報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「人間界の旅」 3

2016-11-11 19:42:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月4日14:30.天候:晴 埼玉県さいたま市 稲生家]

 翌日の出発まで稲生の実家に世話になることになったイリーナ組。
 イリーナは客間の机に座って、本に何かを書き記している。
 ロシア語でも英語でもなく、ラテン語である。
 これはイリーナが書く日報のようなもので、どのように弟子を育成したのかも書かれる。
 が、恐らく今回はどのように移動したかを書いたくらいであろう。
 尚、その中には夢日記みたいなものも書かれることがある。
 イリーナの占いには水晶球を使うものやタロットなどのベタなものの他、自身の夢占いも含まれる。

 イリーナ:(日本国内の大都市市街地に、魔界の穴が発生する恐れあり。直ちに対応願う、か……。魔界側から何とかしてもらえばいいね)

 稲生とマリアはリビングのテレビで映画を観ている。

〔「シンディ!横からもロボットが来るぞ!」「分かってるよ!食らえっ!」「おおっ!シンディのヤツ、いつのまに回し蹴り技を!」〕

 稲生:「SFアクションより、ホラーの方が良かったですか?」
 マリア:「うーん……。でもまあ、この時間、ホラーはやってないんでしょ?」
 稲生:「“私立探偵 愛原学 〜探偵のバイオハザード〜”なら、夜にやるみたいですね」

 この2人の趣味は映画鑑賞も含まれるようである。
 それまではそんなに興味が無かったようだが、いつの間にか一緒に観る機会が増えたようだ。

 イリーナは微かにリビングから聞こえる銃声や爆発音を耳にしながら、『日報』を書き終えた。

 イリーナ:(アメリカ大統領選の行方、私の夢占いだとぉ……)

[同日16:45.天候:晴 稲生家]

〔「どうするの、社長?このまま……このまま戦いを終えちゃうの?」「いや……KR団はまだ潰れていない。戦いはまだ終わっちゃいない」「その通りです。自分としても、南里先生の理念を踏み潰そうとする連中をこのままにしておいていいとは思っていません」「決まりですな。シンディ、お前に命令だ。『KR団を潰せ』」「エミリー、自分からも命令だ。『KR団を潰せ』」「了解しました!」「かしこまりました」〕

 稲生:「こりゃまた続編のありそうな終わり方ですね」
 マリア:「ダンテ一門のグランドマスター達が本気を出せば、地上からいとも簡単に消せそうな敵組織だな」
 稲生:「それを言ったらお終いですよ。それぞれには、それぞれの世界観があって……」

 と、そこへ、母親がリビングに入って来る。

 母親:「映画終わった?お父さんがね、せっかく先生方が来られたのだから、外で夕食取らないかって」
 稲生:「いいね。それじゃ、先生に伝えて来ないと……」
 マリア:「わ、私が行く……行きます!」

 マリアは急いで奥の客間に向かった。

 マリア:「師匠!師匠!」
 イリーナ:「んー?なぁに?」

 イリーナは客間のソファにもたれてうとうとしていた。
 尚、このソファはフラットにすることができ、ベッドの代わりにすることもできる。

 マリア:「今夜の夕食は外で食べるそうです!」
 イリーナ:「あら、そう。何だか恐縮だねぇ……」

 イリーナはソファから立ち上がった。

 イリーナ:「うーん……」
 マリア:「師匠、また予知夢を?」
 イリーナ:「大した内容じゃないわ。アメリカのことは、そっちを拠点にしてる方に任せればいいしね」
 マリア:「はあ……。今、勇太がタクシー呼んでます」
 イリーナ:「そう」

 イリーナは大きく伸びをした。
 足を広げると、深いスリットから長い足が覗く。
 魔法で肉体を若返らせているとはいえ、とても使用期限の迫っている肉体とは思えない。
 マリアがローブを渡すと、イリーナはすぐにそれを着込んだ。

[同日17:30.天候:晴 大宮ソニックシティ(パレスホテル大宮)]

 稲生達を乗せたタクシーがホテル前に到着する。
 今度はイリーナ組でリアシートに座るが、少し窮屈だ。
 それでも真ん中に座った稲生は両脇の魔女達に挟まれて、むしろご褒美だったようであるが。

 宗一郎:「これはこれはブリジッド先生、息子がいつもお世話になっております」

 稲生の父親の宗一郎がホテルのロビーで出迎える。

 イリーナ:「いいえ。勇太君の弟子入りに協力して頂き、こちらこそ有難うございます」
 宗一郎:「日本食レストランを予約しておいたので、こちらへどうぞ」
 イリーナ:「Спасибо」
 マリア:「師匠、肝心な時に“自動翻訳”切れてます」
 稲生:(電波状態の悪いWi-Fiみたい……)

 因みにイリーナはロシア語で、Спасибо(スパスィーバ)と言い、日本語訳すると『ありがとうございます』である。

 ホテル内の日本食レストランの、更に個室席に入る。

 宗一郎:「だいぶ日本も寒くなってきましたので、鍋料理にしてみました」
 稲生:「良かった。お寿司じゃなくて」
 宗一郎:「なに?」
 稲生:「お寿司だけなら、お昼に食べたから」
 宗一郎:「そうなのか。実は寿司も考えていたのですが、何かそれにしてはいけないような気がしたんですよ」
 イリーナ:「さすがは勇太君のお父様ですわ。第六感がよく働きますのね」

