[5月3日 22:20.ホテルニューオータニ→JR東京駅 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
ユタ達は夕食後もすぐには帰らず、ホテル内に滞在していた。
忙しい両親が今回の夕食会に参加したメンバー全員(息子も含む)、1人ずつ話を聞いたというのもあるし、
「イリーナさん、取りあえず帰って、明日に備えようかと思うんですけど……」
「ちょっと待っててね」
イリーナがリラクゼーションルームを利用していたというのもあった。
「夜も遅いので、今日はタクシーで帰りなさい。父さんも母さんも、これから成田空港へ行くからね」
「やっぱり……」
ユタの予想、大当たり。
「それでは威吹君、よろしく頼むよ?」
「任せてください」
「カンジ君はどんなこと聞かれた?」
ユタ達はロビーに座って、イリーナ待ち。
「オレが稲生さんの家にお世話になる経緯を、オレの口から詳しくということでした」
「ちゃんと説明できたかい?」
「ええ。一応は」
相変わらずポーカーフェイスを崩さないカンジ。
「お待たせー」
そこへイリーナが笑顔で戻って来た。
「遅いぞ」
威吹があからかさまに、銀色の眉毛を潜めた。
「まあまあ。今から銀座線に乗れば、上野発の宇都宮線最終に……あれ?」
「稲生さん、もしかして、ここからタクシーでそのまま家に帰れという意味では?」
カンジがそう言った。
ユタが父親からもらった現金は、20000円ほど入っていた。
「ええーっ!?まだ電車あるのに……」
「じゃ、僕達はお先に……」
「ああ。気をつけて行けよ」
後から向かう両親と別れ、ユタ達は先にホテルのタクシー乗り場からタクシーに乗り込んだ。
「カンジ。お前は前に乗れ」
「はい」
カンジは助手席に座り、あとの3人は後ろに座った。
カンジは、
「埼玉の……」
と、行き先を言おうとしたが、
「東京駅までお願いします」
ユタが打ち消すように言った。
「はい、ありがとうございます」
「稲生さん?」
カンジが目を丸くした。
「いや、もったいないからさ。まだ、電車が走ってるのに……」
「ふふ……さすがね、ユウタ君」
イリーナはクスクスと笑った。
「でも、東京駅からどうするの?」
「それは……」
[同日22:40.JR東京駅 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ]
東京駅でタクシーを降りる4人。
「父さんはタクシーで帰れとは言ったけど、タクシーだけで帰れとは言ってない。これで条件クリアだ」
「果たして、そうかな?」
ユタの言葉に、威吹はニヤッと笑った。
「何だい?」
「家の前には、防犯カメラとやらが付いているだろう?」
「あるけど?」
「カンジが前に言ってたんだが、あのカメラとやらは、ユタの御尊父や御母堂がいつでも見られるようになっているらしいね?」
「そうだよ。父さんや母さんが、ネット回線を使って自分のスマホやタブレット、はたまたはPCでいつでも見れるようになってる。それがどうしたの?」
「ちゃんとユタが言い付け通り、タクシーで帰って来たかを確認するかもしれない」
「えっ?まさか、そんなことは……」
「いや、あるかもしれないよ」
「ええー……?だけど、適当に大宮駅からタクシーに乗ったんじゃ、会社が違うからバレるよー……」
すると、料金の支払いで最後に降りたカンジが言った。
「それなら心配無いですよ」
「えっ?」
「ちょうど今、オレ達が乗って来たタクシー会社、さいたま市でも営業している所です。幸い黒塗りタクシーでしたから、大宮駅で同じ会社のタクシーに乗れば、何とか誤魔化せますよ。まさか、いちいちナンバーまで見ますかね?」
※JR大宮駅東西から発着しているタクシーの9割以上は黒塗り塗装。
「それは……そうだな」
「まあ、いざなったら、私がカメラに細工しておくから」
イリーナはニコッと笑った。
「お前は余計なことするな。余計話がややこしくなる」
「まあまあ。せっかくだから、新幹線の最終列車に乗ってみようよ。いい機会だ」
ユタが威吹を宥めすかせるように言った。
「カンジ。キップ買ってきてくれ」
「はい」
カンジは威吹に言われ、ユタからお金を預かって自動券売機へ向かった。
(僕が買いに行きたかったけど、目を離してケンカされても困るしな……)
と、ユタ。
それにしても、と思う。
(僕の取り合いで、仲があんまりよろしくないのは前からだ。だけど、急に威吹の態度がもっと悪くなったような……?)
