺、上京するから。そん時話そう」}
「えっ、今週末っスか!?」
{「ああ。ちょっと用事があって。それまでに、ちゃんとストーリー進めておけよ」}
「わ、分かりました。それじゃ、また」
作者は急いで電話を切り、
〔銀座一丁目、銀座一丁目です。1番線の電車は、各駅停車、新木場行きです〕
「よっと」
西武6000系の先頭車に乗り込んだ。
[5月29日18:00.ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]
「イリーナ師が何か魔術を?」
「うん。そうみたい。今週末に結果が出るってさ。それまで何とか頑張ろうね」
「頑張るも何も、ユタ」
威吹が変な顔をして言った。
「何だい?」
「イリーナが何の夢を見たかもわからないのに、ただ闇雲に頑張れと言われても困るよ」
「う……」
「確かに。どういう夢を見たかくらい教えてもらわないことには、オレ達も何もできませんね」
と、カンジ。
「もっとも、それが目的なのかもしれませんが。何もするな、と……」
「う、うん。まあ、そうなるのかな……」
ユタは頭をかいた。
因みにユタが見た予知夢のようなものについては、威吹達も聞いている。
だから本人に確認はしていないものの、ほぼ10割に近い確率でキノの頭を割ったのはマリアである、という確信に近いものは妖狐達も持ったようだ。
ユタの予知夢のようなものの内容も、それだと辻褄が合うからだ。
「とにかく、キノには絶対にバレないように……」
「バレるも何も、ヤツはしばらく家で療養中だから、ユタの夢の中のような行動は取れないと思うな。要はあと数日持たせればいいんだろ?栗原殿も未だに蓬莱山家に逗留状態だというし、彼女を放っておいて自分だけ人間界に行くとも思えないからな」
「まあね……」
と、その時、
「曲者!」
威吹はいきなり銀髪の中に隠した棒手裏剣(投げナイフのようなもの)を出して、外に向かって投げた。
「どうしたの!?」
「どうやら、今の話を聞かれてしまったようです」
「何だって!?」
カンジは外に出て、投げた手裏剣を回収した。
その先には血がついていた。
「妖怪の血の臭いではないな……」
[同日18:30.ユタの家の近くの公園 エレーナ・マーロン]
「くっ……くそっ……!」
エレーナは腹からの出血を押さえるべく、止血をした。
(新月の日で猫に化けられないから、人間の姿のままで来たのが失敗だったか……)
ズキズキと痛む腹を押さえる。
幸い棒手裏剣に、何か毒が塗ってあるとかはないようだ。
ゴスロリにも似た服装をしているため、黒い服の部分にはなかなか出血しているとは分からない。
(で、でも……ミッションは上手く行ったわ……)
エレーナはニヤッと笑った。