 イリーナは最初に注文したビールを注いでもらいながら、ふと考えた。

 イリーナ:(稲生家は父系の家系っぽいから、勇太君の霊力の強さはそちらからだと思うけど……。あいにくと、稲生専務からそんな感じはしないのよねぇ……)

 稲生:「僕はカシスオレンジで」
 宗一郎:「相変わらず、酒の弱い奴だ」
 稲生:「母さんだって、ウーロンハイだよ?」
 宗一郎:「チューハイの方がアルコール度数は高いだろ?」
 稲生:「そうかなぁ……?」
 マリア:(家族か。いいなぁ……)

 マリアもまたビールを口にしながら、稲生家のやり取りを羨望の目つきで見ていた。
 イリーナがこっそり耳打ちする。

 イリーナ:「アタシら魔道師が裏で世界を操るのも、引いてはこういう平和な家庭を1つでも増やす為でもあるのよ?」
 マリア:「アメリカでは、あのいけ好かない爺さんをプレジデントにするのもその1つなんですか?」
 イリーナ:「そうよ。ダンテ一門の『協力者』だからねぇ……」
 マリア:「プレジデントになっちゃったら、『協力者』も何も無くなると思いますが……」
 宗一郎:「さ、先生方、日本のすき焼きは食べたことがありますか?」
 イリーナ:「私は昔、あります。でも、マリアは初めてですわ」
 マリア:「ど、どういう感じで食べれば……?」
 宗一郎:「勇太、教えてあげなさい」
 稲生:「大した食べ方は無いんですけど……」

 イリーナは目を細めてその光景を見ていたが、しかし、宗一郎の背後から何か声がしたような気がした。

 ???:「お前も『家族』だ」

 ピシッ!とテーブルの上のビール瓶にヒビが入り、口が割れて中身が噴き出る。

 宗一郎:「わっ、何だ!?」
 稲生:「えっ!?」
 イリーナ:「!!!」

 イリーナは天井付近に消えて行く黒い影を見た。

 宗一郎:「キミぃ!ビール瓶にヒビが入ってたぞ!危ないじゃないか!」
 従業員:「も、申し訳ありません!すぐにお取替え致します!」
 イリーナ:「いえ、店側の責任ではありませんわよ」
 宗一郎:「ええっ!?」
 イリーナ:「と言っても、誰の責任でもありません。ちょっと……この集まりに際して、何らかの嫌がらせが起きただけですわ」
 宗一郎:「誰ですか、そいつは?」
 イリーナ:「いえ、大したことではありません。それより、食事が終わりましたら、専務の仕事運について占いましょうか?」
 宗一郎:「先生が世界一の占い師であることは伺っております!世界各国の要人が、先生の占いを受けて成功していると!」
 イリーナ:「世界一……かどうかは分かりませんが、とにかく勇太君の弟子入りに協力して頂いたことと、今回の御礼ですわ。どうぞ、お気になさらず……」
 宗一郎:「大変光栄です!」

 イリーナはスッと水晶球を出して、そっとロシア語で何かを喋った。
 それを日本語訳すると、こうなる。

 イリーナ:「貴様の脅しには屈しない。やれるものならやってみな」

 齢1000年強のイリーナ。
 とても長い人生の中で、『協力者』は多いが、敵もそれなりにいるのも事実のようである。
コメント (4)
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“大魔道師の弟子” 「人間界の旅」 2

2016-11-11 12:20:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月4日13:33.天候:晴 JR宇都宮線電車内→JR大宮駅構内]

 因みに稲生達が乗ったグリーン車は2階席でも1階席でもなく、あえて平屋席である。
 1階席や2階席だと荷棚が無い為、荷物のある稲生がそこを選んだという経緯だ。
 グリーン車に紙のグリーン券で乗っていると、グリーンアテンダントが確認にやってくる。
 その後でミニバスケットに入れた商品を持って車内販売にやってくるのだが、人形達が往路の特急と同じ曲芸的な動きをして、稲生に買い物を求める。

 稲生:「普通列車じゃ、アイスは売ってないよ」

 と言うと、

 ミク人形:「ちっ」
 ハク人形:「ちっ」

 と、スルスルと荷棚の上に戻るのだった。

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、右側です。新幹線、高崎線、京浜東北線、埼京線、川越線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください〕

 稲生:「おっと!そろそろ先生を起こさないと」
 マリア:「うん。師匠、『あと5分』は許されませんよ」
 イリーナ:「うーん……それなら、あと10分……」
 マリア:「それならいい……わけないです!」

〔「大宮駅9番線の到着、お出口は右側です。ホーム進入の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れることがありますので、お立ちのお客様はご注意ください。今度の高崎線は……」〕