威吹は明らかにイリーナに対し、ピリピリしている。
それに対し、イリーナは余裕の表情。そこは齢1000歳の魔道師なだけある。
カンジは本来なら威吹の側について一緒にイリーナを警戒しなくてはならない立場だが、何故か距離を置こうとしている……つまり、関わり合いになろうとしない。
一体これはどういうことだろう?
[同日22:45.JR東京駅20番線 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ]
〔20番線に停車中の列車は、23時ちょうど発、“Maxたにがわ”475号、高崎行きです。……〕
2階建て車両8両編成を2台繋いだ16両編成は、正に圧巻である。
明らかにユタの趣味であった。
〔「……全部の車両が終点、高崎まで参ります。本日の新幹線最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕
平日は通勤用列車だが、休日は行楽客が中心となるだろう。
後ろの車両の2階席に乗り込んだ。
リクライニングできず、中央席に肘掛も無いことで行楽客から(通勤客からも?)不評の部分だが、向い合せにして6人席を4人で使うと意外と広い。
「まだ少し時間があるな……。イリーナさん、カンジ君。ちょっとここで待っててもらえますか?威吹、ちょっと……」
「なに?」
ユタは威吹を呼び出して、列車の外に連れ出した。
「最近、イリーナさん達への態度が悪くなってない?そりゃ、僕に関することだっていう事情は知ってるつもりだけどさ……」
すると威吹は、
「不快にさせてしまったらゴメン。確かにユタの言う通り、ボクはあいつらには警戒してるんだ」
と、素直に答えた。
「それはどうして?」
「あいつら……特に、師匠のイリーナは、キミを魔道師にしたがっている」
「それは前からだろう?それになるかならないかは、僕の意思を尊重するって言ってる」
「恐らくそれは、キミを身構えさせないための方便だろう。いずれはキミを魔道師にさせる方向へ話を持って行くはずだ」
因みにそれに威吹が猛反対する理由は、威吹の都合による。
ユタとの盟約は、ユタが寿命で死んでからその血肉を頂くという内容だ。
しかし魔道師になってしまうと、永遠の命を手に入れることになり、いつまで経っても寿命で死ぬことはない。
それが威吹には困るので、反対しているのだ。
「どうしてそう思うんだい?」
「確信的な話をさっき聞いた。ユタの御尊父方とイリーナが話をした時だ。あいつは、『ユウタ君なら間違いなく才能ありますわ。是非とも私の所で教えてあげたいです』なんて言いやがった!」
「……ただ単に、父さん達に対する営業トークだったんじゃ?……ってか、どうしてキミ、イリーナさんの話を盗み聞きするの!」
「……ボク達の耳は、それだけ優れているんだ」
威吹は長くて尖った耳を右手で触った。
第1形態はそういう形の耳、いわゆる、『エルフ耳』と呼ばれる形状であり、第2形態で狐耳が生える。
「聞きたくなくたって、聞こえることはある」
「でもねぇ……」
「とにかく、ユタに迷惑を掛けて申し訳なかった。今度から気をつける」
威吹はユタの目をジッと見て言った。
「そ、それならまあいいけど……」
車内に戻ったユタと威吹。
2人きりになっていたイリーナとカンジだが、特段2人で何か話とかはしなかったようだ。
イリーナは魔道書に目を通していたし、カンジは夕刊紙を読んでいた。
「珍しいね。カンジ君が夕刊紙を読んでるなんて」
ユタは座席に座りながら言った。
「一般紙ならよく読んでるけどね」
「たまには別の新聞を読んでみようかと思いまして。魔境にも今はそういったマスメディアが存在するんですよ」
「何だか、人間臭いなぁ……」
ユタは苦笑いした。
そうこうしているうちに、東京駅発の新幹線で、1番遅い最終列車は定刻通りに東京駅を発車した。
ユタ達は夕食後もすぐには帰らず、ホテル内に滞在していた。
忙しい両親が今回の夕食会に参加したメンバー全員(息子も含む)、1人ずつ話を聞いたというのもあるし、