 イリーナ:「まあ、さすがに起きなきゃダメか」
 マリア:「当たり前です。勇太が困ってるじゃないですか」
 稲生:「いえ、僕は別に……」

 稲生は荷棚から荷物を下ろした。
 その時、電車が9番線ホームに入る際のポイント通過でガックンと揺れる。
 ダイヤに余裕のある時は十分減速して進入するのだが、ラッシュ時の客扱い遅れなどでダイヤに余裕の無い時は制限速度ギリギリで進入する。
 今回は湘南新宿ラインの遅延の煽りを受けて、こちらの宇都宮線にも少なからず影響は出ていた。
 で、進入速度はギリギリ。

 稲生:「わっ!?」
 イリーナ:「!」

 イリーナがバランスを崩し、稲生の顔面に巨乳が当たる。

 イリーナ:「あらあら、ゴメンねぇ。痛かった?」
 稲生:「柔らかかったので全然大丈夫です!」
 マリア:「ほお……

 電車が到着してドアが開く。
 グリーン車の片開きドアであっても、3打点チャイムが鳴るのは普通車と同じ。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ〜、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。9番線の電車は宇都宮線、普通列車の宇都宮行きです。……」〕

 電車を降りる時……。

 稲生:「先生が僕の顔に飛び込んで来たのよりも、マリアさんに踏まれた足の方が痛いんですが……」
 マリア:「電車の揺れのせいだ」

 さっさと降りてしまうマリア。

 稲生:「いや、ポイント通過後だったと思いますが……」
 イリーナ:「まあまあ、許してあげなよ」

 イリーナは目を細めたまま微笑を浮かべた。

 イリーナ:(仲良きことは、美しき哉)

 そうなのか?

[同日13:50.天候:晴 JR大宮駅構内エキュート]

 駅の外に出る前にトイレに寄った稲生達。
 稲生はすぐに出て来たが、魔女2人はゆっくりだ。
 そのうち、イリーナが先に出てくる。

 稲生:「先生、マリアさんは?」
 イリーナ:「ああ。まだ洗面台でお化粧直しをしてるよ」
 稲生:「そう、ですか」
 イリーナ:「勇太君の家に行くもんで、念入りにやってるのよ」
 稲生:「別にいいのに……。うちの両親は、そこまで見ないですよ」

 今でこそセレブの部類に入っている稲生家。
 しかしその元手を与えたのが、実は威吹であった。
 妖狐は稲荷大明神の使いとしての顔も持つ。
 稲荷大明神と言えば、商売繁盛の神として知られる。
 もちろん妖狐全員がそうというわけではないし、威吹も実は違うのだが、ただ顔は利いたというのがある。
 里から異端者・追放者のレッテルを貼られても、人間界にまではその悪名が届くことは無かったようで、ここではいかにカリスマ性があるかどうかが問われたようである。
 つまり、代々続く旧家とか富豪ではない為、やれしきたりがどうのとか、作法がどうのというのは無いのである。

 イリーナ:「まあまあ。とにかく出てきたら、褒めてあげなよ」
 稲生:「はい」
 イリーナ:「私の占いだと、稲生君が地雷を踏む確率は50%……」
 マリア:「お待たせ」
 稲生:「ああ、マリアさん。きれいになりましたね」
 イリーナ:(踏まない確率が25%……)
 マリア:「本当か?」
 稲生:「あ、でも、ちょっとリボンが曲がってます」
 マリア:「んんっ!?」

 稲生、マリアのブラウスの上に着けているリボンタイを直す。

 稲生:「これでOKです」
 マリア:「あ、ありがとう……」
 イリーナ:(地雷を踏んでも爆発しない確率が25%かぁ……。なるほどねぇ……)

 弟子の地雷爆発を見越しておきながら、そこは注意しない師匠。
 結局、イリーナの占いだと稲生がマリアの地雷を踏む確率が75%ということになるのだが……。

 稲生:「ここからバスとタクシーがありますが、どうしましょう?」
 イリーナ:「カードが使えるんだったら、タクシーにしよう」
 稲生:「分かりました」
 イリーナ:「稲生君、荷物持ちで大変だしねぇ……」
 稲生:「いえ、僕は別に……」

[同日14:05.天候:晴 稲生家]

 タクシーが稲生の実家の前に止まる。

 マリア:「ほら、これ」
 稲生:「あっ、すいません」

 あいにくとカードが使えないタクシー会社であった為、マリアが現金を渡してきた。
 カード会社発行のタクシーチケットというのもあるのだが、アメリカン・エキスプレスでは出していない為。
 稲生は料金を払うと、トランクに乗せていた荷物を下ろした。

 稲生:「……うん。今度は魔法を掛けれているということはないですね」
 マリア:「師匠が同行しているのに、それは師匠に対する挑戦でもあるからね」

 個性派揃いの魔女達で構成されているダンテ一門だが、そんな個性派から見ても異端的なイリーナ。
 それでも大魔道師(グランドマスター)としての地位は揺るぎないものである為か、門内での顔は大きい。

 稲生:「じゃあどうぞ、こちらへ」
 イリーナ:「ありがとう。マリア、挨拶しっかりね」
 マリア:「分かってますよ」

 3人の魔道師達は稲生家の中へと入っていった。
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