「イリーナさん、取りあえず帰って、明日に備えようかと思うんですけど……」
「ちょっと待っててね」
イリーナがリラクゼーションルームを利用していたというのもあった。
「夜も遅いので、今日はタクシーで帰りなさい。父さんも母さんも、これから成田空港へ行くからね」
「やっぱり……」
ユタの予想、大当たり。
「それでは威吹君、よろしく頼むよ?」
「任せてください」
「カンジ君はどんなこと聞かれた?」
ユタ達はロビーに座って、イリーナ待ち。
「オレが稲生さんの家にお世話になる経緯を、オレの口から詳しくということでした」
「ちゃんと説明できたかい?」
「ええ。一応は」
相変わらずポーカーフェイスを崩さないカンジ。
「お待たせー」
そこへイリーナが笑顔で戻って来た。
「遅いぞ」
威吹があからかさまに、銀色の眉毛を潜めた。
「まあまあ。今から銀座線に乗れば、上野発の宇都宮線最終に……あれ?」
「稲生さん、もしかして、ここからタクシーでそのまま家に帰れという意味では?」
カンジがそう言った。
ユタが父親からもらった現金は、20000円ほど入っていた。
「ええーっ!?まだ電車あるのに……」
「じゃ、僕達はお先に……」
「ああ。気をつけて行けよ」
後から向かう両親と別れ、ユタ達は先にホテルのタクシー乗り場からタクシーに乗り込んだ。
「カンジ。お前は前に乗れ」
「はい」
カンジは助手席に座り、あとの3人は後ろに座った。
カンジは、
「埼玉の……」
と、行き先を言おうとしたが、
「東京駅までお願いします」
ユタが打ち消すように言った。
「はい、ありがとうございます」
「稲生さん?」
カンジが目を丸くした。
「いや、もったいないからさ。まだ、電車が走ってるのに……」
「ふふ……さすがね、ユウタ君」
イリーナはクスクスと笑った。
「でも、東京駅からどうするの?」
「それは……」
[同日22:40.JR東京駅 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ]
東京駅でタクシーを降りる4人。
「父さんはタクシーで帰れとは言ったけど、タクシーだけで帰れとは言ってない。これで条件クリアだ」
「果たして、そうかな?」
ユタの言葉に、威吹はニヤッと笑った。
「何だい?」
「家の前には、防犯カメラとやらが付いているだろう?」
「あるけど?」
「カンジが前に言ってたんだが、あのカメラとやらは、ユタの御尊父や御母堂がいつでも見られるようになっているらしいね?」
「そうだよ。父さんや母さんが、ネット回線を使って自分のスマホやタブレット、はたまたはPCでいつでも見れるようになってる。それがどうしたの?」
「ちゃんとユタが言い付け通り、タクシーで帰って来たかを確認するかもしれない」
「えっ?まさか、そんなことは……」
「いや、あるかもしれないよ」
「ええー……?だけど、適当に大宮駅からタクシーに乗ったんじゃ、会社が違うからバレるよー……」
すると、料金の支払いで最後に降りたカンジが言った。
「それなら心配無いですよ」
「えっ?」
「ちょうど今、オレ達が乗って来たタクシー会社、さいたま市でも営業している所です。幸い黒塗りタクシーでしたから、大宮駅で同じ会社のタクシーに乗れば、何とか誤魔化せますよ。まさか、いちいちナンバーまで見ますかね?」
※JR大宮駅東西から発着しているタクシーの9割以上は黒塗り塗装。
「それは……そうだな」
「まあ、いざなったら、私がカメラに細工しておくから」
イリーナはニコッと笑った。
「お前は余計なことするな。余計話がややこしくなる」
「まあまあ。せっかくだから、新幹線の最終列車に乗ってみようよ。いい機会だ」
ユタが威吹を宥めすかせるように言った。
「カンジ。キップ買ってきてくれ」
「はい」
カンジは威吹に言われ、ユタからお金を預かって自動券売機へ向かった。
(僕が買いに行きたかったけど、目を離してケンカされても困るしな……)
と、ユタ。
それにしても、と思う。
(僕の取り合いで、仲があんまりよろしくないのは前からだ。だけど、急に威吹の態度がもっと悪くなったような……?)
威吹は明らかにイリーナに対し、ピリピリしている。
それに対し、イリーナは余裕の表情。そこは齢1000歳の魔道師なだけある。
カンジは本来なら威吹の側について一緒にイリーナを警戒しなくてはならない立場だが、何故か距離を置こうとしている……つまり、関わり合いになろうとしない。
一体これはどういうことだろう?
[同日22:45.JR東京駅20番線 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ]
〔20番線に停車中の列車は、23時ちょうど発、“Maxたにがわ”475号、高崎行きです。……〕
2階建て車両8両編成を2台繋いだ16両編成は、正に圧巻である。
明らかにユタの趣味であった。
〔「……全部の車両が終点、高崎まで参ります。本日の新幹線最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕
平日は通勤用列車だが、休日は行楽客が中心となるだろう。
後ろの車両の2階席に乗り込んだ。
リクライニングできず、中央席に肘掛も無いことで行楽客から(通勤客からも?)不評の部分だが、向い合せにして6人席を4人で使うと意外と広い。
「まだ少し時間があるな……。イリーナさん、カンジ君。ちょっとここで待っててもらえますか?威吹、ちょっと……」
「なに?」
ユタは威吹を呼び出して、列車の外に連れ出した。
「最近、イリーナさん達への態度が悪くなってない?そりゃ、僕に関することだっていう事情は知ってるつもりだけどさ……」
すると威吹は、
「不快にさせてしまったらゴメン。確かにユタの言う通り、ボクはあいつらには警戒してるんだ」
と、素直に答えた。
「それはどうして?」
「あいつら……特に、師匠のイリーナは、キミを魔道師にしたがっている」
「それは前からだろう?それになるかならないかは、僕の意思を尊重するって言ってる」
「恐らくそれは、キミを身構えさせないための方便だろう。いずれはキミを魔道師にさせる方向へ話を持って行くはずだ」
因みにそれに威吹が猛反対する理由は、威吹の都合による。
ユタとの盟約は、ユタが寿命で死んでからその血肉を頂くという内容だ。
しかし魔道師になってしまうと、永遠の命を手に入れることになり、いつまで経っても寿命で死ぬことはない。
それが威吹には困るので、反対しているのだ。
「どうしてそう思うんだい?」
「確信的な話をさっき聞いた。ユタの御尊父方とイリーナが話をした時だ。あいつは、『ユウタ君なら間違いなく才能ありますわ。是非とも私の所で教えてあげたいです』なんて言いやがった!」
「……ただ単に、父さん達に対する営業トークだったんじゃ?……ってか、どうしてキミ、イリーナさんの話を盗み聞きするの!」
「……ボク達の耳は、それだけ優れているんだ」
威吹は長くて尖った耳を右手で触った。
第1形態はそういう形の耳、いわゆる、『エルフ耳』と呼ばれる形状であり、第2形態で狐耳が生える。
「聞きたくなくたって、聞こえることはある」
「でもねぇ……」
「とにかく、ユタに迷惑を掛けて申し訳なかった。今度から気をつける」
威吹はユタの目をジッと見て言った。
「そ、それならまあいいけど……」
車内に戻ったユタと威吹。
2人きりになっていたイリーナとカンジだが、特段2人で何か話とかはしなかったようだ。
イリーナは魔道書に目を通していたし、カンジは夕刊紙を読んでいた。
「珍しいね。カンジ君が夕刊紙を読んでるなんて」
ユタは座席に座りながら言った。
「一般紙ならよく読んでるけどね」
「たまには別の新聞を読んでみようかと思いまして。魔境にも今はそういったマスメディアが存在するんですよ」
「何だか、人間臭いなぁ……」
ユタは苦笑いした。
そうこうしているうちに、東京駅発の新幹線で、1番遅い最終列車は定刻通りに東京駅を発車した。